目は口ほどにもない
『目は口ほどに物を言う』ということわざがあります。
しゃべらなくても、目つきでその人の感情がわかるという意味です。
『口ほどにもない』という慣用句は、「本人が話していたほど大したことない」という意味です。
では、この二つが組み合わさるとどのようなネタが生まれるでしょうか。
森の中で梨の木が白い花を咲かせていた。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、桜餅が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。ぼく、とあるサイトのニュースで見たんだけど、車いすの女性が映画館の利用を断られたとかいうのがあったの」
「子狸くん。調べりゃわかるだろうけど、その件は車いすの女性側の『無茶ぶり』の可能性が高そうだぜ。女性が観た映画は、その映画館では車いす非対応のシアターでしか上映していなくて、職員さんによる介助が必要だったんだ。『段差があって危なく、スタッフも時間があるわけではないので、今後はこのスクリーン以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですが……」というようなことを職員さんに言われて、悲しくなったらしい」
「そうみたいだね。なんで車いす用対応の映画館に行かなかったかな。職員さんに迷惑かけたら楽しく映画が見られないと思うの」
「その人とは別の障がい者の話だけど、カスハラまがいの要求をしておいて『不親切な対応をされた』『差別された』などとネットで公言する人もチラホラみかけるんだよな。まぁ、障がい者が過ごしやすい社会づくりも必要だし、街で困っている人に親切にすることは大事だけどね」
「んとね。不当や要求をする障がい者がいたら、他の障がい者のみなさんにも迷惑だと思うの」
「さて。2024年4月から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、別名「障害者差別解消法」の改正版が施行されることになった。もともとの法律では、市町村の窓口などでの障がい者への『不当な差別を禁止』と『合理的配慮の義務』があった。だけど、一般企業では『合理的配慮』は『努力義務』だったんだ。改正後は一般企業も『合理的配慮』が『義務』になる」
「え? ってことは、車いすの人が『一般席に座りたい』って言ったら、介助もしてあげなきゃ違法になるの?」
「企業側が『過剰な負担にならなければ』というものだ。障がい者側の要求が『無茶ぶり』だったら応じる必要はないぜ。どこまでが過剰かは議論の余地がありそうだし、ケースバイケースだろうけどね」
「みんなが幸せになる世の中がいいの。障がい者の人も健常者の人も、企業の人も、行政の人も」
「それでだ。「障害者差別解消法」の改正で、Webサイトの見やすさも義務化されるんだ。例えば色盲とか色弱などという人は、物の色がすべて白黒に見えたり、赤と青の区別がつかないとかいう人もいる。Webサイトの色使いを調整して、色の区別が難しい人でも使いやすい画面構成が求められるんだ」
「んとね。野生のタヌキはイヌ科だから赤色を認識できないと思うの。でもぼくは色がわかるの」
「公共的なサイトでは、目が完全に見えない人やほとんど見えない人への配慮も求められるぞ。ニュースや気象情報のサイトが該当するかな」
「え? 見えない人がどうやってホームページを利用するの?」
「『音声ブラウザ』といってな。書かれた文章を読みあげてくれるブラウザがあるんだ。リンク先になっている個所では声の種類を変えて知らせて、キーボード操作でリンク先へ移動できるんだ」
「そうなんだ。でも、文字が書かれた画像の場合はどうなるんだろう」
「そういうところでも、Webサイトの作り手の工夫が求められてくる。『画像が表示できない場合に文字を出す』っていう機能を使うんだ」
「『音声ブラウザ』って、小説サイトでは小説を全部読み上げてくれるのかな?」
「パソコンのEdgeでも似た機能はあるぞ。小説をEdgeで表示させて、本文のどこかで右クリックして『音声で読み上げる』をクリックしてみよう」
「思ったよりまともに聞こえたの。漢字の読み間違えがたまにあるけど」
「読み上げ機能は自作小説の誤字チェックにも使えるかもな。音声ブラウザはキー操作で読み上げる箇所をページの最初に戻ったりもできるんだ」
「じゃあ、目が見えない人でもそれを使うとWebサイトを利用できるんだね」
「ただし、インターネットにあるWebサイトは『上部メニュー』とか『左メニュー』などがあって、1つのページが複数の区画に分かれていることも多い。その場合、音声ブラウザでは最初の区画しか読まないこともあるんだ」
「そうなの? それじゃあ、目の見えない人はぜんぜん使えないの」
「ニュースサイトとか検索サイトなどで、文字による『広告』が入っているとそれを読んでしまって、利用者にはサイトの情報なのか広告なのか区別がつかないこともあるとか」
「まだまだ、障がい者の人に対する優しさが足りないかもね」
「ちなみにアホリアSSは、自分のWebサイトで音声ブラウザ用のコーナーを置いていたことがあるらしい。こういうのだ」
「ずいぶんとシンプルっていうか、殺風景なの」
「当時にいろいろな音声ブラウザの試用版を入手できたから、それで実際に動作確認もしたんだ。目隠しした状態でそれぞれのページがどう聴こえるかをチェックして、全ページに読み上げ時間もいれておいた」
「内容が少ない割に作るのに時間がかかりそうなの。目が見える人向けのページと音声ブラウザ用のページを分けて作るのも大変だよね」
「実際にお役所のWebサイトや企業のWebサイトでこういうのを作ろうとすると、アクセスするブラウザが何かを判断して専用のページを出す機能が必要だろうな。今後はAIを活用した視覚障がい者向けのWebサイトもでてくると思うぜ」