基地からの発進
「緊張しているかい? ゆかり?」
宙に浮かぶ小さな球のような機械。宙を浮かび、機械人形専用のパイロットスーツに身を包み始めている女性へと声を掛ける。液晶に、顔が浮かび、簡易的に表情が再現されている。機械音声ではなく、男性の声。低く、それでいて軽そうな声。人によって評価は別れる。
「バーガンディ、毎回そうやって、私の着替えを覗きたい訳?」
「やだなぁ、相棒。俺は、お前の体調が良いかどうか検査しているだけさ」
機械からの一瞬光が生じる。機械に浮かぶ顔は、邪な思いを抱いているような顔。簡易的な表情の変化ではあるが、分かり易い。彼女は、機械の言動に呆れて溜息を吐く。
「それで、体調は?」
「すこぶる良好さ、でももう少しゆかりはもう少し量を食べるべきだ。君の魅力は、増減しない。君は、パーフェクトなんだから! でも、もう少し食べる量増やさない?」
「あんたも、身体的に女性になれば、私の気持ちが分かるわ。あら、でも貴方には無理ね」
そう言って、体にピシッと嵌まるパイロットスーツの上に重ね着をしていく。彼女の好みである、パンクファッション。短いスカートに、やや厚い黒革のジャケット。つややかな金髪、つり目、桃色の瞳。勝ち気な雰囲気が常に全身に纏わり付いているいい女。
「俺は機械生命体、生涯の相棒になる為に全力を尽くす。ほら、体も喜んでる」
飛び回る機械に呼応して、ドッグの奥から大きな起動音が鳴る。ゆかりと呼ばれた女性は、僅かに笑みを浮かべる。その様子を見て、機械は彼女の周りを守る。
「こっちに笑顔を頂戴! ゆかり! 僕の生涯ホルダに収めるから!」
「いつも撮ってるでしょ? それに、これからもっと凄い事するじゃない」
飛び回る機械。バーガンディの画面に、魅惑的な顔をするゆかり。機械は、それに興奮し、画面に何度もビックリマークや興奮した顔を浮かべる。ドックを歩く彼女達に、道を空ける整備員達。彼らが来ている整備服には、共通のマーク。よく見れば、ゆかりにも不死鳥のマークが。
「今日は、ちょっとくたびれるかもね」
ストレッチをしながら、歩いて行くバーガンディとゆかり。
「大丈夫、君となら何処にでも行ける。僕が保証する。いや、僕の命を賭けて!」
「バーガンディ。貴方は、自分の体が壊れる事を心配した方がいいんじゃない? 私は少し荒いわよ」
「君なら、望む所だよ!」
バーガンディとゆかりの前に、不死鳥のマークをあしらった軍服を着ている男の軍人が現れる。厳つい顔をした男性。厳しい表情。
「今回の作戦には、危険が伴う。準備は良いか? ゆかり。情けないが、君たちにしか頼めない」
「大丈夫さ! ゆかりと僕のコンビは最強だからね! 期待してくれていいよ。基地長」
「バーガンディ君がいれば安心だ。だが、絶対はない。今回の目的地は、太平洋に存在する孤島。エドレア。衛星からの写真から、まだ完全に前線基地を構築出来てはいないだろう。だが、上空からは、地下の事は読み解けない。それに、この島には元々住んでいる原住民がいる」
「原住民と反政府勢力は癒着してる?」
「いや、まだそれを確認出来てはいない。だからこそ、ファントムの力が必要だ」
「そんなに心配しないでいいのに、蟹田基地長。私達は無敵よ」
蟹田基地長の会話を一方的に断ち切り、ドックの奥へ。そこに存在していたのは、全長十八メートル程の機械人形。通常、この大きさであれば現人類の技術では動かす事は出来ない。だが、このロボットは違う。現人類史は、彼らの登場によって変化を遂げた。
「バーガンディ、よろしく」
飛び回っていた機械が、空中で分解しゆかりを保護する為のアーマに。操縦席へと行くゆかり。そして、前方に存在していた不死鳥をモデルにした巨大ロボットファントムが起動する。赤を補色として、メインが黒の機体。機体の目に、光りが灯る。
「行くわよ! バーガンディ」
ドックの扉が、フルオープン。海の匂いと空気。人型決戦兵器改め、機工種族バーガンディ。搭乗者、改めバーガンディの妻ゆかりが搭乗。
「目的地、太平洋の孤島。エドレア。準備はいい?」
「OKさ!」
バーガンディの同意。前時代の遺産。人型決戦兵器ファントム。現在の技術は再現不可能。そして、人格を得た超兵器は、一人のパイロットだけを乗せる。人格を持った兵器とパイロットは一生を供にする。
「健闘を祈る」
スピーカーから発せられた、基地長の言葉。人型決戦兵器ファントムは、飛行形態へと移行。滑走路に進入。人間によっての案内開始。スピードを高め、空中へと飛び立っていった。