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異世界の休日


「剣筋が乱れている、もっと集中しろ!」

 教会の中庭にアルの声が響き渡る。

 時刻は早朝、大体6時頃だろうか。ともかくめっちゃ眠い。

 そんな朝早くから、俺が何をしているのかというと・・・

「フッ! せッ!! ハッ!」

 ただひたすらに、ショートソードを振るっていた。

 この世界に来てから早一ヶ月、俺は毎日朝早くからこのようなことを繰り返している。

 その理由は——

「そんな剣では、街の外に出た途端にお陀仏だぞ!」

 ——とのことだ。

 コボルトと初めての戦闘を終えてから、アルの提案で朝の訓練を行っている俺だったが、正直に言ってこいつの訓練はスパルタすぎる。

 朝5時ぐらいに起こされ、まずは10キロほどのランニング。これは元の世界でも毎日おこなっていたからそれほど苦じゃなかったが、その後の筋トレと、剣の素振りがキツイ。今行っているのは、訓練の締めである剣の素振りだ。

 意外にもアルは、短剣術にも長けていたため、学べることが多い。

「どうした!? 速度も落ちているぞ!」

 そうは言っても、この訓練が終わった後にはクエストが控えているから、無駄な体力は使いたくないんだよな・・・。

 ・・・この一か月、訓練と共に俺は毎日コボルト討伐のクエストをこなしていた。

 場所はお決まりの『魔獣の森』だ。

 ちなみにこの魔獣の森というのは、俺が初めて転移してきた森であり、初めてコボルドを討伐した場所でもある。

 この町の、山を挟んで反対側に広がる森だが、魔物が無数に存在するためこの名前なのだとか。

 俺とアルは毎日魔獣の森に来ては、コボルドを討伐している。

 まあ、討伐と言ってもほとんどが不意打ち(バックスタブ)の奇襲がほとんどで、正面戦闘はほとんどしていない。

 正面戦闘になりそうになった時は、必ずアルが割り込んでくるのだ。

 なんでも『正面戦闘? ハッ、バカを言うな。お前には百年早いわ!』とのこと。

 アルは訓練はスパルタなのに、変なところで過保護になる。

「呼吸が乱れるのは、正しい姿勢ではないからだ! 前に教えただろう!」

 休むことなくクエストをこなした俺たちは、それなりに収入を得ていた。

 金額にして7620ゴルド。

 この町で一回食事をするのに、百ゴルドも掛からないため、それなりの稼ぎだろう。

 そうそう、この世界の通貨は『ゴルド』と言うのだ。

 銭貨が一ゴルド、銅貨が十ゴルド、銀貨が百ゴルド、金貨が千ゴルド、そしてレアな大金貨が一万ゴルドの価値になる。

「おい、先ほどから反応がないが、聞いているのか・・・?」

 一応言っておくが、別にこの一か月遊んでいたわけではない。ギルドの方には毎日顔を出している。それもクライネ姉妹に会うためなのだが、いまだあの二人には会えていない・・・。

 カルスが言うには、クライネ姉妹はあまりギルドに顔を出さないらしい。

 そのため、俺が今やれることはクエストや特訓に限られるのだ。

「おい、聞いているのか?」

 クエストを毎日こなしているうちに分かったことがある。俺のアビリティのことだ。

 俺のアビリティの効果はやはり、文字通りに言葉で相手を騙す事だけではない。

 俺のアビリティ本質は、行う行動すべてに対し、偽る効果を発揮することだ。

 例えばフェイントだが、初めてコボルドに行った時、面白いくらいに引っかかった。これは偏にアビリティのおかげだ。

 そして、コボルドを狩るときに必ず発動させる『忍び足(スニーキング)』だが、これがアビリティとの相性が抜群だった。おそらく足音を偽るという行為に似通ったところがあるからだろう。

「おい!」

 そしてコボルドを狩ることに何の抵抗も感じなくなった頃には——


 ———俺のレベルは3まで上がっていた。


キリヤ・ケイ  LV・3

 力 F360

 速 F370

 防 F215

 智 F460

 魔 F150

 アビリティ 《虚言》———言葉や行動の信憑性を上昇させる。


 ——と、こんな感じでステータスは初期のころに比べてほぼ倍近くになっていた。

 改めて実感したが、レベルという概念はもはや反則に近い。地球の基準だと、俺はもはや化け物レベルの身体能力と言えるだろう。だがそんなおれでもこの世界ではいまだ雑魚扱いだ。

ほんと、この世界はイカれてやが———

「——ふんっ!!」

「グボッッ! ・・・ってェなコラァ!!」

 突如俺の鳩尾にアルの拳がめり込んだ。

「訓練中にボーっとしている奴があるかっ!」

「だとしても、他にも注意の方法があるだろうがっ!!」

「うるさいっ!! 声なら何度もかけたが、貴様が無視していたのだろうが!! そんなだから貴様は万年恋人無しなんだ!!」

「だから勘で人の秘密を暴くの止めろっつってんだろ! 地味に傷つくからソレ!!」

 そんな感じで俺とアルのケンカが始まる——と言ってもこれもほぼ毎日の事だ。

・・・最終的に俺がボコボコにされるところを含めて。

 そして、いつも通りアルのげんこつで俺が沈んだことで、今日の訓練が幕を閉じた。


    ♢


「ハアァァァァ・・・それにしても・・・飽きた。コボルド退治」

 軽く疲労感が漂う俺のつぶやきが、部屋に響く。

 時刻は朝の7時。顔洗いや歯磨き、朝飯を終えた俺は、クエストの準備をするために、アルと寝室に戻っていた。

「飽きたとはなんだ。いつも言っているだろうが。何事も基礎が大切だと」

 アルがあきれた様子で俺を諭そうとする。このやり取りも今に始まったことではない。

「そうは言っても、疲れたんだよ。もう一か月だぜ? 休日もなしに毎日来る日も来る日も、コボルドを狩り続けて。これで飽きないってヤツのほうがおかしいだろうが」

「ハンッ! つい最近まで剣を握ったことのなかった奴が何をぬかすか。そういう戯言はもう少し剣の腕を上げてから言うのだな!」

 剣を握ったことのない奴と言われても、一か月あればある程度の動き方はわかる。

ちなみに、この世界の文字の読み書きも一週間でマスターした。これも俺が天才たる所以———と言いたいところだが、実際ひらがな50字が、別の文字にすり替わっただけのような感じだったので、威張れるほどではない。

 詠唱の方も同様に覚えたのだが、俺の魔力が低いせいなのか四節以上の詠唱を詰め込むと、魔法が失敗してしまう。

 なので結局は、最初にゼフから教わった詠唱の構成がベストだと気づいた。

 だがそれにしても、剣の腕を上げろ・・・か。

俺は腕を組むと大きく鼻を鳴らした。

「フンッ! それが驚くことなかれ、すでに俺は『短剣』スキルを入手してるんだよぉ!」

 ここぞとばかりに最大のドヤ顔を浮かべる俺。

 実はちょうど昨日、何気なく自分のステータスを見ていたところ、『短剣』スキルが発生していることに気づいたのだ。

 これこそ毎日アホみたいに剣を振るってきた成果だろう。

「何? それは本当か? まさかサボりたくて嘘を吐いているわけではなかろうな?」

 アルは眉を顰め、俺の顔を覗き込んでくる。そして——

「・・・まさか本当スキルを獲得しているとは・・・少し追い込みすぎたか・・・?」

 もう少し疑われると思っていたのだが、意外にもすんなり信じてもらえた。

 一瞬瞳が光った気がしたが、おそらく気のせいだろう。

「そうだな、剣術系のスキルを手に入れてたのなら、今日は休みでいいだろう」

「え、いいのか?」

 休日になるのはありがたいが、なんか気持ち悪いな。急にやさしくなるとは・・・。

「元々今日は用事があってな、クエストの方も早く切り上げようか考えていたのだ。だから今日はゆっくり休むといい」

「そういうことならありがたく休ませてもらうわ」

 よし! 今日は一日中ゴロゴロするぞ!

「ああ、明日からのことに備えておくのだな。それでは私はもう行くぞ」

「そういや、どこに行くんだ?」

「少し騎士ギルドの方へな。昔の知り合いに、どうしても指南してほしいとせがまれてしまってな」

 休日まで働くとは、コイツは社畜の才能があるな・・・。

「そうか、頑張ってくれ」

「ほう、意外だな。お前に気遣われるとは思わなかったぞ。それではな」

 微妙に失礼なことを言い残し、アルは部屋を後にした。

 残された俺は、一直線に布団へ倒れこむ。約一か月ぶりの惰眠だ。十分に貪ってやる!

 そう固く心に決める俺であったが、突然のノックの音で、数分と経たず体を起こした。

「キリヤお兄ちゃん! アルのお姉ちゃんに聞いたんだけど今日は休みなんでしょ! だったら、みんなで遊ぼー!」

「「遊ぼー!!」」

「失礼します」

 返事をする前に、ケイン、マールとネリアが部屋へ突撃してきた。少し遅れてシルカも一緒だ。

「おいおい、勘弁してくれよ・・・久々のオフだぜ? 何が悲しくてお前たちの相手をしなきゃいけないんだよ・・・」

「えー、いいじゃん遊ぼうよー!」

「「遊ぼうよー」」

 ケインの元気な声と、マールとネリアのステレオな声が惰眠へと向けられた俺の頭を刺激する。ほんと、なぜこんなに気に入られているのか・・・。

「こらこら、キリヤさんを困らせてはいけませんよ? 後で私が遊んであげますから、今日は我慢しなさい」

 一番年長者のシルカがみんなを諭してくれた。まだ十三だというのに、かなりしっかりしている子だ。

「はーい・・・」

「「はーい・・・」」

 もう少しごねると思っていたのだが、妙に物分かりがいい。

 いや、今回だけに限らずここの子共たちは、妙に物分かりが良すぎる節がある。良く言えば大人びている。だが、悪く言えば子供っぽくないのだ。

「妙にみんな物分かりがいいんだな」

 部屋を後にするケインたちを見送った後、部屋に残っていたシルカに聞いてみる。

「ええ、確かにみんないい子ですよね。私も初めて会ったときには、みんな良い子過ぎるなと思ってました」

 ・・・お前もだけどね。

「・・・シスター・ネールに聞いたんですが、あの子たちは親に捨てられたそうです」

 突如打ち明けられた真実に、反応に困ってしまった。

「きっとそのせいなのかもしれません。もしかしたらあの子たちは、わがままを言ってしまったら嫌われて、また捨ててしまうと思っているのかも・・・」

 さすがに考えすぎ・・・とは言えないな。

 なにせあれだけ小さな子供なのだ。そんな飛躍した思考にたどり着いてしまうのもあり得ない話ではない。

 まったく、どこの世界にもろくでもない親はいるもんだな。

「シルカも十分良い子過ぎると思うけどな? その、なんだ、お前も親に?」

「いえ、私は両親が流行り病で死んでしまって・・・・。身寄りがなかった私を、シスター・ネールが引き取ってくれたんです」

「・・・そうか」

「だからかもしれませんね。いまだにあの子たちと距離を感じてしまうのです」

 確かに、親の愛情を受けた者と、受けられなかった者には大きな違いがある。

 そんなシルカの悲しそうな横顔をなんとなく眺めた俺は、無意識のうちに声をかけていた。

「そうか・・・なら俺と同じだな」

「え?」

「俺もお前と似たようなもんだ。まあ俺の場合親の顔は覚えてないけどな」

 軽い笑みを向けシルカに向けた。我ながら似合わないことをしている自覚はある。

「フフ、そうですね。仲間ですね」

 クスっとシルカも笑顔を浮かべる——まあ、たまにはいいか。

「よっ、と」

 俺は体を起こすと、扉へ向かう。

「寝なくていいのですか?」

「いいよ、別に」

 そう言うと、シルカと共に一階へと降りた。ケインたちは何をして遊ぶか相談中のみたいだ。

「おい、何して遊ぶか決めたのか?」

「キリヤお兄ちゃん! 遊んでくれるの!?」

「しょうがねぇから特別に遊んでやるよ」

「でも、疲れてるんでしょ?」

「「でしょ?」」

 上目遣いで、こちらを覗き込むようにしてくるケイン達。

 まったく、子供のくせにこういうところが気に入らない。

「ガキのくせに、いっちょ前に気なんて使ってんじゃねーよ。もう遊んでやるって言っちまったんだ。こうなれば意地でも遊ぶぞ、俺は」

 自分でもらしくないことは分かっている。基本的に俺は他人にやさしくできない人間だ。

 そう、だからこれはきっと気まぐれだ。極悪人がたまたま蜘蛛を見逃す様な。

 ・・・俺は虫嫌いだけど。

 あとはまあ、一度やると言ったことはやり通す主義だしな。

「「「やったー!」」」

 それにこんな手放しで喜ばれると、さすがの俺でも悪い気はしない。

「キリヤお兄ちゃんは、シスター・ネールとかシルカお姉ちゃんと違って、本気でやって、負けるところが好きー!」

「「ねーっ!」」

 ・・・・・・・このクソガキ!

 別に俺は本気でやってるように見せてるだけだし? いつもほんと九割くらいでしか遊んでやってねーし? まあ言わないよ? 別に言わないけどさ、大人だし。決して制約が怖いわけではないからね? ほんとだよ? ビビってねーしっ!!

「キリヤさん? 急に固まりましたけど、やっぱり疲れてるんじゃ・・・?」

「何でもない、さっさと遊ぶぞ」

 こうして、俺は貴重な休日を潰したのだった。


「ふ~~~っ」

 二時間後、俺は教会の庭に腰を下ろす。

子供たちは遊び疲れたのか、昼食を食べると眠ってしまった。

暇になった俺は、いまさら眠る気にもなれず、庭で空を眺めていた。昼下がりの午後。空は快晴で澄み渡っている。町の壁のせいで日陰になっているが、いい空だ。

 こうした何をするわけでもなく、ただボーっとする時間は意外と嫌いではない。

「子供たちの相手、ありがとうございました。みんな喜んでましたよ」

 カチャカチャと音を立て、シスター・ネールがお茶を運んできてくれた。

 俺は礼を言うと、しばらく一緒にお茶を楽しんだ。

 何気ない世間話をしながら、お茶で喉を潤し、吹き抜ける風を肌で感じる。

 この世界に来てから初めてと言っていいほど、平和な時間だ。

「では、私は薪を割らなければいけないので」

 そんなまったりした時間もあっという間に過ぎ去り、シスター・ネールは腰を上げる。

 薪割りといっても、シスター・ネールは結構いい年のはずだ。

 今まで男手がなかったこともあるだろうが、さすがに老人には堪える作業だろう。

 そう思い、なんとなく俺はスター・ネールへ向けて、『能力(ステータス)鑑定(チェック)』を発動させた。

「———ゲッ?」

 思わず俺の口から驚愕の声が漏れる。

 だが、それも仕方のない事だろう。何せシスター・ネールの鑑定結果は『Unknown』とだけ表示されていた。 

——『Unknown』と言うのは、全ステータスが自分より二つ以上ランクが上の場合のみに表示されるものだ。

 つまり、シスター・ネールは、最低でも全ステータスがD以上ということになる。

 ちなみに俺が今まで見た中で、この表示がされたのはアルとソレスだけだった。

「どうかされました?」

「どうかしたものにも、あんためっちゃ強いじゃん!」

 思わず叫ぶ俺を見て、シスターネールはいたずらに笑う。

「もしかして、覗いてしまいましたか? キリヤ様もいけない人ですねっ」

「やかましい。それよりなんだよ、そのステータスは! そこら辺の奴よりよっぽど強いじゃねえか! なんでシスターなんかやってんだよ」

 俺の八つ当たりともとれる声に、シスター・ネールは小さいため息を吐く。

「まったく、アルレス様といいキリヤ様といい、レディーの秘密を除くなんて、もう!」

 年を考えると少々キツイが、シスター・ネールは頬を膨らませる。

「まあいいでしょう。覗かれたついでです。老人の暇つぶしに、昔話にでも付き合ってもらうとしましょう」

 シスターネールは再び俺の隣に腰を下ろし、お茶を入れなおした。


    ♢


「こう見えて私は、とある小国の王に使える騎士だったのです。それも近衛騎士団の副団長ですよ? 結構すごいでしょう?」

 この世界の役職についてあまり詳しくないが、おそらく並大抵の事だけはわかる。

「日々迫りくる魔物の盗伐や、ならず者たちの捕縛、そして領土の拡大。日々戦いの毎日で、暮らしも貧しかったのですが、それでも私は満ち足りていました」

 当時のことを懐かしむように、シスター・ネールは目を細める。

「だって戦うことしか能のなかった私が、いつか国王陛下に認められ、国中の人に感謝をされていたんですよ。満たされない方がおかしいでしょう? あっ、ちなみに私の追っかけなんかもいっぱいいたんですよ。モテモテだったんです!」

「つまり俺と同じってことか。わかるぞ」

「え、あ、そ、そうです・・・ね? ハイ」

 妙に引っかかる反応だが、いちいち突っ込んでいたら話が進まない。

「ともかく、当時の私は誇らしい気持ちでいっぱいだったのです。私がこの国の幸せを守っているって。当時は本気で思っていたんですから・・・」

 そこでシスター・ネールの表情が曇る。

「何かあったのか?」

「ある子が死んでしまったんです」

「それは・・・戦いに巻き込まれてとか?」

「いいえ。ただの栄養不足です」

 そこまで聞くとなんとなく予想はつく。

「・・・貧困か?」

俺の問いかけに、シスター・ネールは静かに頷く。

「その子は私が凱旋するたびに、まるで英雄を見るような目で見ていた子です。時々手を振り返すと本当にうれしそうな顔をしていました。その子の笑顔を見るたびに私は誇らしい気持ちでいっぱいでした」

 その時の様子を思い浮かべたのか、シスター・ネールは軽く微笑む。

「でもある日を境に、その子は姿を見せなくなったのです。後にその子が亡くなったと聞いたときは、目の前が真っ暗になりました」

「・・・どんな天才だろうが人間は万能じゃない。助けられないことだってあるさ」

「いいえ。助けられたはずなのです。だって私は知っていたのですから。あの子の姿を見れば誰だってわかったはずです。貧困に苦しんでいたことなど。でも私は知っていて見てみないふりをしたのです。そしてあの子に手を差し伸べなかった」

 今でも悔やんでいるのか、シスター・ネールは顔をしかめる。

「結局私は何も救えてなどいなかったのです。このまま戦っていればいずれ貧困もなくなる。そうすればいずれあの子も救われる・・・なんて都合のいい言い訳をしていただけで」

 ・・・おそらくシスター・ネールは一時的にはその子供を救えたのだろう。

 いくら貧困が激しい国とは言え一国の近衛兵、それも副団長ともなれば食べ物には困らないはずだ。そのうちの少しを分け与えれば一時的には凌げたかもしれない。

 だが、それもただのその場しのぎだ。一人を特別扱いすれば必ず角が立つ。

 もしかしたらその子も、それ以上にひどい目にあっていたかもしれない。

 だから時間は掛かろうが、根本から国を豊かにしようという考えも、決して間違いではないはずだ。

「気づいたときには、騎士を止めていました。きっと国と言う大きなものを守るより、目の前の誰かを助けられるようになりたいと、そんな浅はかな考えからです」

 そしてその考え抜いた答えが、この遠い町で孤児院を開くということだとシスター・ネールは語った。

「それでもきっと私の行いは、自己満足にすぎないのでしょうね。結局のところ私は、あの時見捨ててしまった子の代わりに、あの子たちを助けているだけなのです。本当の意味であの子たちを救えていないのかもしれません。ほんと、何処まで行っても愚かですね」

 またも自分を責めるような言葉を吐く彼女を見て、俺は気まぐれに言葉を紡ぐ。

「・・・いいだろ。別に自己満足でも」

「えっ?」

「理由はどうあれ、結果的にあのガキどもを救えたんだろう? 結果がすべてって言葉知らねえのかよ」

「でも、それは・・・」

「あいつらにとってはその事実だけでいいんだよ。上辺だけの言葉を並べる奴だけじゃなく、理由はどうあれ実際に動いてくれた人間がいた。その事実があいつらにとっての救いなんだ。あいつらは十分あんたに救われてるよ。証拠にあんな生意気に育ってやがる」

特にケイン。

「それにどこかで間違えてたら、俺みたいなへそ曲がりになってるだろうしな」

 シスター・ネールどこか意外そうな顔で、俺を見つめてきた。

「・・・フフッ、キリヤ様も十分いい子ですよ」

 次の瞬間には笑みを浮かべ、再び腰をあげた。

「さて、年寄りの昔話に付き合ってもらいありがとうございました。それでは巻き割と、買い物の方へ出かけますね」

「いいよ俺がやる。どうせ暇だしな」

「え、いや、でも、せっかくの休日ですし・・・」

「あんたには借りがある」

「別に部屋をお貸しているのは、さっき言った通り私の自己満足ですよ?」

「そのことじゃない。俺が言ってるのは独房でのことだよ」

「独房? はて、何のことやら・・・」

「とぼけなくていいよ。尋問の時わざと、俺が有利になるようにしてくれただろ?」

 実際あの時、シスター・ネールの質問はな抽象的なものが多かった。

 特に最後の質問。『コボルドに襲われたか?』と問われたから助かったが、俺の証言通り『コボルドに身ぐるみを剥がされたか』と問われれば嘘になり、余計ややかしくなっただろう。

「大方、聖書に女神の騎士の特徴でも書いてあったんだろ?」

 そう問いかけると、シスター・ネールはいたずらな笑みを浮かべた。

「さて、黒髪に全裸で、肩にセレナーテ教の紋章が入っていたなんて、書いてありませんでしたよ?」

「やっぱ知ってたんじゃねえか。俺の疑いが晴れるよう、具体性に欠ける質問に切り替えたってところか。あんたも悪い人だな」

「フフッ、でもそれを貸しだと思ってません。全部私の自己満足です」

「だったら俺の自己満足にも付き合てくれ。俺は他人に借りがあると、残尿感で夜も寝れねえんだ」

 事実俺は、借りを作ることが大嫌いなのだ。

『俺ルール』にも『他人に借りを作った場合必ず借りを返す』という項目があるからな。

「これは一本取られましたね。ではお言葉に甘えるとしましょうか」

 そうして俺は薪割り用の斧を、シスター・ネールから受け取るのだった。


    ♢

 

「さてと、食料店はどこだ?」

 薪割りを終えた俺は、シスター・ネールにもらったお使いメモを手に街を歩いていた。

 一か月も経つと広大な街の構造も大体だが把握できる。

 この街は面白いくらいに分かりやすく区画が分けられていた。

 まず俺達が居候している教会があるのは、街の南側だ。

 南側は平民の居住地となっており、数ある住居が並んでいる。

 反対に山の麓の北側は身分が高い者、いわゆる貴族や金持ちの居住スペースとなっているようだ。何でも山の斜面に立っている一番でかい建物には、この町の領主が住んでいるらしい。

 そして俺が今向かっている東側は、日用品から、食料、武器や防具まであらゆる物が売っている商店街だ。戦闘ギルドも東側に密集している。

 最後に西側だが、商業ギルドが密集しているほかに、良くない噂が存在している。アルに聞いた話だが、西側には家を持たないもの、つまりは浮浪者のたまり場になっているそうだ。娼館や犯罪ギルドも存在しているらしく、この街で一番治安が悪いところらしい。  

 アルにも西側には近づくなと言われた。

 男としては娼館は非常に気になるが、トラブルにでも巻き込まれたりしたら、俺ではとても切り抜けられないだろう。残念ながら自重するしかなさそうだ。

 そうくだらないことを考えているうちに、目的の食料店についた。

そして目的の物を無事、購入した俺は再び来た道を戻る。

「——剣が無ぇってどうゆうことだ!!」

「しょうがねぇだろうが! 最近行商ギルドの野郎どもが買い占めちまってるんだよ!」

 途中武器屋のオヤジと、客らしき男がもめている声が聞こえてくる。

 そういえば最近アルも、剣を買うことができないとかぼやいてたっけ?

 あいつが剣を使っている所なんて見たことない気がするが、まあどうでもいいか。

 そして、教会も近くなった時だった。なんとも意外な顔が俺の前に現れた。

「——むっ、キリヤケイ!」

「ソレスか、久しぶりだな」

 仕事の帰りか、それともその途中なのか、偶然にもソレスと出くわした。 

 こうしてソレスと顔を合わせるのも、実はそんなに珍しい事ではない。今までも何回かあったことだ。

 ——だが今日のソレスは様子がおかしい。俺を見つけるや否や一瞬で距離を詰めてくると——

「おい、貴様!」

「グエッ!」

 何を思ったのか、突如ソレスが俺の胸ぐらをつかみ、近くの壁に押し付けた。

「痛ッてェ! ギブギブギブギブ! なんだよ! 突然どうした!?」

「アルレス様とパーティーを組んでいるというのは本当なのか!?」

 い、意味が分からん! でも一応アルと俺はパーティーということになるのか?

「それがなんだよ!」

「・・・本当なんだな」

 俺の答えを聞き、わかりやすく肩を落とすソレス。

「いったい何なんだよ・・・」

 状況が呑み込めず、途方に暮れる俺に、ソレスはぽつりぽつりと話始める。

なんでも今朝アルが言っていた、指南を頼んできた知り合いと言うのがソレスなのだとか。その際に、アルが俺とパーティーを組んでいると聞き、俺に絡んできたそうだ。

「そんで、なんで俺がキレらなきゃなんねえんだ・・・?」

「だって、あのアルレス様だぞ!? 羨ましすぎるぞ!」

 心底恨めしそうに俺のことを睨みつけてくる。

 なんだか分からないが、ソレスがアルに強いあこがれを持っていることは分かった。

 口調が似ているのも実はそういうところが理由だったりしてな。

「そんなに羨ましい事なのか?」

「ハアッ!? 貴様まさか知らないのか!?」

 ソレスは信じられない者でも見るかのような目を向けてきた。

「自慢じゃないが、俺はこの世界の全てのことにおいて詳しくない。何、あいつそんな有名人だったの?」

「まったく、呆れるのを通り越して殺意すら覚えるぞ。アルレス様と言えばあの聖——」

 ソレスが何やら必死に説明し始めようとした。

 だがその瞬間、俺の視界の端に探し求めていた人物の一人が映る。

頬に傷を持つ青髪の美女——————リンだ。

「——おい、ちょっとこれ頼む」

「え、あ、ちょ——」

「この先の教会まで届けといてくれ。いいな、忘れんなよ。ガキどもが泣くからな」

 俺は買い物袋をソレスに押し付けると、人ごみの中に紛れたリンの後を追いかけた。

 なんとなくデジャブを覚えながらも、必死にリンを呼び止めようとするが、雑踏の音にかき消されてしまう。ちょうど帰宅時間に当たっているためか、人通りが多い。

「クソっ!」

悪態をつきながらも必死に後を追うが、しばらく進んだところで見失ってしまった。

 疲れた俺は、道の端により壁によりかかった。少々遠い所まで来てしまったようだ。

 ふと周りを見渡すと、俺以外にも道の端により座り込んでいる人が何人もいる。それに道行く人たちがどことなく、ガラが悪い。

 これらの要素から考えるに、どうやら俺は西側の区画にまで来てしまったみたいだ。

 一体、なぜこんな場所にリンは来たんだ・・・?

 家がここにあるという可能性もあるが、それにしてはレナと女二人で、治安の悪い区画に住むのは、些か不用心ではないだろうか。

 まあ、バラムに後を任せられるということは、リンは結構強いのだろうけどさ。

「ゲッ、変態君じゃん・・・」

 突如聞こえた聞き覚えのある声に、あたりを見渡すと意外も意外、なんと俺が探している人物の内のもう一人の人物、レナが立っていた。

 あまりにも偶然な出会いに、驚きを隠せない。

「ちょっと変態君? 無視とかありえないから」

「まさかとは思うが、そのヘンタイクンとやらは俺の事じゃないだろうな・・・?」

「あんたに決まってんじゃん。だってこの前私の後をつけてたんでしょ?」

「それには深いわけがあんだよ」

「いや、人の後をつける理由とか何? 普通にキモいんですけど・・・」

 ・・・なんだろう、このクラスに一人はいそうなギャルみたいな雰囲気。微妙に懐かしいなぁ・・・早く元の世界に帰りたいなぁ・・・。

「急に遠い目をするなし。マジでキモいんだけど」

「おい、あまりキモいを連呼するな。危うく傷つきそうになるだろうが」

 それにしてもなんという幸運だ。リンを見失った時はもうダメかと思ったが、これは誤解を解くチャンスかもしれない。

「なあ、ちょっと頼みがあるんだが・・・」

「・・・なに?」

 ここはあまり警戒されないよう、慎重に事を進めるとしようか。まずは何気ない会話だな。

柔らかな笑みを浮かべてと、とりあえずは軽いジャブ程度に———

「———今からお前の家へ行ってもいいか?」

「あんた頭イカれてんの?」

 ——ア、アカン!! ジャブどころかおもくそストレートを振り抜いてもうた。

 クソッ、これじゃあまるで俺がモテない男みたいじゃないか!!

「じょ、冗談だ。とりあえず誤解を解いておきたいから、話せる場所にでも行かないか?」

「ええ~、移動した途端に襲われそうだからイヤなんですけど・・・」

「うぬぼれんな。俺のタイプは年上で、一生養ってくれそうな美人さんだ」

「ただのクズなんですけど」

「ともかくだ。話をしよう。お前の姉貴にも関係があることだ」

「———お姉ちゃんに?」

 今までイヤイヤな雰囲気だったのに、姉のことを持ち出した途端、空気が変わった。

 そして——

「・・・わかった。話くらい聞いてあげる。でも場所はアジトにして。多分カルス君がいるから安心だし」

「いいぜ。じゃあ行こうか」

 こうして俺は、レナとの話し合いの場を設けたのであった。


レナの要望通り、30分ほどかけてアジトへたどり着いた俺達だったが、レナの予想とは違い、今日は珍しくカルスの姿はなかった。

「どうする? 場所を変えるか?」

「いや、めんどうだからここでいい。それで話したいことってなに?」

 カルスがいなかったためか、少々警戒度を高めたようだ。

 まあ、俺が襲い掛かろうと、ステータス差で返り討ちにされそうなんだけどね。

 それは置いとくとして、まず警戒を解くために、俺の正体を明かした方がいいか。

「単刀直入に言うが俺は、『女神の騎士』なんだ」

 自分で女神の騎士と言うのに、若干恥ずかしさを覚えたが、そこはグッと飲み込んだ。

 しかし——

「女神の・・・何?」

 レナの反応は微妙なものだった。

「女神の騎士だよ」

「だからそれはなに? もしかしてそういうお年頃?」

 再びキョトンとした表情を浮かべるレナ。

 ・・・もしかしてコイツ。

「お前聖書見てないだろ?」

「聖書? あ~、確かに最近読んでないけど。それがどうしたの?」

「見ろよッ!!」

「見ろって言われても、今私聖書持ってないんだけど・・・」

「マジかよ・・・」

 しょうがないので、俺はポケットから聖書を取り出すとレナに見せ、最初から女神の騎士のくだりを説明することにした。

 ——約一〇分後。

「————ってことだが、わかったか?」

「まあ、なんとなく? つまりキリヤは、セレナーテ様のパシリってことね?」

「その表現は些か納得がいかないが、平たく言えばそんなところだ」

「それで、願いを叶えてもらえる者に私が当選したと」

「つまり、そういうことだ・・・ったく、聖書くらい見とけ」

「ええ~、だって女神をたたえる変な歌とか、変な教えしか書いてないんだもん。お知らせだって特に面白い事書いてないし、つまらないんだよねー」

 あの金髪泣くぞオイ。

「それで、願いの方を詳しく聞いていいか?」 

 金髪からは、その辺のところフワッとしか聞いてないからな。

「願いって言われてもなぁー。願い事なんて毎日してるし・・・あっ、お金持——」

「それは不可能だ。ほかの願いをいえ」

 金なら俺も欲しい。

「ええー・・・そもそも願いを赤の他人に言うっていうのもなぁ・・・」

 ・・・まあ、確かに他人に願いを教えなきゃいけない道理はない。

 だが、それではいつまで経っても俺は元の世界に帰れないのも確かだ。

 しょうがない、脅しをかけるか。

「そういえば言い忘れてたが、女神の騎士に願いを言わなければ、セレナーテからひどい神罰が下るらしいぞ?」

「えっ、何それ怖い・・・。と言うかセレナーテ様最低じゃん」

 次の瞬間、俺の股間に過去最大の痛みが走る。何か金髪が起こっている絵が頭に浮かんだが、俺は鋼の精神でポーカーフェイスを決める。伊達にこれまで制約による、あの世を見ていたわけではない。

「ホラ、なんというか、姉貴のことで頼みとかねえのか?」

 埒が明かなそうなので、脂汗を浮かべながらどことなく本題に触れてみる。

 するとレナはどこかバツの悪そうな顔をした。

「・・・やっぱ、知ってるカンジなんだ? セレナーテ様から聞いてた?」

「詳しくは聞いてないが、姉のことで何か願いがあるとかなんか言ってたな」

「そっか・・・・・・・じゃあ隠しても仕方ないね」

 そういうと、しばらくレナは黙り込んだが、やがて少しずつ話始めた。

「最近ね、お姉ちゃん何か思いつめたような顔をするんだ。私が聞いても、『何でもない』っていうんだけど。あんなお姉ちゃんは初めて見たからさ、なんか不安なんだよね」

「不安って?」

「なんか、ただの妄想なんだけど・・・私の元からいなくなっちゃうんじゃないかって」

 どこか子供じみた表情を浮かべるレナを見て何故か、俺はケイン達の顔が浮かんだ。

「実はさ、本当の姉妹じゃないんだ。私たち」

「・・・そうだったのか」

 まあ、やっぱり似てないもんな。

「なんか、遠い土地で捨て子だった私を、お姉ちゃんは子供ながら育ててくれたんだってさ。私が小さい時だったから、憶えてないんだけどね」

 レナとリンは、あまり年が離れているようには見えない。ということは、リンは本当に小さい時から、レナを育てていたということになる。

 そう考えると、すげえな。あの姉ちゃん。

「・・・・・最低・・・だよね?」

「あ? なんで?」

「だって、そんな優しいお姉ちゃんが、私のことを捨てるかもなんて考えてるんだよ、私。普通に考えて最低じゃん・・・」

 そういうと、唇をかみしめるレナ。

「でも、私にとってお姉ちゃんが全てなんだよ」

 ああ、そういうことか。

 レナと、ケインたちが重なって見えた理由はこれか。怖いんだ。

信頼した人間から裏切られることが。

 ほかの家族と違って、明確な血のつながりがない。故に(すが)ることしかできない。

 なんとも面倒だが、こればかりは仕方がないか。

「じゃあ、その最低なレナに聞くが——」

「ここは、やさしく慰めの言葉をかけるべきだと思うんだけどっ!」

「ヤだよ、めんどくさい。それに俺は弱っている人間を見ると、追い打ちをかけたくなる性格なんだ」

(すこぶ)る最低なんですけど・・・」

 レナの目が、ゴミを見るような目に変わる。

「ああ、自覚はしている。だから——」

 これからレナと関わっていくうえで、どうしても足りないものが俺にはある。

 それは信頼だ。

 今、レナの俺に対する信頼は限りなくゼロに近いだろう。

 ストーカーの冤罪もあるが、これまでの発言を含め、客観的にそう思わざるを得ない。

 だが今は、レナの信頼を勝ち取る必要がある。

 何故ならこれから活動をするうえで、レナの協力は必須とも言っていいからだ。

 俺は言葉をいったん区切ると、レナの目を真っすぐ見た。

「そんな最低な俺から見れば、お前なんて可愛いモンだ」

「・・・えっ・・・」

 俺の言葉に、レナは一瞬目を丸くする。

「だいたい最低な奴はそこまで姉貴の事なんて考えねーよ。それにそんなんで最低な奴を名乗られちゃあ、俺の立つ瀬がねえ。クズ舐めんなって話だ。だから、まあなんだ、いい妹してんじゃねーの? お前」

 照れを隠すように俺が顔を背けると、レナは堪えきれない様子で吹き出した。

「・・・ぷっ、アハハっ、何それ、それで慰めてるつもりなの? すんごいキザっぽいし、それに下手糞だし、ハハッ、ほんとおかしっ!」

 それからしばらくの間、笑い続けるレナ。

 レナが、心の底で慰めの言葉を求めているのは、これまでの発言から分かっていた。

 レナの認識では、俺はさぞかし嫌な奴に見えていただろう。だからその認識を利用した。

 案外クズい奴が良い発言をすると、その人が良い人間に見えることがある。

 巷で言う映画版ジャ〇アンの法則だ。

 きっとレナの俺に対する評価は『意外といい奴』あたりになったはず。

 俺が元の世界でよく使っていた、数ある十八番の内の一つだ。

 ちなみに、実際レナは良い妹だと思っていたので、俺に制約のダメージはない。

 まさに計画通り。

 これで、いい関係を築けるのはもちろん、踏み込んだ話も聞けるようになった。

「姉貴の様子で、ほかに気になることは無いのか?」

「そういえば、私に内緒で出かけることが増えた」

「どこに行ってるのか知らないか?」

「ごめん、知らない・・・実はさ、今日こそ場所を突き止めてやろうと思って後をつけてたんだけどさ、途中で見失っちゃって・・・そしたらキリヤと会ったんだけど・・・」

 そこまで言うとレナは何か疑問に思ったのか、首をかしげる。

「そういえばなんでキリヤは、あんなとこにいたの?」

「ただの散歩だ」

 さすがに、お前の姉ちゃんの後をつけてたとは言えないので嘘で誤魔化す。

 もちろん股間に鈍い痛みが走ったが、気合で耐えた。

 それはさておき、レナがリンの後をつけて、西の区画に来たのだとすると、この姉妹の居住地は、西の区画ではないのか? 

それじゃあ、尚更リンが西の区画に行ったのかが気になるな・・・。 

 だがこの件に関しては、今ここで話し合っても答えが出なさそうだ。

「じゃあ、他に気になることは? 例えば男の気配がするとか」

「そんな奴いれば、私がボコボコにしてるしっ! まずありえないよ!」

 突如興奮するレナに、少々驚いてしまった。

 もしかしてコイツ、シスコン?

「お、おう。じゃあほかに気になることは?」

「ううーん。そういわれてもなぁ。特にないかも」

「そうか・・・」

 そうなると証拠が少なすぎる。そもそもレナの勘違いと言う可能性もあるし。

「ごめん。確証があるわけじゃないのに、願い事なんてしちゃって」

 何処か申し訳なさそうな雰囲気のレナ。だが——

「でも——」

 次の瞬間、レナが顔を上げ俺の目をまっすぐ見つめる。

「もし、本当にお姉ちゃんが困っているなら、助けてほしいの。お願い・・・します」

 深々と俺に対し、頭を下げるレナ。

 付き合いは短いが、コイツが心の底から姉の身を案じていることはわかる。

 血の繋がりが無いゆえに不安になることもあるが、それでもレナにとっての家族はリンだけなのだ。だから家族が悩んでいるなら、助けてほしい。

それが、レナの願い。

 ————・・・・本当に?

 一瞬俺の脳裏に、そんな疑問の言葉がよぎった。

 決して確信があるわけではない。強いて言うならタダの勘だ。

 自分は嘘を吐くが、他人の嘘が許せないそんなクズの勘。

 ———このレナの願いは、本当に心の底からあふれ出たものなのだろうか?

「———ああ、分かった」

 だが、俺はレナの願い事を了承した。

 確かに俺の本能が、レナの願いに対し疑問を抱いたのは事実だ。

 でも俺の直感は、別のものも読み取っつていた。

 少なくとも、レナがリンを本気で心配しているのは本物の気持ちと考えていいだろう。

「・・・なんか意外。面倒臭いとか、勘違いだろって馬鹿にすると思ってたのに」

「内心面倒臭い事には変わりないが、本気の奴を馬鹿にするほど馬鹿じゃねーよ」

 そういうと、レナは少し笑った。

「・・・へぇ、意外といい奴なんだ」

 これで完全に、『割といい奴』ポジションが確立したな。

「じゃあ、当面の間はお前の姉貴を探る方向でいいか。お前も協力しろよ?」

 まあ俺の感が外れたにせよ、本当の願いが別にあったにせよ、それはこれから見抜けばいい話だ。

「うん! あっでも、いくらお姉ちゃんが美人だからって、付きまとっちゃダメだよ?」

「変態疑惑は解けたんじゃねーのかよ」

 そうだね、と頷いたレナは、俺に手を差し伸べてきた。

「ん? 金ならやんねえぞ?」

「違う! 握手だよ! 握手! これからよろしくって」

 なんだ、紛らわしい奴だな。

 俺はレナの手を取り、一応握手の形をとる。レナはテンションが上がっているのか、手を上下にぶんぶん揺らす。

「ん?」

 その際、レナの服の袖がめくれ、腕に刺青のようなものが見えた。

 一見腕輪かと思えるようなデザインで、珍しいっちゃ、珍しい。

 俺が模様に気づいたことに気づいたのか、レナは慌てて隠すそぶりを見せる。

 だが、誤魔化せないと思ったのか、観念するように言った。

「これね、なんか私が小さい頃からあったみたいでさ。なんかずっと消えないんだよね。お姉ちゃんも、あまり人に見せない方がいいとか言ってたし、ずっと隠してたんだ」

「そうか」

 てっきり、ヤンチャな子かと思っちゃったぞ。

「ねえ、せっかくだから何か話そうよ。お姉ちゃんが帰る時間まで暇だし」

 気まずい雰囲気を変えるかのように、レナは嵐の如くしゃべりだした。

女は話好きと言うが、あながち間違いではないようだな。

 内容の大半はどうでも良い事だったが、意外だったのが・・・。

「え、キリヤってシスター・ネールの所に住んでるの⁉」

「ああ、そうだけど・・・」

「私たちも少し前まで住んでたんだ! どう、ガキんちょ達は元気にしてる?」

 俺から見れば、レナもガキに見えるのだが・・・。

 だが、レナは子供っぽい外見とは裏腹に、今年で15になるらしい。

「今度遊びに行ってもいいかな?」

「知らんけど、子供たちは喜ぶんじゃねえの?」

「うん、じゃあ今度顔を出そうかな!」

 その後もくだらない話は続き、結局その日は、それぞれの家へ帰ることとなった。

「———さて、帰るとしますかね」

 アジトでレナと別れた俺は、街の西側にある出入り口から外に出た。

 アジトに通ずる道は、この町に東西南北と四つの区画に用意されているの。

 そして南の区画にある教会だが、やや南西の位置にあるため、南口から出るより、西側の出入り口を使ったほうが意外と近道なのだ。

 日は暮れ、もう夕食の時間と言ってもいい時間。

 ガラの悪い西の区画は、もう少し時間が経つと更にガラが悪くなる。面倒事を避けるように、俺は急ぐことに決めた。

 早歩きで歩く俺だが、意外と人が多い。その大半は酔っ払いだ。

 そんな千鳥足の人波を避けて歩く中、俺は黒いフードを被った人物とぶつかってしまった。

「おっと、悪い」

 とっさに謝った俺だが、次の瞬間、仰天する。

 ——フードから覗いた顔が、犬のようなものだったからだ。

 一瞬コボルドかと思ったが、そうではないみたいだ。

 そいつは素早くフードを被りなおすと、人ごみの中に消えていった。

「獣人って奴か? ファンタジーお約束の」

 この世界でに来て、初めて獣人らしい獣人を見た。耳だけ獣のような者はいくらでもいたが、俺に言わせればあんなもの邪道だ。やはり、獣人は獣の顔に限る。

 生の獣人に若干テンションを上げながら、俺は教会へと急いだ。


    ♢


「それで、お使いを途中で放り出し、又もや夕食を遅らせた理由を聞こうか」

 一般的な家庭であればすでに夕食を終え、食休みをしているであろう時間帯に、俺は正座をさせられ説教を食らっていた。相手はもちろんアルだ。

「いやあ、何というか・・・スンマセン・・・」

 こういう場合は謝るに限る。

事情は後で説明できるが、アルはとりあえず謝らないと、話を聞いてくれない奴なのだ。

「まったく、それだから貴様は万年・・・万年・・・万年・・・アレだ・・・クズなんだぞ?」

「ネタが思いつかねぇなら無理にディスらなくていいけどっ!?」

「———まったく、急に走り出したからビックリしたぞ」

 そうぼやきながら、アルの後ろからソレスが現れた。口調が似てるからややこしい。

「・・・・・なんでお前居んの?」

 ふと疑問を口にした俺に、ソレスは鬼の形相で近づき、さき程のように締め上げる。

「お前が荷物を届けろと言ったのであろうがッ!」

「うぐっ・・・ぞうだっだッ! ズ、ズマン! ギ、ギブギブギブ、ぐええっ!」

 その後文句を垂れ流していたソレスだったが、気が済んだのか、俺のことを解放した。

「お二人とも、それくらいになさってはどうですか? 彼にも事情あるのでしょうし」

 シスター・ネールの助けもあり、俺は何とか教会内へ入ることができた。

「ん? 何かついているぞ」

そういうとアルは、教会へ入ろうとする俺の肩のあたりに手を伸ばした。

「これは・・・髪の毛?」

 アルの手には、黒く短い毛があった。

「確かキリヤは、西側から帰ってきたな・・・そして衣服に髪の毛がついているということは・・・まさか貴様、娼館に——!」

「行ってねえよッ!」

 トンデモ推理を始めたアルに、思わずツッコんでしまった。

「それは多分、あの獣人の奴の毛だ」

 おそらく、ぶつかった時にでもついたのであろう。

 だが、俺がそう答えた瞬間——

「——それは本当か?」

 空気が変わった。

 アルは眉を顰め、シスター・ネールでさえ、顔を険しくする。

「本当かと聞いているッ!!」

 ソレスに至っては、声を荒げて詰め寄ってくる。

「い、いや・・・なんだよ・・・」

 あまりの豹変っぷりに、俺はたじろいでしまう。

「シスター・ネール殿! キリヤケイに判定スキルを——」

「その必要はない」

「アルレス殿!? それはどういう——」

「キリヤの言っていることは真実だ」

 アルは俺の目を覗き込み、はっきりとそう言った。

 毎度のことだが、なぜコイツは俺の言ってることの真偽がわかるのだろうか?

「なんと・・・っ!」

 ソレスも、アルが断言したことによって、ショックを受けたようだ。

「こうしてはいられない! 私は一刻も早く戻りこのことを報告しよう。シスター・ネール殿、夕食とても美味しかった。それでは!」

 そう言い残すと、ソレスはあっという間にいなくなってしまった。

「・・・一体何なんだ? あいつ・・・」

「お前・・・いや、そういえば説明して無かったな」

 そういうとアルは、何故ソレスが血相を変えていなくなったのか、説明し始めた。

「今この町アミュロットが、隣国からの侵略行為を受けていることは知っているか?」

「まあ、なんとなく」

 最初のころ、独房に閉じ込められた理由に隣国からのスパイ容疑があったし、ソレスも、隣国が怪しい動きをしているとか言ってた気がする。

「まあ、侵略行為と言っても、確たる証拠はないんだがな。だが実際に、軍隊を率いてアイティーアの国土に侵入したり、アミュロットへ向かおうとする商人たちが襲われたりする被害も報告されている」

「つまり、その隣国のー、ええーと・・・?」

「カラドラス帝国だぞ」

「そのカラドラス帝国が、獣人の国ってことか?」

「いいや違う。アイティーア王国とは比べ物にならないくらいの小国ではあるが、確かに人間が治める国だな」

「じゃあなんで、獣人で騒いでんだよ」

「それは、カラドラス帝国ととある獣人の集団が、裏で繋がっていると思われているからだ。これはほぼ確定と考えていい。何でもこの町一番の諜報員が調べ上げたらしいからな」

 その凄腕の諜報員とやらは、もしかしてバラムとかじゃないだろうな・・・

「実際商人が襲われたのも、獣人による仕業だったらしい」

 ふむ、確かにこれらの証拠から考えると隣国は怪しいな。

「だが、動機は? 何故商人を襲わせたり、軍隊で領土に踏み入ったりしたんだ?」

「そこのところは詳しく分からない。アミュロットの領土問題絡みの嫌がらせというヤツもいれば、行商が盛んに行われているこの町が邪魔になっているといったものもある。中にはこの町の魔石の採掘権を狙っていると言う者もいるな。まあどれも噂なのだがな」

「だが、どれも決定的な証拠はないんだろ?」

「ああ、獣人と繋がっているところまでは分かったが、実際に命令を下している証拠もないし、領土侵入については、魔物の集団に襲われたから逃げ込んだだけだとか、誰かと似たような証言をしているらしいしぞ」

「なんとも白々しい奴らだな」

 俺がそういうと、アルが変な視線を向けてきたが、今は関係ない事だ。

「つまり、決定的な証拠がないからアイティーアは強く出れないってことか・・・」

「そういうことだ。下手にあちら側を攻撃したら、同盟が黙ってないだろうしな」

「同盟?」

 この世界にも、そんなものが存在するのか。

「ああ、この世界の主要国家十二国が参加している『十二国同盟』と言うものがある」

「そのまんまだな」

「その中に不可侵条約があるのだ。つまり、決定的な証拠がないのにこちら側からカラドラスを攻撃してしまうと、残りの国家から制裁を受けてしまうのだ」

 だとすると、後は諜報員が決定的な証拠をつかむまで黙っているしかできないな。

「せめてものの対策として、獣人がこの町に立ち入ることを禁じているらしい。半獣人は例外だがな」

 だからソレスは、飛び出していったのか。

その獣人を捕らえることができれば、何か証言を聞き出せる可能性もあるからな。

「だとすると、俺は結構お手柄なんじゃね?」

「う、うーむ、確かにお手柄とは言えなくもないような・・・?」

「よーし、もしこの件が片付いた暁には、ソレスに報奨金を求めるとするか」

「・・・やめなさい」

 こうして、騒がしい時間を終えた俺は、少し遅めの夕食をとった。

 その後部屋に戻った俺とアルは、今日の出来事の共有する。

 俺からは、レナの願いに関する説明が主だったが、アルに関してはひどい話だった。

 なんでも、指南するために騎士ギルドのも向いたのはいいが、剣などの備品の破壊や、模擬戦で手合わせした相手をことごとく半殺しにしてしまい、ソレスを除く殆どの者に恐怖を植え付けたのだとか。

 アルが言うに、ギルドの主要メンバーがバラム同様王都へ向かって行ってしまったため、歯ごたえが無かったとのこと。

 日頃スパルタで鍛えられている俺が聞いても、寒気がするような話だ。

「さて、それでは私は水浴びでもしてこよう」

 アルは鎧を外し、タオルを手に持つと部屋を後にしようとした。

「それじゃあ俺は投擲の練習でもしますかね」

 俺はそう言いながら的を壁に貼り付け、投擲用ナイフを取り出す。

 するとアルが微妙そうな顔を見せ、ため息交じりに言う。

「私が水浴びから帰ってくるまでにするんだぞ? いつもトストスうるさくてたまったもんじゃないからな」

「別にいいだろ? 投擲スキルが手に入るまでの辛抱だ。ちっとは我慢しろ」

「いや、良くはない。私は眠りを妨げられるのが許せないといつも言っているだろう?」

「どこの帝王だよ、お前」 

 そして、各々やることを終えた俺たちは眠りにつき、その日を終えた。

 ちなみに、セレナーテからの連絡はあの日以来来ていない。


    ♢


「ふ~~っ、疲れた・・・」

「お疲れ様、セテ」

 ひどく疲れた顔をしたセテが、物置もといオフィスに戻った。

「お疲れじゃないぞ、まったく・・・」

 セテは壁際にあったパイプ椅子を開くと腰を掛けた。

セレナーテは机に置いてあった飲み物を投げて労う。

「ん・・くぴっ・・くぴっ・・・プハッ・・・ふう~・・・、キリヤに関する記憶だがな、完全に鼬ごっこだ。どんなに記憶を消そうとも、噂話ですぐ広まってしまう。まったく、年寄りの話好きにはあきれるな・・・」

 セテは飲み物を一気に飲み押すと、早速愚痴を言い始めた。

「まあ、そんなに焦ることないじゃない。異世界ではもう一か月くらいたったけどさ、地球の方じゃまだ一日しか経過していないし。気楽にいきましょ、気楽に!」

 セレナーテの無責任ともとれる言葉に、若干苛立ちを覚えるが、これは今に始まったことではないので諦めるほかない。

「それより、お前の方はどうなのだ?」

「まあ、ぼちぼちかなぁ。何とか連絡手段は手に入れたけど、キリヤがいる領土ってあの生真面目なアマテラスの支配領域でしょ? 下手をすると干渉したのがすぐばれちゃうのよ。だから下手に連絡もできないのよねぇ・・・」

「違う。支配領域外でキリヤの死を知ってしまった者から、記憶を消す許可の件だ」

「あ、ああ~、それね。順調・・・かな?」

 絶対忘れていたなと思ったセテだが、これも毎度のことなので気にしたら負けだ。

「はぁ・・・それでキリヤの方はどんな感じなのだ? どうせお前のことだから、何とかのぞき見だけはしているのだろ?」

「その通りよぉ。キリヤの方だけどね、それなりに頑張ってはいるみたいよ。レベルも3に上がってたし。願いの方も最近はうまくいってるようね。でも、嘘はまだ吐いているみたい。私に対する失礼な発言も多いみたいだし。その点は要改善ね!」

 最後の方は私怨丸出しだったが、おおよそのことは把握したセテだった。

「うう~ん、それにしてもレベル0からのスタートは大分キツそうね。やっぱ思った通り、最初からレベル10くらいあげないと奉仕活動に支障が出そうかも」

 計画について考えを巡らせるセレナーテを見て、存外順調そうだと安心したセテはふと、時計を見る。定時だ。

「意外と順調そうで安心したぞ。では私は帰るとする。もう定時だしな」

 それでは、とその場を去ろうとするセテだったが、その肩を掴む手が一つ。

「ちょっとセテぇ~、お願いがあるんだけどぉ~」

 瞬時にイヤな予感を感じたセテが、その手を振り切り逃げようとするが、無駄に強いセレナーテの腕力に阻止される。

 その後壮絶な取っ組み合いが繰り返されたが、最終的にセテが折れる形となった。

「ハア、ハア、それで、何を、ハア、ハア、すればいいんだ?」

「それがね、近頃面白いことが起きそうだから、アマテラスに支配領域を覗かせてほしいって頼んできてほしいの」

「な、アマテラス様にか⁉ そんなのお前が行けばいいだろうが。一介の死神なんぞが相手にしてもらえる相手ではないぞ?」

「いや、私アマテラスとめっちゃ仲悪いから、話しすら聞いてもらえない可能性があるわ。その点、あなたなら可能性はたかいわね。なにせ、あの女は可愛い娘が好きだから」

「あ、あまり可愛いとか言うな・・・。だ、だが、そういうことなら、まあ・・・」

「・・・・・・・・・・うわ、チョレェ~・・・・」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ! なんでもないわ! うまくやってくれれば、激辛麻婆をご馳走するね」

「フッ、任せておけ」

 最後のダメ押しが決め手となり、セテは完全に堕ちた。

 背中越しに手を振ると、早速アマテラスの元へ向かうためか、オフィスを後にした。

 セレナーテはその背中をゲスい顔で見送ると、空中にウィンドウを表示させいじくり始める。

「さぁて、せいぜい私を楽しませてよ」

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