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エピローグ


『——い・・・たく・・・いつ・・お寝・・・さん・・・』

 ——声が聞こえる・・・・ひどく懐かしい。

『慧? いい加減起きないと寝坊するよ?』

 何より愛おしく・・・何より大切な思い出・・・・これは・・・この声は———


「——いのり・・・?」

「気が付いたか?」

 重い瞼を開くとアルの声が聞こえた。どうやら俺は眠っていたらしい。

 真っ先に見えた天井は見覚えがある。これはいつも寝泊まりしている教会の天井だ。

 だが妙だな。見え方がいつもと違う・・・・ああ、そうか・・・

「・・・お前がベットを貸すなんて、明日は雨か?」

「起きて早々軽口とは・・・・その様子では大丈夫そうだな」

 上体を起こしてみる。多少の気怠さを感じるが、大丈夫そうだ。

「どれくらい寝ていたんだ俺は・・・数日?」

 町についたところまでは覚えているが、それ以降の記憶が全くない。

「8時間くらいだぞ?」

「あ、意外と短かったのね・・・」

 そうとう疲労がたまっていたから、長い事眠っているのかと思っていた。

「町についた途端気を失ったのだぞ、お前。幸い命に別状はなかったようで良かったが・・・——あまり心配をかけてくれるな?」

 そんな表情をされると、柄にもなく申し訳ない気持ちになるのだが・・・

「・・・そうだ・・・レナとかはどうなったんだ?」

 一番気になることは別にあるが、誤魔化すように他の事を聞く。

「レナは無事だ。私達より少し前に町にたどり着いたらしいぞ」

 という事はカルスも無事だったというわけか。

「町の方は? まあ、お前が助けに来たってことは勝ったってことなんだろうけど」

「獣人どもなら町にたどり着く前に片付けた。だから街に被害は一切ないぞ。今は皆、復興作業に勤しんでいる」

アルの言う通り、今も微かに木を打つ心地のいい音が聞こえてくる。

「そうか・・・・それで・・・・リンは———」

「失礼します」

 一番重要なことを聞く前に、誰かが部屋のドアを開く。

「シルカ?」

「あ、キリヤさん。目が覚めたんですね! 良かった・・・」

 シルカは心の底から安心したかのようにほほ笑んだ。

「どうかしたのか?」

「あ、そうです。ちょうどこちらも気が付いたようなのでお知らせに」

 こちら? 気が付いた? 一体何の話だ?

「そうか、ありがとう・・・キリヤよ、起きれそうならついてくるといい」

 そういうとアルは部屋を出ていこうとするので、俺も疑問を抱えつつ部屋を後にする。

「なあ、まだ聞きたいことがあったんだが・・・」

「心配せずとも、お前が聞きたいことはすぐにわかる」

 そうしてたどり着いた場所は、一階の子供達の部屋だった。

「失礼する」

 アルの後に続き、俺も部屋の中に入る。するとそこには———

「あなたは・・・あの時助けてくれた人・・・と、キリヤ君?」

 そこには少し眠そうな顔をしたリンの姿があった。

「自己紹介をしていなかったな。私はアルレス・パーシヴァル。アルと呼んでほしい」

「アルレス・・・? その名前・・・どこかで・・・・」

 流石は聖騎士と言ったところか、リンもアルの名前を知っているらしい。

 ・・・というか俺の時は特別とか言ってた癖に、普通にアル呼びさせるんだなコイツ。

 まあどうでも良いけど。

「どうして私は生きているの? あの時確かにダメだと思ったのに・・・」

「確かに危険な状態だった———」

 聞けば凍らせた傷口はとうぜん凍傷になり、壊死しかけていたという。

 常人なら生きているのが不思議だった状態。それでも今こうして生きているのは、単純にレベルによる補正なのか、それともレナに対する思いなのか・・・。

「だがこうして今生きていられるのは、偏にキリヤのおかげだろうな」

「・・・なんでそこで俺の名前が出てくんだよ・・・」

「あの時お前が行動を起こさなかったら・・・私はリン殿の言葉を聞いていただろう」

「・・・うん・・・覚えてる・・・気を失う直前だったけど・・・あの言葉で私・・・レナのそばにいたいと思えた・・・」

「いやいや待て待て、そもそもリンを助けたのはこのアルだぞ? 俺一人だったら確実にやられてたろうし・・・」

「そんなことない。キリヤ君が来てくれなければ確実に私やレナは殺されていたと思う」

「うむ、確かにキリヤが時間稼ぎをしなければ私は間に合わなかった」

「だから・・・その・・・」

 リンは少し恥ずかしそうに俯く。そして———

「ありがとう・・・」

 こうしてお礼を言われると微妙に居心地が悪い。リンを救ったのはあくまで俺のためにやっただけの事だ。礼を言われる筋合いはない。

「別にお前のためじゃねーよ。礼ならレナにでも言っておけ」

「・・・それでも・・・ありがとう、キリヤ君」

 リンは深く頭を下げる。一瞬涙ぐんでいるようにも見えたが、再び上げた顔には、満面の笑顔を浮かべていた。

 コイツこんな顔ができたのか・・・。

「・・・・・おう」

 これ以上食い下がるのは流石に面倒くさいので、適当に返事を返しておく。

「ねえ、キリヤ君・・・お願いしたいことがある」

 遠慮がちに声を上げるリンだが、そのお願いとやらはなんとなく想像がつく。

「レナの事なんだけどね・・・どんな顔して会えばいいと思う・・・?」

 やっぱりな・・・。まあ、レナのためにとは言え、ひどい事を言ったのも事実だ。

 気まずいだろうが、こればかりは本人たちが解決するしかない。

「知らんわ。そんなん————ん?」

 その時、部屋の外に気配が生まれたのを感じた。

 そういえば最近もこんなことあったな。気にせず入ってくればいいものを、そこらへんはさすが姉妹と言ったところか・・・・。

「——便所」

「へ?」

「いきなりどうしたのだ、キリヤ?」

「突然だが便所に行きたくなった。行くぞ、アル」

「なっ、どうして私まで行かなくてはならないのだ」

「連れションって奴だよ。さっさと行くぞ?」

「これでも私は乙女なのだが!?」

「いいから行くぞ」

 俺は強引にアルを引っ張って、部屋を出る。状況が呑み込めていない様子のアルだったが、部屋の外に佇む人物を見て納得したようだ。

「こっから先はお前次第だ・・・・まあ、せいぜいうまくやるんだな———レナ」

 ドアのそばに立っていたレナの肩を叩く。

「———うん!」

 ドアが開く音を背中で聞きながら、俺たちは教会を出る。

 ・・・・結局トイレに行かなかった俺は、制約によりもがき苦しむこととなったが、これは別の話だ。


    ♢


「ここで何をしてるのですか? キリヤさん」

 昼下がりの教会の中庭。恰好つけて外に出たものの、特にやることもなく暇を持て余していた俺に、シルカが声をかけてきた。

「ん? いや別に、たまの休日を満喫しているだけだ」

 アルは借りた魔剣をソレスに返すと言って教会を後にした。

 ・・・あの大きな魔剣、明らかにヒビが入っていたがいいのだろうか・・・?

「シルカは・・・サボりか?」

「ち、違います。あの子たちの帰りを待ってるんです。今日はリンさんもレナさんもいますからね、夕飯の材料を買いに行ってもらいに・・・・」

「そんくらい言えば行ってやったのに」

「ありがとうございます。でもあの子たちにも気分転換が必要だと思うから・・・」

「・・・そうだな」

 シスター・ネールを失ってまだ間もないのだ。部屋にいて悲しみに暮れるより、何か他の事に意識を向けさせる方がケインたちのためだろう。

「・・・でも、あの子たちもあの子たちなりに前を向こうとしているんです。それがきっとシスター・ネールの願いだからって・・・夜は流石に泣いているみたいですけど」

「シルカは——」

 大丈夫なのかと聞こうとしてやめておいた。

 そんなものシルカの泣きつかれたような目元を見ればわかる。

 だが、シルカは決して俺たちやケインに悟られないよう気丈にふるまっているのだ。

「・・・強いんだな」

「ええ、本当に強い子たちです」

「あいつらもそうだけど、お前もだよ」

「私ですか?」

「ああ、お前は十分に強い子だよ。あいつらもお前がいるから前を向こうと思えてるんだと思うぜ」

「そんな、私なんて・・・」

「日本人じゃあるめぇし、謙遜なんてすんな。シスター・ネールはお前のあいつらのために行動できるところを評価してただろうよ。じゃなければ信頼なんてしないだろ?」

「それは・・・」

「だけどその一人で抱え込むところはいただけないな。そんなガキの頃からため込んでると、将来苦労するぞ? 今のうちに周りにいる大人に甘えておけよ。じゃないとこんなひねくれた俺みたいになるかもしれないぜ?」

「・・・ふふ、キリヤさんは十分優しい人ですよ?」

「いや本気でそう思うならマジでヤバいぞ? 今のうちに悪い大人に騙されないよう勉強するんだな」

 シスター・ネールとの約束がある以上、シルカの将来が不安になってきた。

「それじゃあもし、私が本当に抱えきれなくなった時には、話を聞いてくれますか?」

「・・・そういうのはアルとかの方が適任だと思うぞ。まあ世話になってる以上断りはしねーけど・・・」

「本当ですか!? 約束ですからね!」

 年相応な笑顔を浮かべるシルカを見て、彼女も子供なのだと妙な安心感を得る。

「・・・やっぱり優しいです・・・キリヤさん・・・」

「重症だな」

「そうですね、フフッ・・・・・・・・・・・なんだか、お兄ちゃんみたい・・・・」

「ん? なんて?」

「い、いえ、なんでもっ! あ、そうだ、洗濯物を取り込まないといけないのでした! 失礼しますねっ!」

 心なしか顔を赤くしたシルカは、俺の言葉を待たずその場を後にする。

「・・・再び暇になった・・・・」

 残された俺は再びボーっと空を見上げるが・・・。

「はあ・・・気晴らしに散歩でもしてくるか・・・・」

 休日に無駄に時間を消費すると、謎の罪悪感に駆られそうなので街に出ることにした。

 特にどこに行くわけではない。ただ、いつものランニングコースを歩くだけ。

「アルの言う通り、意外と復興が進んでるんだな」

 倒壊した建物はすでに瓦礫が取り除かれ、新しい骨組みができつつある。

 倒壊したのは昨日今日の話だというのに、これほど作業が早いのはやはりファンタジー世界だからなのだろう。魔法なんかもあるし

 現に俺の世界では重くて一人ではとても持てないような木材を、一人の職人らしき人が軽々と運んでいる。

 道中、例の行商ギルドの方へ寄ってみたが、扉に張り紙が張り付けられていて、人気がなかった。

 そして張り紙にはギルドの主要メンバーを連行したとだけ記されている。

「仕事が早いな」

 おそらくアルの報告を受けて、ソレスが動いたのだろう。

 まあ、奴らに関しては同情の余地もないので、どうでも良い事なのだが・・・。

「ふう・・・」

 そしてぶらぶらと歩いていた俺は何気なく門の外に出て、傾き始めた夕陽を見ていた。

 どうやら夕焼けの綺麗さだけは、どの世界でも変わらないらしい。

 相も変わらずきれいに沈む夕日に目を奪われながら、俺は深いため息を吐く。

「たった一つの願いを叶えるのにこんな時間が掛かるとは、この先が思いやられるな」

「何一人でしゃべてんの・・・?」

 カッコよく黄昏ていた俺に、いつの間にか近くにいたレナが話しかける。

「気にすんな。宇宙人と交信してただけ・・・・痛ってえな、コラッ!!」

「きゃっ! 突然大きな声を出さないでよ!」

「・・・それで、何の用だ?」

 まあ、要件は大体わかる。律儀にリンとどうなったのか報告しに来たのだろう。

「あのね、お姉ちゃんとのことなんだけどね・・・」

「やっぱりな。それで?」

「私、全部聞いた。私が獣人たちに拾われて育てられたこと、お姉ちゃんとあの獣人たちの関係、そして今回の事件との関りも全部・・・」

「そうか」

「うん・・・それを全部聞いたうえで私、正直に言った。私が本当に望んでいる事・・・——お姉ちゃんと一緒にいたいって」

「リンはなんて?」

 俺の問いにレナは、満面の笑みを返した。答えは聞くまでもないようだ。

「そうか・・・まあ、なんだ・・・・・よかったな」

「うん! これも全部キリヤのおかげだよ・・・」

 そう素直に言われると、正直どう反応していいか分からない・・・。

「別に俺は——」

「お姉ちゃんに聞いたよ。すごい頑張ってくれたんでしょ?  キリヤが来なかったらきっとやられてたってお姉ちゃんが」

「肝心なところは全部アルに丸投げしたけどな」

「そんなことないでしょ? だってお姉ちゃんったら、途中からキリヤの話ばっかりだったんだから! 私悔しくてキリヤの事ボコボコにしちゃおうって思ったもん」

「怖えなっ!? いい加減姉離れしろよ、このシスコン!!」

「冗談、冗談・・・・半分くらいね」

「そこは嘘でも冗談って言いきってくれよ・・・」

「それにもうお姉ちゃんからは離れないって決めたんだもん・・・——私の一番大切な家族だから」

 こうも恥ずかしげもなく言われると、こっちの方が恥ずかしくなる。

「・・・・あっそ・・・」

「うん、キリヤに言われた通り、これからどんなことがあってもお姉ちゃんのことを諦めたりしない。一生一緒にいる」

「いや、いつかは離れろよ。結婚するともれなく妹がついてくるとなれば、お前の姉貴一生ひとり身になるぞ?」

「いいのっ! お姉ちゃんには私がいるから、結婚相手なんて要らないのっ!」

「コイツやべェよ・・・」

 これはもう手遅れの領域なのではないだろうか・・・?

「・・・——キリヤがいてくれてよかった」

 他愛もない会話を繰り返していた俺たちだったが、突然レナがそんなことを言った。

「どうした、急に?」

「キリヤに願いを聞いてもらわなかったら、お姉ちゃんと一緒にいれなかったと思う」

「大袈裟だろ」

「ううん、きっとそうだよ——・・・・・・・だからね」

 レナが俺に向き直り、顔を見つめる。

「——ありがとっ!!」

 そしてこれまでで一番大きな微笑みを浮かべた。

 ・・・やはり慣れないな。まさか俺が人に感謝される日が来るとは・・・。

 おそらくこの世界に来なければ、一生経験することが無かったものだろう。

 ——それがプラスに働くのかは別の問題として。

「・・・おう」

 あれだけ頑張った報酬が笑顔一つとはな・・・。

 何はともあれ、こうして今回の件は幕を閉じたのであった。


    ♢


「ふう・・・くたびれたよ・・・」

 あの後教会に戻り、リン姉妹を含めた全員で食事をとった。

「そういや帰りが遅かったな。ギルドの方で何かあったのか?」

 リン達が子供たちと寝ると言ったので、俺とアルはいつも通り、二階の部屋で寝ることにした。

「いや・・・なんというか・・・あの状態の魔剣をソレス殿に返したところ、号泣してしまってな・・・・なだめるのに少し時間が掛かってしまったよ」

「・・・助けてもらった俺が言うのもなんだが、ソレスの奴もかわいそうだな」

「それに関しては私も反省しているよ。もし次魔剣を借りる機会があれば、もう少し上のランクの魔剣を貸してもらうとするさ。そうすれば多少損傷を抑えられるだろうから」

「鬼か」

「ハハッ、冗談だよ。さて、私は水浴びをしに行くが・・・・覗くなよ?」

「覗かねーよ」

「なに? 私の裸には価値が無いというのかっ!?」

「急にメンドクサいなッ!? 覗いたら殺されると知っていて誰が覗くんだよ!!」

「フッ、これも冗談だよ。それでは行ってくる」

「さっさと行ってくれ・・・」

 楽しそうな様子のアルを見送る。

 相変わらず部屋の中だと微妙にテンションが高いんだよなアイツ。内弁慶ってやつか?

「さて、俺は寝る支度でも———ん?」

 その時視界の端に、何か光るものを見つけた。

「これは———聖書だな」

 表紙の魔法陣が一定の感覚で点滅している。

「まさか・・・」

 手に取って確認してみると間違いない、これは着信の合図だ。

となると相手は必然的にアイツか・・・。

「はあ・・・めんどくさっ」

 そうは言っても、出なかったら出なかったでまた面倒くさくなりそうなので、いやいや魔法陣に触れた。

「・・・もしもし?」

「もっしもーしっ!」

「すみません。どちら様でしょうか?」

「ちょっと!! その魔法陣に通話できるのは私しかいないでしょうがっ!!」

「チッ、怒鳴んなよ。うるせーな・・・」

「あんたがくだらない事を言うからでしょうが!」

「・・・で、パツキンが何の用だ?」

「パツキン!? なんか急に雑くない? 前はもうちょっとカッコよかったわよね? あんたもしかして、私の名前を忘れたの?」

「忘れてねーよアレだろ? なんか車の種類にあったような名前・・・そう、プリ〇ス―テ」

「何それ語呂悪っ! セレナーテよ、セレナーテっ!」

「ハイハイ・・・で、そのパツキンが何の用だ?」

「呼びなさいよ!! 名前が分かったんだからちゃんと呼びなさいよっ!」

「おい、全然話が進んでねーぞ?」

「誰の所為よ! ああもう、あんたと会話するとなんか疲れるわ・・・」

 このタイミングで通信してきたという事は、おそらくレナの願いについてだろう。

 それにしても相変わらずうるさい奴だ。

「まったくもう。それでこうして連絡を取った理由だけど、ずばりレナ・クライネの願いについてよ」

「うん、知ってた」

「コホン、あなたはレナ・クライネの願いを聞き、それを叶えるために尽力しました。今回はその合否を発表したいと思いますっ!」

「合否?」

「そりゃあ、あんたは願いを叶えるために使わせたんだから、叶えられたのか判断する必要があるでしょ?」

「えー、そこらへんはテキトーでよくない?」

「良くないわ。『頑張ったから合格』なんて、なあなあな判断をしていたら、テストにならないじゃない。世の中は結果が全てなのよ」

「まあ、その結果を出せないで干されている奴もいるけどな」

「お黙り」

 いや事実だろうが。

「それで、その合否はどうやって決めんだ?」

「それは簡単よ。ズバリ、単純に相手の願いを望む形で叶えられたのか、そして私への感謝の気持ちの二つで判断するわ」

「前半は分かるが後半が全く分からん」

「もともとは神への信仰心を取り戻させるための計画でしょうが。そのために私への感謝の気持ちは必要不可欠よ」

「そっすか」

「じゃあ結果の方を言い渡します・・・・決束は————ギリギリ合格ですっ!!」

「ギリギリかい! 俺何回も死にかけたぜ? それなのにギリギリ? 判定鬼かよ」

「だってしょうがないじゃない。確かに願い事は叶えたみたいだけど、レナ・クライネの感謝の気持ちのほとんどがあんたに向かっちゃってんだもの。この判定だって結構甘めに付けたのよ?」

「そんなん知らんわ! お前の日ごろの行いが悪いからだろ」

「違いますー、あんたのアピールが足りなかったからですー。もうちょっと自分が女神に使わされた者だってアピッときなさいよ! そんなんじゃ恩が売れないじゃない!」

「己はプライドとか無いんかっ!? そんなんだからろくに信者が増えねぇんだろうが!!」

「なんですってぇ————!!」

 その後意味もない言い合いをしばらく続けていたのだが、アルが戻ってきたことにより中断した。もちろん変な奴を見るような目を向けられたのは言うまでもない。

「じゃあアルも戻ってきたことだしそろそろ切るぞ?」

 居たたまれない気持ちになったのと、睡魔が訪れた事により俺は通話を切ろうとしたのだが、セレナーテが慌てた様子で止める。

「ちょっと、もう一つ大事な要件があるんだけど!」

「なんだよ。手短に頼むぞ」

「次の願いについてよ」

「えー、もう次行くのかよ。流石に休みたいんだけど」

 流石にハードスケジュールすぎやしないだろうか。もう少し余韻が欲しいのだが。

「ええ~~~~と・・・ガラポンは何処だっけ・・・・」

「無視かよ・・・ってかやっぱガラポンなんじゃねーか!」

 やっぱりテキトーじゃねーかコイツ・・・・。

「ううーんと・・・よしっ、あった!」


 この世界に来て一か月とちょっと。

 たったこれだけの短い期間で、俺は様々な経験をした。

 初めての敗北、屈辱、挫折、そして立ち直り方や、初めての感謝。

 どれも元の世界ではきっと味わえなかったものだ。

 そしておそらくこの先も、様々な初体験と出会うのだろう。

「えっとねー、次の願い事はねぇ——」

 俺という嘘吐きから始まった冒険は、まだ始まったばかり。


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