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報酬

 ふぅ。


 作業を終え、リリーと一緒に振り返る。


「……えーっと」


 目に入ったのは、口を開けたりしてポカーンとしている面々の姿だった。


 氷を山盛りにしたし、これで終わって大丈夫なはずだ。


 だけど、なかなか反応がない。


 どうしようかと思っていると、先頭に立っているアルヴァンさんがこっちに来た。


「2人とも、ありがとうな」


 僕とリリーの肩に手を乗せ、嬉しそうにくしゃっと笑う。


「これでなんとかなりそうだぜ」


 アルヴァンさんはそう言うと、今度は後ろを向いて仲間の漁師たちを見回した。


「こんなに早く準備してくれたんだ! この協力を無駄にしねえよう、さぁ働くぞ!!」


 周囲を鼓舞するような声音。


 ポカーンとしていた人たちも、アルヴァンさんの声で気合いが入ったんだろう。


 みんな一様にキリッとした表情になったかと思うと、男たちの「おうッ!!」という野太い返事が返ってきた。


「っしゃ、やるか! 魔法使い様、ありがとうな!」


「マジで助かった!」


 あちこちから僕とリリーに向かって、そんな感謝の言葉が飛んでくる。


 こうも感謝されると、照れくささもあるけどやっぱり嬉しいものだ。


 思わず口角が上がってしまうのを感じる。


 隣にいるリリーも、心なしかいつもよりご機嫌に見えた。


 氷造機の周りに集まっていた人たちが散り、氷が溜まった受け皿からレーンに繋がる部分にある板を外すと、一定量ずつ氷が流れていく。


 レーンの先では早速布を敷いた木箱に氷が詰め始められている。


 あそこに魚を入れて行くみたいだ。


 みんな連携が凄い。


 担当分けした流れ作業が始まった。


「礼は組合からさせてもらいたい。あとは組合長様になんでも言ってくれ」


 あまりのテキパキさに、今度は僕たちがただ見ることしかできないでいると、さっきの細マッチョさんが通り過ぎざまに声をかけてきた。


 氷の詰まった木箱を軽々と三つ積み上げて運んでるけど……す、涼しい表情だ。


「あっ、は、はい!」


 そんなたいそうなお礼を貰う気は少しもない。


 だけど体裁もあるだろうし、仰っていただいたようにアルヴァンさんとの話になるだろう。


「おい、サージ。無駄口はいいから働け働け」


 突然話しかけられたので戸惑いつつ僕が返事をしていると、今度は背後からアルヴァンさんの声がしてきた。


 細マッチョさん、もといサージさんはやべっという表情で爽やかに笑いながら去って行った。


「へいへい。ま、つうわけであとは頼んだぞ。我らが組合長様」


「ったく、都合が良いヤツだぜ」


 アルヴァンさんはやれやれと溜息を吐くが、あまり気にした様子はない。


 というか、今は無事に氷を間に合わせることができ安堵の気持ちで一杯なのかな。


「あいつが俺に組合長を押しつけた主犯格なんだ。やつも副組合長なんていう役職についてるが、まともに手を貸す気はあるのか」


 やっぱり。


 あの人もリーダー格の一人だったみたいだ。


 アルヴァンさんがしてくれる説明……というより独り言を聞いていると、少し遅れてニグ婆とカトラさんもこっちに来た。


「アルヴァンや、あんたこそ働いてきなさい!」


「あー分かってるに決まってるだろ、お袋。だがその前に謝礼について話し合わねえと、作業を始めたらいつまで時間がかかるかわからないだろ。お三方を待たせるわけにもいかないしな」


 そんなことを話し、何度かニグ婆たちが言い合っている間にレイを肩に乗せる。


「トウヤ君、リリーちゃんおつかれ」


「あ、ありがとうございます」


「うん」


 カトラさんの労いの言葉に応えていると、話が一段落した様子でアルヴァンさんが話しかけてきた。


「でだ。謝礼を贈りたいんだが、何をしたらいいだろうか? ものによっては後日になるかもしれねえが、しっかり応えさせてもらいたい」


「そうですね……」


「トウヤ君たちで決めて良いわよ。2人がやったんだから」


 僕が悩み、カトラさんの顔を窺うとそんな風に言ってくれた。


「わかりました。リリーは、何かある?」


「うーん……せっかくだから、お金以外。あとはトウヤが決めて」


「お、お金以外ね……了解」


 あったら困りはしないし必要だけど、たしかにせっかくできた縁だし何か普通は手に入れにくいものが良い気持ちも理解できる。


 でも、それはそれで決めにくいんだよなぁ。


 難しいお題だ。


「あっ」


 なんて思っていたけれど、ふと良い案が思い浮かんだ。


 というか思い出した。


「お、何か決まったか?」


 アルヴァンさんに訊かれ、頷く。


「あの、クラクって手に入ったりしますか?」


 そもそもここに来る上で、僕の目的はレンティア様たちに送るためのクラクの入手でもあったのだ。


 これで漁師さんたちから新鮮なクラクを貰って、カトラさんやリリーと、僕たちも美味しい料理に舌鼓を打とう。


 そう思ったんだけど……。


「あー今はクラクは揚がってねえな。この時季はわざわざ沖の方にある巣に行かないと獲れねえんだ」


「……なる、ほど」


 アルヴァンさんからの返事は計画を断念せざるを得なさそうなものだった。


「すまねえな」


「い、いえ! そんな」


 よほど顔に出てしまっていたのか、申し訳なさそうにアルヴァンさんが謝ってくれる。


 慌てて手を振るが、たしかにこれは困ったな。


 レンティア様とネメステッド様がお望みのクラク。


 一体どうやって手に入れたものか……。


「だが、そうだな」


「え?」


 頭を悩ませていると、アルヴァンさんがパチンと自身の腿を叩いた。


「漁師全員の一日の収入がほとんどなくなるかもしれなかった上、海の幸を無駄にするところを救ってもらったんだ。休日にはなってしまうが、クラク漁に船を出させてもらおう!」


「本当ですか!? ありがとうございますっ!!」


「それに素晴らしい魔法も使えることだし、もし良かったら観光ついでに一緒に来てもらってもいいぜ」


 まさか、そんな提案までもしてもらえるとは。


 漁で海に出て行けるなんて、よい経験になりそうだし思っても見なかった幸運だ。


 僕と同じように、リリーも「おぉ……」と控えめながらも目を輝かせている。


「ほ、本当の本当ーに私たちも一緒にでよろしいんですかっ?」


 なぜか信じてなさそうな感じで、一番カトラさんが驚いてる。


「おう! 魔法使いがいれば漁も楽になるに違いねぇが、実際にどうなるのか気になるしな」


 アルヴァンさんの快諾に、カトラさんは興奮気味だ。


 そんなに海に出たかったのかな?


 ハッと僕とリリーの視線に気付いたカトラさんが、顔を寄せてくる。


 僕たちが耳を近づけると、彼女は小さな声で事情を説明してくれた。


「普通、漁師たちは一般人を船に乗せてくれないのよっ」


「えっ。そ、そうなんですか……っ?」


「ええ、神聖な仕事場という考えが一般的だからね」


 そういうことだったのか。


 たしかに、これを聞くと船に乗せてもらえることがどれだけレアか実感できるような気がする。


 お誘いの有り難さを実感した僕とリリーも含め、僕たちは3人で頭を下げることにした。


「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いしますっ!」


「ああ。んじゃあ次の休日に、細かいことは宿にでも伝えに行かせてもらうからな」


 こうして、なんとか当初の目的であるクラクを入手できそうになったのだった。


 いや、でもまさか自ら獲りに漁に行くことになるとは。


 頑張るので少し待っていてください、レンティア様、ネメステッド様!


書籍2巻は10/24発売!

1巻に続きoxさんによる素晴らしいイラストや、書き下ろしの短編などもありますのでぜひお手に取っていただけると嬉しいです。(港町の雰囲気や、キャラの姿も見れますよー!)

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