ネメステッド像
ネメステッド様との顔合わせも終え、貢物についての要望を聞き終えた。
今回はもうお別れの雰囲気が出る。
「あ、そういえば最後に確認になるのですが……」
そんな時、僕はあることを思い出してネメステッド様を見た。
「明日、みんなで高台にあるネメステッド様の像を訪れることになっているんですが大丈夫でしょうか? こうしてお会いできたので、神像扱いになって謁見することになったりしないか心配で」
危ない危ない。
今のうちに訊いておかないと、後で取り返しがつかないことになるかもしれないからな。
フストの教会でやらかした時みたいに。
「ふっ、あんなもの……たかが巨像にすぎぬッ。我の足下にも及ばんわ――ッ!」
ネメステッド様の答えは……よくわからなかった。
ど、どういうことだろう?
僕がリアクションできずにいると、ネメステッド様も「え、伝わらなかった?」といった感じでレンティア様を見ている。
こうなったら頼るしかない、僕もレンティア様に。
「あの、レンティア様。つまり……?」
「はぁ……。なんでアタシがアンタたちの通訳にならないといけないんだい」
「も、申し訳ありません」
「ぬ。す、すまぬ」
僕たちが揃って頭を下げると、レンティア様は「まあ構わないんだがね」と言ってから人差し指を立てた。
「つまり、『ネメシリアにある像は人間が自分たちのために造ったランドマークにすぎず、神像ではないから問題はないぞ』ってことだね」
「あ、では教会にある神像とは同じではないんですね」
「そうさ。……まったくネメステッド、アンタは喋り方は好きにしても良いが、もっと伝わりやすく努力するんだね」
「な、そ、それは……。我の言霊を読み取れぬ愚かな者たちの責任故、なんと言われようが知ったことではない。もちろん全てに通ずる万能語の運用に努めることができないわけでは――」
「はいはい。これ以上長くなる前に無駄話はそのへんでやめて、トウヤとはお開きにするよ」
レンティア様がパチンと手を鳴らして、強引に会話を打ち切る。
ショボンとしているネメステッド様。
僕が様子を見ていると、レンティア様が最後に言った。
「じゃあ、クラクについては頼んだよ。もちろん、酒も一緒に送ってくれると最高だがね」
「はい、なるべく早く入手できるように頑張ります」
返事をすると、2柱の神様が僕を見る。
「それじゃあ何かあったらまた」
「我も楽しみに待っているぞ。天界より見ているからな……ッ」
「了解しました。ネメステッド様もお会いできて良かったです。それでは失礼します」
挨拶をすると、すぐに僕の意識は薄れていった。
朝。
目を覚ますと、カトラさんとリリーはすでに起きていた。
初めてネメステッド様と会っていたからか、眠りが深くなっていたのかな?
3人の中で起床が最後になってしまうなんて。
珍しい話だ。
まあ育ち盛りで普段から眠ってばかりのレイは、今日も気持ちよさそうにまだ横で寝てるけど。
僕たちは食堂で朝食をとってから、部屋に戻って寝起きのレイを連れてネメステッド像に行くことにした。
食事の際には、銀の海亭の女将さんであるブレンダさんに許可をもらってから、昨日ニグ婆から貰ったカンバのオイル漬けを食べた。
カリッと焼いたパンに乗せて食べると、じゅわっと素材本来の甘みとオイルの香りが合わさって爽やかな味わいだった。
「カンバ、美味しかったでしょ?」
「そうね。リリーちゃんが言っていた通りだったわ」
以前に食べたことがあるというリリーが、隣でカトラさんとそんな話をしている。
高台にあるネメステッド像の下に行くと、像の中を途中まで上っていける構造になっていた。
せっかくなので僕たちは高所からネメシリアの街を一望してから、昼にニグ婆と待ち合わせている場所まで向かうことにする。
だけど……うん。
像とはいえ、さっきまで会っていたネメステッド様の体の中に入るのは、なんか変な感じだなぁ。
直接会ったからか、気まずいというかなんというか。
普通に恐れ多い気もするし……。
本日、書籍の発売初日でしたー!
通販・書店・電子、それぞれで購入してくださった皆さん本当にありがとうございます!
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