要望
「は、はじめまして。トウヤ……街見透也と申します」
しっかり頭を下げる。
想像してた感じとは違ったけど、ここは冷静に。
変なリアクションを取って失礼があってはならない。
そう思ってのお辞儀だったんだけど。
「……あの、ネメステッド様?」
手で片目を隠したポーズのまま、ネメステッド様がピクリとも動かなくなってしまった。
微妙な空気が流れる。
な、何か悪いところがあったかな。
僕が1人不安になっていると、不意に横から「ごほんっ」と咳払いをする音が聞こえてきた。
「あれっ、レンティア様。いつの間に?」
「すまないね。ちょっと用事があって、コイツとの顔合わせに間に合わなかったみたいで」
「ああいえ! 僕も今来て、まだご挨拶をさせていただいていただけなので。それよりも……」
僕としては有り難いタイミングで来てくれた。
本当に。
レンティア様に状況を話してから、未だに動かない色々な意味で中学二年生くらいの見た目をしている神様に目を向ける。
と、同時に……あっ、動いた。
ようやく動き出したネメステッド様は、僕とレンティア様に見つめられながらゆっくりと腕を下ろし、そして腕を組んで直立でこちらを見てくる。
「……ふぅ」
なぜか一息吐いて、さぁ会話を進めるのはそっちの仕事だといった目で。
「えーっと……」
「気にするんじゃないよ」
戸惑う僕に、レンティア様が教えてくれる。
「コイツはなかなかに面倒な性格でね。普段から好き好んで変なしゃべり方をするくせに、かなりの人見知りなんだよ。初対面の相手には挨拶くらいしかやり切れないくらいにね」
「な、なるほど」
「今のは挨拶が終わって、どうにか話を続けられるか検討したが、やっぱり無理だと思って聞き手に回ろう……ってな感じだと思うんだけど、あってるかい?」
確認されたネメステッド様が、斜め下を見ながら小さく頷いた。
「ぐ、愚問だ」
心なしか耳が赤い気がする。
教会に置かれていた神像では、聡明な少年といったイメージを持たれてるみたいだったのになぁ。
実際はレンティア様と同じように、下界で思われてる感じとは違うらしい。
「じゃあトウヤ、アンタにはアタシから用件を伝えさせてもらうよ」
ネメステッド様が聞き手に回ることになったので、レンティア様が腰に手を当ててそう切り出した。
「はい。……って、多分ですけど貢物についてですよね?」
「まっ、まあそうなんだが」
貢物という単語に反応して、ビクッとするレンティア様。
ネメステッド様も、どこか気まずそうだ。
「前にいきなり、ネメシリアに滞在している間はネメステッド様にも観察されてると聞かされたときは驚きましたけど、別に普通に頼んでくれたら大丈夫ですよ? おふたり分の貢物を送るようになっても」
「ほ、本当かい! じゃあ……そういうことで」
一瞬、明らかに気がラクになったと思ってるのが伝わってきたんだけど。
レンティア様はすぐに切り替えて、落ち着いた様子をアピールしてくる。
隣にいるネメステッド様は、声には出さないが普通に嬉しそうだ。
「わかりました。では、何か要望はありますか。あまり高価なものは厳しいかもしれませんが」
「クラクを使った料理を頼む。あと、できれば酒を少々」
レンティア様は料理とお酒か。
にしても……。
「クラク、ですか?」
「ああ。地球でいうところのタコに似た生き物だね」
「タコっ。この世界にもいるんですね!」
小麦粉の存在は確認しているから、もしかしたらたこ焼きを作ったり出来るかもしれないなぁ。
色々と手間はかかるだろうけど、これは期待だ。
「じゃあ明日、早速あれこれ調べてみます。運良くちょうど漁港に行く予定があるので」
「ああ、頼むよ。ネメステッドがクラクの唐揚げが気になって仕方がないらしくてね。前々からアタシも見せられていたんだが、これがまた美味そうなんだ」
「それは……。僕も俄然食べたくなってきました」
もしかすると、そのクラクの唐揚げが食べたくてネメステッド様は自分にも貢物が貰えるように取り付けたのかな。
ちらりと見ると、目が合った。
視線はすぐに逸らされてしまったけど、ネメステッド様も会話に入ってくる。
「クラクは唐揚げだけの存在ではない……ッ。人間どもはペペロンチーノ風にした物や、マリネ、最近流行っているパスタに入れて楽しんでいるようだ。様々な美食で我を楽しませてくれ、使徒よ……!」
「はい。了解しました」
早口気味なその喋りを思わず微笑ましく感じてしまう。
初めはちょっと戸惑ったが、この神様も少し人見知りで、少し何かを患っているだけで、基本的にはいい方みたいで良かった。
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