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就寝前の報告

 夕方頃まで街をふらついてから、僕たちは宿に戻ってきた。


 今は食事も終え、就寝前ののんびりタイム中。


 子供の僕とリリーだけでなく、カトラさんも服を外出時に着る物から肌触りがいい寝間着に変えている。


 この規模が大きい銀の海亭でも、それぞれの部屋にトイレはない。


 1フロアに2つずつ、廊下の突き当たりに共用のものがあるだけだ。


 だから用を足しに僕が外に出て、部屋に戻ってくると……。


 リリーが備えつきの机に向かっていた。


 下を向いて、何やらペンを動かしている。


「あ、マジックブック」


「うん。パパたちに、報告」


 僕が彼女の手元にある物の正体に気付くと、リリーは視線を落としたまま小さく頷いた。


 そうか。


 順調にネメシリアに到着できたけど、僕たちがフストを発ってから今日で1週間。


 ジャックさんたちにリリーが持たされたこの魔法の本で、現況を報告する日だったな。


 移動中は僕のアイテムボックスに入れてたけど、宿に着いてからリリーに返していたんだった。


 正直もう、いつが報告する日なのか意識から外れてたくらいだ。


 ジロジロと内容を見るのも……良くないだろう。


 うん。


 僕は自分のベッドに腰掛け、リリーのペンが止まるのを待つことにした。


 ベッドの上ではレイが丸くなってウトウトしている。


 隣のベッドに腰掛けるカトラさんも、僕と同じようにリリーのことを待っているみたいだ。


「トウヤ君。さっきリリーちゃんと話して、明日の朝にネメステッド像に行くことになったのだけれど、大丈夫だったかしら?」


「はい。じゃあ明日は朝に像を見に行って、お昼からお婆さんに漁港を案内してもらう感じですか」


「そうね。あ、せっかくだからカンバのオイル漬け。朝食にでもパンにのせて食べてみましょうか。明日お会いしたときに、感想を伝えられると良いでしょうし」


「たしかに! その方がいいかもしれませんね」


 頂き物の感想を伝えられる、いい機会かも知れない。


 カトラさん曰く念のため宿側に確認しておけば、持ち込んだ物でもオイル漬けくらいなら食堂で食べても問題はないだろうとのことだ。


 僕たちの話が一段落したところで、リリーが席を立った。


「……あら。リリーちゃん、終わった?」


「うん。パパからも返事があった」


 カトラさんの問いに、リリーが合わせ鏡のマジックブックを持ってこちらに来る。


「パパたちも明日、出発するらしい」


 本の中を見せてくれる。


 なるべくコンパクトにまとめたリリーのメッセージの下に、ジャックさんの言葉がある。


『ネメシリアに到着した。みんな元気。パパとママのこと待ってる』


『ああ良かったよ! 怪我はしてないかい? 風邪は引いてないかい? しっかり食べて、しっかり寝て、体調にだけは気を付けるんだよ! 決してカトラちゃんとトウヤ君から離れたり、1人で行動したりはしない――ごめんなさいね、パパが長々と。ママたちも明日フストを発つわ。今度は1週間後、直接。リリーも元気で』


 お、おお……。


 そこまで文字が大きくないからページが埋まったりはしてないけど、ジャックさんが親バカっぷりをいかんなく発揮しているなぁ。


 すごい。


 途中で打ち切って、連絡事項をまとめたのはメアリさんのようだ。


 リリーのこととなると普段の切れ者感がなくなり、感情豊かな表情になるジャックさんの心配そうな顔が浮かんだのか。


 僕と同じようにカトラさんも苦笑して、「ジャックさん……」と思っているのが伝わってきた。


 それからしばらく3人で話してから、瞼が重くなってきたので今日はもう寝ることにした。


「それじゃあ消すわね。おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


「……おやすみ」


 カトラさんが最後に、枕元にある魔石を使った照明の捻りを回す。


 すると部屋は真っ暗になった。


 布団にくるまりながら横を向く。


 ちょうどお腹の前辺りでレイが眠っているけれど、ベッドの大きさ的に狭さは感じない。


 僕のベッドは部屋の一番奥の窓側で、今背中を向けてる方にカトラさん、その向こうのドアに近い場所にリリーが寝ている。


 暗闇に感じた室内にも少しずつ目が慣れてきた。


 大きめの窓から差し込んだ月明かりに、綺麗な星空。


 ちょっとの間それを見てから、僕は目を閉じた。


 ……。


 で、白い空間に来ましたと。


 うん。


 昨日の夜に接触がなかったから、さすがに今日はあるだろうと薄々感じてはいた。


 だから驚きはない。


 でも目の前にいたのがレンティア様じゃなくて、僕より僅かに身長が高い、中学生くらいの少年だったから目をパチパチと瞬かせてしまう。


 だ、誰……?


 まあ、この空間で今の僕が、レンティア様以外に会う可能性がある方といえば大体の予想はつくけど。


 少年の左手には、身長を超える長さの黒杖。

 その先端にはキラリと光る石が嵌められている。


 左目を覆う革製の眼帯に、はためく漆黒のコート。


 僕が見つめていると、その少年はバシッと音が聞こえてきそうな勢いで右手を目元に被せた。


 こっ、これは……。


「よくぞ来たな! 生命と愛の女神の恩寵を受けし使徒よ――ッ!! 待っていたぞ……ォ。知性の神ネメステッドとは、我のことだ!!」


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