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身の上

「これ、どうぞ貰ってください。うちで作ってる物ですので」


 ニグ婆から木箱を受け取ったカトラさんがぺこりと頭を下げる。


「あら、本当に良いんですか? ありがとうございます」


「ほら、ちゃんと人数分ね」


 僕たち全員にくれるみたいだ。


 パッと見た感じ、そこそこ高価そうな物なのにな。


 お婆さんが最後の1つを開け、その質の良さそうな箱の中身を見せてくれる。


「カンバを天日干しにして、オイル漬けにしているんです。パンに乗せて食べても良し、それこそ最近流行ってるパスタに合わせても絶品よ」


 カンバ……か。


 萎れた黄色がかったトマトのような物が、オイルで満たされた瓶の中に見える。


 ダンドたちが天日干しにしてたのはこれだったみたいだ。


「これ、食べたことある。おいしい」


 瓶詰めを見て、リリーが呟いた。


「まあっ、嬉しい。昔にうちの母親が考案した物でね。私たちも愛情を持って作ってるから、美味しく食べてもらえると有り難いです」


「うん。ありがとう」


 柔らかく微笑むリリー。


 さっきまで絡んでくるダンドに疲れた様子だったけど、それを忘れさすくらい美味しい物なのかな?


 ちょっと期待だ。


「北から来られたってことは、皆さんは船でどこかに?」


 木箱を全部受け取ると、僕たち一行を見てからニグ婆が尋ねてきた。


 カトラさんが答えてくれる。


「いえ。ネメスシリアへは旅の途中で観光に」


「観光ですか! それこそ楽しんで行ってもらわないといけないのに、またダンドのバカがご迷惑をおかけして……すまないねえ」


 ニグ婆は後ろを見て、さっき引っ張って連れ帰ったダンドに目を向ける。


 ダンドは他のお婆さんたちに指示されながら、ふてくされた様子で天日干し用の大きな網を運んでいた。


「あの子も悪い子じゃないと信じたいんですがね。最近は人様に迷惑ばかりおかけして。父親に反発して、漁師にならないの一点張りで……」


「あ、親御さんは漁師をされているんですか?」


 漁師町でなぜか冒険者をしている上に、今は年配の方々の中で作業をしている。


 親の影が見えず少し気になっていたので、僕が訊くとニグ婆は頷いた。


「ダンドは私の息子夫婦の子で。母親はもういないんですが、父親が今も漁師を。この街で育った男は、あの年になったら漁師になるのが普通なんですがねえ。あの子は反抗するように冒険者になって、父親達が海に出ている間は監視がないから問題を起こすんです」


 だから今は無理矢理自分たちの手伝いをさせている、とニグ婆が付け加える。


 ……なるほどなぁ。


 まあ、親に反発する形で一応冒険者になったってくらいなんだろうか。


 本気で冒険者として生きていきたかったら、あまり仕事がないネメシリアを出た方がいいわけだし。


 いや、それとも単純に街を出る踏ん切りがつかないだけなのかな。


 僕はそんなことを思いダンドの心の内を想像した。


 だけど、カトラさんはどんな事情があっても人に迷惑をかける冒険者を許していないみたいだ。


 特に何の反応も示さず、話を流している。


 リリーはニグ婆に貰った瓶詰めを箱から取り出し、陽の光にかざしている。


 レイは退屈そうに、潮風に目を細めながら欠伸中だ。


 ニグ婆はダンドの今後を憂いたのか、溜息をひとつ吐いてからこちらに向き直った。


「そうだ。観光でいらしたんなら、せっかくですから街の漁師達が使ってる港を案内しましょうか。明日の昼頃でしたら時間もありますし、もしよろしければ」


「あー……」


 カトラさんが頬に手を添えて、僕たちの顔色を窺う。


 僕としては嬉しい話だけど、リリーは……うん、あまり前向きじゃなさそうだな。


 これ以上ニグ婆と関わって、今後もダンドと接触する可能性があるのを避けたがっている雰囲気がある。


 それを感じ取ったのか、ニグ婆がそっと言った。


「もちろん、ダンドはここに置いて」


 姉御だとか呼んで、ガツガツくる彼がよほど嫌だったのだろうか。


 ニグ婆の最後の一押しで、リリーの表情が明らかに良くなった。


 カトラさんが、その様子を見て苦笑しながら頭を下げる。


「で、では……」


「はは。それじゃあ明日の昼頃、いつでもここに来て頂けたら」


「はい。ぜひ、よろしくお願いします」


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