謝罪?
なんか、今日は子供っぽく見えるなぁ。
年相応って感じだ。
橋の時とは違い、防具や剣がなくラフな格好をしているからだろうか。
「今日は大人しくしているようですね」
勝手に橋を封鎖するなんて、迷惑この上ない行為。
大きな過ちで、いくら思春期の子供とはいえ許される話ではない。
しかし……。
決して態度が良いとは言えないけれど、今は普通に街で働いているみたいだ。
その普通は立派だ。
応援したくなる。
……いや、ちょっとおじさん目線になりすぎかな?
僕の言葉を聞いたカトラさんの反応は微妙だった。
「……そうね。まあ、なるべく早くここを離れましょうか」
色々と考えた様子で、踵を返そうとする。
彼に対して、あんまり良い感情は持ってないんだろうな。
昨日も、人に迷惑をかける冒険者としてダンドのことを厳しい目で見ていたし。
なるべくもう関わりたくない、ってのが正直なところのようだ。
それはリリーも同じ様子だった。
むしろ彼女の反応はカトラさんよりも酷く、あからさまに嫌そうな表情でダンドを見ている。
といっても表情が乏しい彼女のことだから、少し眉を顰めてるくらいだけど。
「そうですね。じゃあ行きましょうか」
2人の反応が別に冷たいわけじゃない。
単に僕が甘すぎるだけ。
そのことはわかっている。
だから早々にダンドに背を向け、みんなで他の場所へ移ろうとした。
した、のに……。
「ぁぁあああッ!!」
1歩目を踏み出したそのとき、後ろから大きな声が上がったのだった。
ピタリ、と立ち止まった僕たち3人の顔を、レイがなんだなんだと見ている。
…………ああ、なんで。
嫌な予感を覚え、ゆっくりと振り返る。
もうほとんど的中する気がした予感は、やはり予想通りに的中した。
ほぼ同時に振り向いた僕たちは、きっと全員が渋い顔をしていたと思う。
こうなったら、さっきまで「甘いかもしれないけれど応援したい」なんて考えていた僕も、カトラさんやリリーと同じ側にならざるを得ない。
「あんたら! まさかまた会えるなんてなッ!」
仕事を放り出し、敷地内から飛び出てきたダンドが駆け寄ってくる。
眩しいくらいの満面の笑みを浮かべて。
「探そうと思ってたんだぜ! もう1回挑戦させてくれ、姉御!!」
ん、姉……御?
その言葉が気になって止まる。
「今度はあのスゲー魔法に勝つからよ!!」
目の前まで来たダンドは、リリーのことを見ていた。
誰のことを言っているのかと思ったけど、姉御って……リリー?
僕とカトラさんがリリーの顔を覗くと、彼女はあからさまに面倒くさそうな表情をしている。
今度はさらに珍しく、口元まで歪め、呻くような声を漏らして。
「…………うぇ」
そのレアな反応に、思わず噴き出しそうになる。
が、それよりも先にまた別の声が聞こえてきた。
「コラーァッ、ダンド! あんたってやつは!!」
「げっ、ニグ婆!」
肩を跳ねさせるダンドの後ろから、カンカンな様子で、お婆さんが腕を突き上げながら近づいてくる。
白髪に、ダンドと同じ浅黒い肌。
広場で作業していた方のうちの1人だ。
「仕事ほっぽり出して何やってんだいっ。ほら、さっさと戻りな!」
「いや、ちがっ。これにはワケがあんだよ」
「はいはい。仕事が終わったらたっぷり聞いてやる……って、あらまぁ。こちらのお嬢さん方は? あんたまさか、また迷惑かけてんじゃないだろうね!」
「何もしてねえよっ。な? な? ただ昨日のことで話を……あっ」
勢いよく交わされる会話。
僕たちが圧倒されていると、ダンドが独りでに墓穴を掘ったようだ。
ニグ婆と呼ばれた女性が目を光らせる。
「昨日だぁ? 私ゃ昨日も北の橋に行って、人様に迷惑かけたって聞いたんだがね?」
「…………」
「じゃあこのお嬢さん方かい! あんたを氷漬けにしてくれたっていうのは」
「…………あ、あぁ」
この人には強く出られないのかな?
ダンドが渋々認めると、お婆さんは僕たちの方をバッと向いた。
「これはこれは。その節は、このバカがご迷惑をおかけしました。私どもの方でも手を焼いておるんですが、誠に申し訳ありません……ほら、あんたも!」
腰を低くして、謝罪してくるお婆さん。
彼女はダンドの頭を力任せに抑え、下げさせる。
「今日も目の届くところにおいて強く言っておりますので、何卒ご容赦を」
「いえ。わ、私たちはそれほど……」
代表してカトラさんが、胸の前で手をまぁまぁと動かす。
「本当に申し訳ございません! そうだ、つまらない物ですが出来たての瓶詰めでも持って行ってくださいな。この子を元の場所に戻して、すぐに持ってきますので」
「うぐっ。おいっ、ニグ婆!」
「ほら、あんたはこれ以上問題起こすんじゃないよ! 大人しく私たちの手伝いでもしときな」
お婆さんはダンドの首根っこを掴むと、早足に広場へ戻っていく。
ぱ、パワフルだなぁ……。
完全にペースに追いつけず、ぽつんと残された僕たち。
「な、なんか嵐のような人ですね……」
謝罪にかこつけて、つけいる隙を与えないためかとも思った。
でも、まあたぶん普通に性格なだけなんだろう。
それならそもそも謝ったりしなかったらいいわけだし。
僕たちが待っていると、お婆さんはすぐにいくつかの小箱を抱えて戻ってきた。
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