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道中

 荷台にはいくつか積み荷があった。


 木箱が並べられている。


 話を聞くと、ジャックさんは商人らしい。


「どうしても外せない仕事で街を離れていたんだけど、人との約束があって大急ぎでフストに戻っていたんだ。この箱は、そのついででね」


 馬車がゆっくりと動き出す。


「だけど途中で、道の先に盗賊がいるって他の商人から耳にして。急いでいたから迂回路のここを通ろうと思ったんだけど……」


「それでここに」


「うん。私もそれなりに腕には自信があるんだ。だから1人でも強行突破できると思ったが、まさかワイバーンが出るなんてね。この時期に目撃情報はなかったから驚いたよ。本当、死を覚悟した」


 あの魔物、ワイバーンだったのか……。


 手綱を握るジャックさんの手が震えている。


 冷静そうに見えたけど、心の内はそうではなかったらしい。



 ユードリッドが少し速度を上げる。


 馬車は一定のリズムで揺れながら進んだ。


 空は青く澄み渡り、心地よい気温。


 爽やかな風が吹き抜ける。


 森の匂いがした。


 鼻をくすぐる土の香り、草の香り。


 こうして馬車に揺られていると、この辺りが危険というのが嘘みたいだな。


 のんびりした道に思えてくる。


 しかし時折、木に何らかの爪痕のようなものがあった。


 熊だろうか?


 いや、それにしては大きい。


 やっぱり魔物?


 僕まで震えそうになる。


 日本って平和だったんだな……。


 もう、このことはあまり深く考えないでおこう。


 遠くの空に浮かぶ大きな雲を見つめながら、僕はそう決意した。



 しばらくすると森を抜けた。


 どうやらジャックさんと出会ったのは、迂回路というあの街道の端の方だったらしい。


 一面には美しい草原が広がっている。


 神域の周りに深い森があって、草原、街といった具合なんだろう。


 なだらかな丘の先に、市壁に囲まれた街が小さく見えた。


 距離はまだかなりある。


 ここから見てあのサイズなら、フストは結構大きな街なのか。


「トウヤ君はどうしてフストに?」


 やはりずっと気になっていたのか、これまで自分のことを話していたジャックさんは、そこで興味津々に街を眺める僕にそれとなく探りを入れてきた。


 なんて答えよう。


 悩む。


「えーと、今までいた場所を出ることになったので……他の街に行こうと思ったんです。家族もいないですし、いろんな所を見て回りたくて」


「……そうか、なるほどね」


 ジャックさんは振り向くと、優しい微笑みを向けてくれた。


「その年でそれだけ魔法が使えるなら何とかなるだろうけど、1人では不安もあるだろう?」


「はい……正直」


「フストにいる間だけでも、何でも私に頼ってくれていいからね」


「え、でも」


「大丈夫さ。わからないこともあるだろうし、なにしろ君は私の恩人だ。それに、街に入るための身分証を持っているかい?」


「身分証っ? ああいえ、持ってません。お金は持っているんですが……」


「うん、お金があるなら問題はないよ。いくつか手続きをすれば街に入れるだろう。冒険者なんかになれば身分証代わりの物も発行できるしね」


 良かった。


 そっか、城壁があるくらいだもんな。


 街に入るためにも検問があるか。


「これでも私は1人の子の親なんだよ? トウヤ君は何歳かい」


「10歳です」


 ただしこの世界では、と注釈がつくが。


「おお! それじゃあうちの娘と同い年だ。10歳が1人で……まあほら、だからぜひ頼ってくれよ」


 10歳の娘さんがいるのか。


 立派だな、ジャックさんは。


 同世代である前世の僕は独身だったし、今はその人に優しくしてもらってるというのに。


「ほ、本当にいいんですか?」


「ああ。これでも街では結構顔が利くしね」


「じゃあ……申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 異世界での最初の街だ。


 頼れる知り合いがいれば助かることもたくさんあるだろう。


 街が近づくと、門番の人にジャックさんが僕の事情を説明してくれ、手続きを行うことになった。


 さて。


 いよいよ到着だ。



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