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パスタ

書籍は5月12日発売です。

細かい修正からオリジナルの書き下ろし、oxさんによるイラストまでたっぷり収録されています!

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キャラの姿など、サイトで見ることもできるのでぜひ確認だけでもどうぞっ。

めちゃくちゃ素敵です……!

 こっちの世界に来ても、祠では麺類を食べていた。


 パスタにうどん、素麺に蕎麦。


 だからあの時は何も思っていなかったけど……。


 祠を出てフストに着き、世界には麺類が存在しない土地があることに気付かされた。


 まあ文化だけでなく、世界まで違うのだから当然なのかも知れない。


 だけど、僕にとってはかなり衝撃的な事実だったのだ。


 次に麺類にありつけるときは来るのだろうか。


 そう思えば思うほど、余計に食べたくなる。


 なるべく考えないようするのが、精一杯だった。


 好きの度合いにもよるだろうけど、前まで普通に食べられていた物が食べられなくなる。


 その辛さは、なかなかのもの。


 食事については、他にもお米が食べたかったり炭酸が飲みたかったりもするけれど……。


 そうか。


 ついにパスタに、この世界で最初の麺料理に出会えるのかぁ。


 溢れ出てくる唾をゴクリと飲み込む。


「あ。い、いきなりすみません」


 謝りを入れてから腰を下ろすと、リリーが首を傾げてこっちを見てきた。


「トウヤ。パスタって、知ってるの?」


「……た、偶々聞いたことがあってね。耳に挟んだことのある名前だったから、つい。ほんと、それだけ」


「…………」


 ジーッ、と向けられる視線。


 な、何か疑われてる?


 パスタはネメシリアでも最近流行っている物らしいから、起源がどこなのかは分からない。


 だから変な事は口にしないように気をつけたいところ。


 僕が笑って誤魔化そうとしていると、カトラさんが間に入ってくれた。


「だったらそうね。明日はまず、そのパスタをみんなで食べに行ってみましょうか! 私も気になるし」


 美味しい物が嫌いな人間はいない。


「……うん。いくっ」


 リリーはすぐに僕から視線を外し、反応した。


 カトラさん、助かりました。


 気を遣ってくれた様子の彼女に目でそう伝える。


 すると、カトラさんは微笑み返してくれた。


 その後、隣の席のおじさんたちに店の場所を聞いたりしながら、食事の時間は楽しく過ぎていった。






 次の日。


 やっぱりベッドがあると快眠だ。


 蓄積していた疲れが一気に吹っ飛んだ気がする。


 かなり良いベッドだったんじゃないかな?


 僕が日本で使っていた物より、レベルが高かった気がする。



 まだ目が覚めきらないが、ぽやぽやとしながら僕たちは朝食を軽めに済ませ、街へ繰り出すことにした。


 昨日ちゃんと情報を得たので準備はバッチリだ。


 宿の前で、朝が訪れたネメシリアを見渡す。


 昨日は港にあった船が、沖の方に小さく見えた。


 海は朝の光に照らされ、眩しく輝いている。


 陽の光が強いからか、街は色が濃い。


 影もフストよりハッキリしている気がした。


「おお……」


 僕とリリーがその光景を見て感嘆していると、ユードリッドの世話を終え、カトラさんが戻ってきた。


「何度見ても良い景色ねぇ。じゃあ、行きましょうか」


 レイは僕が抱えて、坂を下っていく。


 宿がある高台を抜けると、一気に人が増えた。


 …………。


 飲食店は食事時しか開いていなかったフストとは違い、人の行き交いが激しい港町のネメシリアでは、レストランの営業時間が長いそうだ。


 今回の目的地は、比較的静かな道沿いにある大きな店だった。


 事前に、レイを連れていても問題がないテラス席があることは確認している。


 そこに通された僕たちは、店のおすすめの一品を注文した。


 ……そういえば、初日の夢では神様たちからの接触はなかったな。


 3人で欠伸をうつし合いながら、そんなことを考えていると料理が運ばれてくる。


「お待たせいたしました。こちら、シーフードパスタになります」


 それぞれの前に出される器。


 ぼわっと立ち上る湯気からは、魚介とトマト系の香り。


 パスタは赤いソースに絡められており、中にはムール貝っぽい貝や、イカらしき食材などが入っていた。


 見た目は地球のパスタとほとんど同じだ。


 カトラさんとリリーが、目をキラキラさせている。


「美味しそうね!」


「わ~っ……」


 2人がフォークを手に取ったので、僕もいただきます、と手を合わせてから早速パスタを口に運んでみた。


「お、美味しい……!」


 まだ熱々だったが、ソースの程よい酸味と魚介の旨味が味覚を刺激する。


 モチモチとしながらも、プツンと切れるパスタ。


 噛むたびに味が滲み出てくる貝などの具材。


 頬が落ちそうなくらい、感動的な味だ。


 今まで麺類が食べられず我慢していた分、人生で最高のパスタに出会えたような気がする。


 ハフハフとしながら、無言で次の一口へ。


 ……これは、ネメシリアにいるうちに満喫し尽くさないとなぁ。


 メニューによると、他にも色々なバリエーションのソースがあるみたいだったし。


 まあ、なんとしてでもパスタはアイテムボックスに収納するつもりだけど。


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