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銀の海亭

「ようこそ、銀の海亭へ!」


 僕たちを迎えてくれたのは、40代くらいの女性だった。


 名前はブレンダさんと言って、この宿を切り盛りしている女将さんらしい。


「お世話になります」


「ああ、ぜひ満喫していってちょうだい。じゃあ案内するわね」


 僕が挨拶をすると、ブレンダさんはニカッと笑って奥へ進んでいく。


 明るくて元気な雰囲気の人だな。


 諸々の手続きや確認は、先にカトラさんが済ませてくれている。


 自分たちの部屋では、無力化状態だったらレイを自由にさせて良いとのことだった。


 この世界の宿は、個室だったら大体融通を利かせてくれる所が多いそうだけど、本当に有り難い。


 ブレンダさんに案内されて3階へ上がる。


 最上階か……。


 外観からも分かったけど、かなり大きい宿だな。


 2階建てだった高空亭に比べ、高さも広さもある。


 一般的な旅館くらいの規模感だ。


「この部屋だね。説明はしてあるけど、何かあったら声をかけてちょうだい。どの従業員にでもいいから」


 ブレンダさんはある部屋の前で足を止めると、扉に鍵を差し込んだ。


 他に数人の従業員がいるのか。


 ここもグランさん以外は、アーズだけだった高空亭とは違う点だな。


「今は何か……」


「ないわ」


「よし、じゃあこれが鍵ね。旅の疲れもあるだろうから、ごゆっくり」


「ええ。助かったわ、ありがとう」


 テンポ良くやりとりがあり、カトラさんが鍵を受け取る。


 日本の旅館より、かなり気楽で手っ取り早い。


 むしろフストのお店と比較しても、さっぱりした対応という印象だった。


 港町のネメシリアだからなのか。


 それともブレンダさん個人のキャラクターによるものなのか。 


 まあ、嫌な感じがしないから全く問題ないけど。


 案内を終え、ブレンダさんは元来た道を大股で戻っていった。


 カトラさんに続き、僕たちも部屋へ入る。


「うわ……」


 大きな宿の最上階。


 そしてここまで歩いてきた廊下の雰囲気から予感はしていたけれど、これは想像以上だ。


 そこそこ広い室内に、ドンドンドンと置かれた3つのベッド。


 馬車では全員で寝ていたし、もう今更3人部屋であることは構わない。


 街でくらい、男の僕は1人部屋でもいいとは思うが。


 今は子供の体だし、リリーも同じ10歳でカトラさんも大人っぽいとはいえ実際はまだまだ若い。


 変に気苦労する心配はない。


 が、しかし……。


「うん、良い部屋ね」


「いやカトラさんっ。僕たち、本当にこの部屋に泊まるんですかっ?」


「そうよ?」


「あの……お、お金……」


 気になるのはそのことだ。


 僕にもある程度は貯金がある。


 それを上回るくらい、カトラさんとリリーも所持しているだろう。


 でもこれからのことを考えて、なるべく節約していくべきなのでは?


 なのに、この部屋って……。


「おぉー、きれい」


 お嬢様のリリーが口を丸くして、窓の方へ駆けていく。


 その先に広がっているのは、ネメシリアの街を一望できる景色。


 高台に位置するため、美しい眺望を堪能できるらしい。


 海には大小様々な船が見えた。


 部屋の広さもそうだが、この見晴らしを考えるに一泊いくらするんだろう。


 カトラさんがリリーの隣へ行く。


 僕も後に続き、懐事情を心配してカトラさんを見上げた。


 すると、彼女は案外ノリノリな様子でサムズアップしてきた。


「大丈夫よ。旅はお金を稼ぎながら、街でお金を使うものなんだから。移動中以外くらい、とりあえずジャックさんたちが来るまでの1週間は快適に観光することにしましょう」


 あ、いいお値段なのは否定しないんだ……。


 まあたしかに、移動中は野外で寝てたから、宿にくらいお金をかけるのは一理あるのかも知れない。


 けど、い、一応3人全体での残金だけは逐一確認しておこうかな?




 夜。


 レイにご飯をあげてから、僕たちも1階にある食堂へ来た。


 温かみのある照明に、広々とした食堂。


 ほぼ全席が埋まっている。


 部屋数が多いから、ほとんどが宿泊客だろうか。


 目の前のテーブルに並んでいるのは、港町ならではの料理だ。


 知らない魚のアクアパッツァに、魚介スープ。


 一緒に出されたバゲットも品質が高い。


「ほんとだ、美味しいですね!」


「おいしい……!」


「でしょう? せっかくネメシリアに来たんだから、レストランにも行きたいわよね~」


 僕とリリーが感動していると、カトラさんが指を折りながら目的のレストランを数え始める。


 ワインをグラスで頼んだので、ほろ酔い機嫌だ。


「あ、メシか? だったらあれは食った方がいいぜ」


 その様子を見て、隣の席のおじさんたちが話しかけてきた。


 耳まで真っ赤で、2人とも完全に出来上がってる


「あー……なんつったっけ? あれだよな、あれ。最近流行ってる……パ、パ……」


「バカ。パスタだよ、パスタ」


「──えっ。ぱ、ぱ、パスタ!?」


 聞き流すくらいに思ってたけど、僕は気がついたら立ち上がっていた。


「わっ、どうしたのトウヤ君」


 カトラさんもリリーも、おじさんたちも驚いている。


 だけど仕方がないだろう。


 パスタ。


 元々好物だったこともあるが、それだけでなくここ最近僕は……久しく食べれていない麺類を、実はめちゃくちゃ食べたくなっていたのだから。


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