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ネメシリア

 フストのような門は見当たらない。


 しかし、一応衛兵がいる詰め所があるみたいだ。


 その前で、街に入るための列が出来ている。


 結構並んでるなぁ。



 向かって左手に伸びている道では、盛んに馬車が行き交いしている。


 たしか前に地図を見た感じだと……。


 あっちは僕たちも次に行く予定の、迷宮都市などがある方向だったはず。


 船で運ばれてきた物が、いくつかの主要都市にどんどん輸送されていっているのだろう。


 さっそくネメシリアの活気を感じる光景だ。


 ……。


 僕たちも列の最後尾に並び、自分たちの順番が来るのを待つ。


 街へ入るための手続きは、ギルド証を提示するだけで済んだ。


 冒険者の仕事があまりない街でも、通行証としての役割はしっかり果たしてくれるらしい。


「ふぅ……じゃあまずは、宿を当たってみましょうか」


 カトラさんも旅に慣れているとはいえ、最初の移動で気を張っていたのだろう。


 無事に到着し、ほっとしたように息を吐いた。


 次々に進んでいく馬車の流れに止まらずに続く。


「そうですね。いい所があればいいんですが……カトラさん、どこかご存じですか?」


「1つ心当たりがあるから、とりあえずそこに行ってみるわね。冒険者時代に利用したことがあって」


「わかりました。リリーもそこでいいかな?」


「うーん……カトラちゃん。そこ、ご飯おいしい?」


「そうねぇ。記憶では、お父さんの料理に負けず劣らず美味しかったわ」


「グランさんの……。じゃあ、そこで大丈夫」


「ふふ、それじゃあ行きましょうか」


 目を輝かせて即決するリリーを見て、カトラさんは可笑しそうに目尻を下げた。


 高空亭の料理と同じくらい美味しいなんて。


 期待が膨らむ言葉だ。


 街へ入っていくと、さぁぁっと風が吹き抜けた。


 海の匂いがする。


 比較的ゆとりを持って建てられた家が建ち並ぶエリア。


 そこを抜けると、段々と建物が密集してきた。


 道を歩く人の数も、気がつくとかなり増えてきている。


 久しぶりだな、この感じ。


 日本の街中に近い。


 まあ、近いだけで人口密度は全然マシなんだけど。


 ネメシリアの街並みは、海の向こうにある別の文化圏の影響なのか、フストとはかなり違うようだ。


 建物は白く塗装されている物が多い。


 それに、どこか民族的で涼しげな服を着た人が結構いる。


 僕も機会があれば、せっかくだから着てみたいな。


 フストでは滅多に見なかった浅黒い肌の人たちも、かなりの割合でいることが見て取れる。


 漁師と商人の街だからか、ガタイがいい人や街角に積み重ねられた木箱に入った果物なんかが多く目に入った。


 エネルギッシュで、賑やかな街だ。


 リリーと興奮気味なレイと一緒に、僕も胸を高鳴らせながら街並みを眺めていると、新鮮な光景だからか、祭りでもないネメシリアの普通の1日が華やかに映った。


「……あっ、そうだ」


 もしかしてもう、レンティア様だけじゃなくネメステッド様にも見られているのかな?


 こんなに街に入って直ぐからなのかはわからないけど。


「どうか、した?」


 思わず声に出してしまったものだから、リリーに不審に思われたみたいだ。


「あーいや、忘れてたことを思い出しただけ。いきなりごめん」


「……?」


 ジッと見つめられ、さらに首を傾げられる。


 使徒であることを打ち明けられたら、普通に説明できるんだけどなぁ。


 でも、僕の隣にいたらリリーたちも時々神様に観察されているわけだから、知らないままの方が良かったりするのかもしれない。


 不可抗力で知られる時がくれば気楽なんだけど。


 教会でアンナさんたちに、レンティア様に謁見する瞬間を見られたように。


 僕も交流のないネメステッド様に見られていると思うと緊張するから、もうあまり気にしないでおこう。


 とにかく、貢物に良さそうな物を探しておけば大丈夫なはずだ。


 あとはあちらからの接触を待てばいいだろう。


「着いたわよ~」


 しばらくすると、少し高台になった場所にある宿に到着した。


 カトラさんが空き部屋の有無を確認してきたところ、問題なく泊まれるとのことだった。


 宿の隣にあるスペースに馬車を止める。


 ユードリッドは横の厩舎で休むことになるらしい。


 1週間後、ジャックさん夫妻が来るまでは、観光をする予定になっている。


 宿へ入りながら、僕は旅の最初の目的地での日々が始まることを実感した。


 本当にわくわくだ。


 フストでは前世も含めて、一番刺激的で自由で、マイペースな数ヶ月を過ごした。


 次はこの街で、一体どんなことがあるんだろう?


 神域の祠を出たときとは違い、今回は不安だったりはしない。


 カトラさんもリリーも、レイもいる。


 心の底から楽しみ、ただそれだけだ。


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