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到着

 あと少しで橋を渡り終えるという所で、対岸側から来た馬車とすれ違った。


 遠目ながら、リリーがダンドを打ち倒すところを見ていたんだろう。


 興味ありげに全員が、ほえーっといった顔でこちらを見ている。


 ……うん、やっぱり驚いて当然だよなぁ。


 彼らの顔を見て、僕がちょっとだけ落ち着けたのは内緒だ。


 カトラさんとリリーがあんまり普通のテンションだったから、戸惑っていたのだ。


 後方に目を向けると、さっき足止めをくらっていた人たちも後に続いてきているのが見えた。


 ……。


 フィンタボック川を越え、およそ30分。


 馬車を走らせながらカトラさんとリリーは会話を続けていたが、僕は上の空だった。


 リリーの魔法が、目に焼き付いて離れない。


 僕もカトラさんから教えてもらったおかげで、生活魔法だけでなく初級の一般魔法を使えるようになった。


 今ではウィンド・スラッシュでの攻撃にも自信が芽生え始めている。


 だけど……。


 2つの魔法を同時に詠唱。

 発動させた魔法の効果を組み合わせる。


 リリーが放ったあの魔法の高度さが、鮮烈な印象となって自分の中に残っていた。


 あんな魔法を、僕も使ってみたい。


 日本で育ち、魔法は架空のものだと思ってきたためか、やはり僕はかなりファンタジーな要素が好きらしい。


 今もこうして、ワクワクしながら熱が高まっていくのがわかる。


 荷台の後ろで空を見上げ、何度もリリーの魔法を頭の中で思い描く。


 すると途中で、馬に跨がった2人の男性とすれ違ったことに一拍遅れて気がついた。


 あの人たち……。


 軽めの装備だけど、話に聞いたネメシリアの兵士たちかな?


 ここは橋からの一本道ではなく、すでに何本かの道が合流した地点のため、僕たちは他の所から来たと判断されたのかも知れない。


 特段声をかけられることもなく、彼らはそのまま後方へ進んでいった。


 ……ん?


 そういえばロッカーズ大橋の通行を妨げるダンドの対応をするため、毎回昼頃にはネメシリアから衛兵が来るって聞いたけど……。


 それって街から距離があったら大変なんじゃ?


 カトラさんからは、今日は橋を越えるということしか教えてもらっていない。


 元の予定でも1週間ほどで到着するということだったネメシリアの街。


 あと少しだとは思っていたけれど、そういえば橋から街までの距離は把握していなかったなぁ。


 ここまでの旅は、順調すぎるほど順調だった。


 そして昼頃までには橋に来るネメシリアの衛兵たち。


 そうか。


 ここまで来たらもう大体わかる。


 もしかしたら予定より早く進んでいて、すでにネメシリアのすぐ近くまで来ているのかもしれない。


「あの、カトラさん。ちょっといいですか?」


 体を捻って前を向き、御者台のカトラさんに声をかける。


「ん、どうかした?」


「えーっと……ネメシリアって、もう近い――んですよね?」


「そうね。あとロッカーズ大橋からここまでの倍の時間もあれば到着すると思うわ。ユードリッドが優秀だから良いペースで来れたけれど、でもやっぱりようやくって感じるわねぇ」


「そ、そうですね。ありがとうございます」


 何故か知っていた風に見栄を張ってしまい、リリーから不思議そうな目で真っ直ぐと見つめられる。


 き、気まずい。


 僕はなるべく自然を装って顔の向きを直し、また馬車の後ろ──奥へと流れていく景色に目を向けた。




 太陽は高いところにあり、まだ傾いていない。


 青い空を照らす眩しい陽の光に、街の向こうに広がる海。


 カトラさんの言葉通り、1時間もするとネメシリアの街が見えてきた。


 大きな湾になった場所に位置しているらしいが、ネメシリアの印象は迫り出した半島が丸々巨大な港町になった感じだ。


 陸地にほとんど魔物がいないためか、フストにあった市壁のような物は見当たらない。


 地中海沿岸の街みたいな雰囲気だな……行ったことないけど。


「トウヤ君、そろそろ街に入るからギルド証貰えるかしら?」


「あっ、そうでしたね。えー……はい、どうぞ」


「ありがと、助かったわ」


「いえいえ。リリーも」


「うん。ありがとう」


 カトラさんに言われ、アイテムボックスから全員分のギルド証を取り出しそれぞれに渡す。


 ギルド証をずっと首に掛けておくのは邪魔だったから、僕は必要なとき以外は収納するようにしていた。


 初めはそれを見たリリーに頼まれ、フストを出てからすぐに彼女の分だけ預かっておくことになったのだ。


 冒険者歴が長いカトラさんは最初、「私は慣れてるから大丈夫」と遠慮していたが……。


 やっぱりない方が楽そうだと思ったんだろう。


 結局後から手を合わせられ、僕が3人分のギルド証を収納しておくことになったのだった。


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