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腕試し

 自分がいくと言っているリリーだが、本当に大丈夫なのか……。


 心配だ。


 まあカトラさんもいるわけだし、危険があると判断したらさすがに止めてくれるだろう。


 橋の中央で仁王立ちしている男性は、近づいてくる僕たちをじっと見ていた。


 思ったよりも若いな。


 青年と言うより、少年くらいだ。


 高校生……いや、この辺りは日本人よりも大人に見える人が多いからなぁ。


 もしかしたら中学生くらいなのかもしれない。


 浅黒い肌に、黒髪。

 鞘に入った両手剣を手にしている。


 カトラさんは彼から10m程の距離を空けて馬車を止めた。


「ここ、通してくれないかしら?」


「あぁ? お前ら、向こうで何も聞いてねえのかよ? ここは、オレに勝てる強ぇヤツが現れるまで誰も通さねぇ! ガキと女じゃ相手になんねえから、さっさと戻りな」


「はぁ……」


 こめかみに手を当て、カトラさんはやれやれといった様子だ。


「リリーちゃん、好きにやっていいわよ。貴女だったら絶対に勝てるから」


「うん、わかった」


 リリーは頷くと同時に、荷台から飛び降りた。


「わたしが相手する」


「……はぁ?」


 目の前に歩み出てきたのは、1人の少女。


 少年は口をあんぐりと開けている。


「ブフッ。ちょ、おまっ、何の冗談だよっ?」


「冗談じゃない。いいから、早く」


 しかし、あくまで真剣なリリーの目を見て、逡巡する少年。


 しばらく固まった後、彼は肩を落とした。


「まあいいけどよぉ……。一応剣は使わねぇが、怪我しても自己責任だからなっ?」


「別に剣を使ってくれても構わない」


「おいおい。オレは相手がガキだからって手を抜いたりはしねえぜ? 警告はしたからな」


「大丈夫。わたし、魔法が使えるから」


「魔法か……なるほどな? でも勝負になんねぇと思うぜ、その年齢の魔法使い程度じゃ。大抵の場合、対人戦の基本は筋肉だからな!」


 少年が、力こぶを作り誇示するように見せてくる。


「「「…………」」」


「…………ご、ごほん。まっ、じゃあ勝負といくか」


 リリーをはじめ、僕たちの反応が薄かったからだろう。


 少し恥ずかしそうにしているが……。


 なんか、憎めないところがある子だなぁ。


「本当に、このガキが相手でいいんだな?」


 最後に改めて、少年がカトラさんに確認してくる。


「ええ。悔いが残らないように存分に挑むと良いわ」


「ったく……マジで知んねぇからな。おいガキ。お前、名前は? オレはダンドだ」


「リリー」


「リリーか、覚えたぜ。んじゃあ、かかってきな。なるべく痛まねぇように終わらせてやるからよ」


 やはりまだ年端もいかぬ少女に剣を向けるのは抵抗があるのか。


 ダンドと名乗った少年は、その手に持つ剣を思いのほか丁寧に地面に置くと、腰を低くして構える。


 橋を封鎖するだなんて迷惑な行為をしてはいるが、決して危険な人物ではないみたいだ。


 だけど……。


「カトラさん。本当に大丈夫なんですか、リリ-?」


 リリーの魔法の腕は、Cランク冒険者並らしい。


 しかし、やっぱり止めた方がいいんじゃ、といざ戦いが始まるとなって不安になる。


 本人もやる気があるみたいだったけど、わざわざ自ら首を突っ込まなくても。


 日本出身の小市民な僕からすると、正直考えられない。


「大丈夫、大丈夫。言動からもあのダンドって子、予想通り強くないみたいだから。それにリリーちゃんの魔法、トウヤ君も見たらびっくりするわよ? 使える魔法はCランクくらいだけど、その洗練され方が天才のそれだから」


 少年の準備が整ったと見て、リリーは魔法を発動させようとしている。


 ブゥォン……ッ!


 その時、まるでそんな音が聞こえそうな勢いで、彼女の体内に秘められていた莫大な魔力が発せられたのがわかった。


 ほんの一瞬、自分の魔力の流れを感じられなくなるほどの圧倒的な魔力量だ。


「なっ!?」


 ダンドが目を見張っている。


 それは、僕も同じだった。


 リリーがなんと、同時に2つの魔法を詠唱していたのだ。


 何か嫌な予感がしたのか、ダンドが前に出ようとする。


 が、手遅れだった。


 リリーの両手から、高速で詠まれた異なる魔法が発動される。


「『ウィンド・プッシュ』『アイス・スワンプ』」


 目に見えない風の塊に、横から殴られるダンド。


「ごふっ……!」


 凄まじい勢いで飛ばされた彼の落下地点。


 橋の欄干や、その近くの地面には氷の沼が出来ていた。


「うお!? な、なんだよこれっ!」


 氷の沼はダンドの脚や背中に纏わり付くように凍り、捕らえているようだ。


 必死に動き、抜け出そうとしているがびくともしていない。


 僅か一手の先制攻撃。


 それで……決着。


「ね、凄いでしょ?」


「……は、はい」


 僕はリリーの背中から目を外せないまま、カトラさんの質問に頷く。


「わたしの勝ち」


 そのリリーはというと、そう言って涼しい顔のまま馬車に戻ってきた。


「リリーちゃん、ナイスね」


「ありがと」


 カトラさんとリリーがグータッチをしている。


 そして、何事もなかったかのようにすぐに馬車は動き始めた。


「どうだった、わたしの魔法」 


 何やらギャーギャーと騒いでいるダンドの横を通過する頃、リリーが僕に訊いてきた。


「お、驚いた……かな? 正直想像以上だったというか、カッコよすぎて」


「そう。なら良かった、頑張って」


 答えに満足したのか。


 むふん、とリリーはどこか誇らしげに目を細めた。


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イラストやキャラたちの姿、地図なんかもまとめて見れるのでぜひどうぞ。

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