旅の朝
お久しぶりです。
こちらでも、ぼちぼち更新を再開していきたいと思います。
また日々の楽しみになれるよう頑張っていきますので、のんびりと地道に旅する本作にお付き合いいただけると嬉しいです……!
しばらくするとカトラさんが起きてきた。
「おはようございます」
「あら、今日は早いわね。おはよう」
「はい。ちょっと目が覚めてしまって」
自分が使徒であることは、まだ言ってない。
いつかは伝えるべきなのか、どうなのか。
うーん。
正直まだよくわからない。
「朝ご飯、今日はどうします?」
「そうね……パンとスープにしましょうか。パパッと出発して、予定通りに今日中に大橋を渡っちゃいましょう」
「わかりました。じゃあ、準備しておきますね」
「よろしく頼むわ。私は……リリーちゃんたちを起こして、荷台の整理とユードリッドの様子を見ておくから」
カトラさんはそう言うと、馬車の方へ戻っていく。
よし、じゃあっと。
僕は平坦な場所にアイテムボックスから出した小さめのテーブルを置き、次にその上に鍋を取り出した。
蓋を開けると、湯気がぶわぁっと立ち上る。
うん、まだ温め直す必要はなさそうだな。
冷めないうちに3人分の器に注ぎ、急いで収納する。
大きめの皿に並べたパンも焼きたての状態で入れていたから、いつでもフワフワな物を食べられる。
やっぱりこれ、アイテムボックスの中に収納しておけば時が止まった状態になるって、何度考えても凄い機能だ。
僕の他にも、この世界にはアイテムボックスを持つ人は稀にいる。
そしてさらに極々稀に、同じような『収納した物が劣化しない』タイプを持つ人もいるそうだ。
だからカトラさんとリリーの前では普通に使っている。
しかし、知らない人の前ではあまり堂々と使用しない方がいいだろう。
面倒なことになるのはご免だ。
わざわざ教えることでもないだろうと、収納できる容量についてはリリーにも伝えてないくらいだし。
そんなことを考えていると、レイを引き連れリリーが馬車から降りてきた。
しょぼしょぼの目で、鼻で匂いを嗅いでいる。
朝食の香りに引き寄せられて来たみたいだ。
「……今日は、作らないの?」
「うん。カトラさんがパパッと食べて、出発しようだって」
「わかった」
リリーは少し残念そうにしながらスープとパンを取り、荷台の後ろに腰掛ける。
この様子だと、やっぱりリリーもその場で自分たちで作る方が楽しいのかな?
カトラさんが野営の醍醐味だと言って、僕たちはお肉を焼いたりしている時もある。
昨日は朝と夜、どちらもそうだった。
手間は増えるけれど、僕も旅感を楽しめるから野営メシは好きだ。
寄ってきたレイを撫で、フストを出た後に川で大量に釣り、焼いておいたギンウヤをあげる。
食事は人間と同じでもいいらしいが、一応お肉ばかりにならないようしたり、塩分を少なめにしたりして気を遣っている。
そういえば、グランさんから頂いたホットドッグは……。
これも使徒であることと同様に、持っていることを誰にも言っていない。
好物だし、数に限りがあるんだ。
独占して隠しているみたいで後ろめたさもあるが、これだけは申し訳ない。
週に1回だけ、計画的に食べようと思っている。
カトラさんとリリーがいない所で、こっそりと。
「トウヤ君~ちょっといいかしら?」
「あっ。は、はい!」
ホットドッグのことを考えている最中に突然呼ばれたので、ドキッとしながらカトラさんの下へ行く。
すると、ブラッシングをされたユードリッドが食事を待っていた。
アイテムボックスからユードリッド用の餌を出す。
その後、僕たちも食事を済ませ、本日の移動を開始することになった。
移動中、少しでも重量を軽くするためにレイは無力化状態だ。
フストにいるときに続けていた魔法の練習や、短剣の素振りは休憩などの暇な時にしている。
だから基本的に、馬車の中では3人で会話をしたり、ぼうっと景色を眺めていたりすることが多い。
以前、そんな中リリーに魔法を見せてもらえないか頼んだことがある。
『……うん、いいよ。機会があれば』
返ってきた答えは、そんなものだった。
一瞬、嫌がられたのかと思ったけど、そういうわけではなかったんだろう。
リリーは肩の力が抜けているというか、自然体な性格だから。
たぶん単純に「見せる機会があれば見せるよ」ということだったんだと思う。
僕としては気になるから、早く見てみたいんだけどなぁ。
まあ急かすことでもないか、と今日も荷台の前の方へ行き、レイを撫でながら振り返っていると、突然「あっ」と御者台に座るカトラさんから声が上がった。
僕とリリーが同時に見ると、前方を指でさしているカトラさん。
「見えてきたわ。あれが王国と公国の間に流れるフィンタボック川。そしてロッカーズ大橋ね」
「おぉー!」
これは凄い。
今いる小高くなった草原から見下ろすように、日本ではお目にかかれなかったレベルの大河を一望できた。
海みたいな規模だけど、確かに川だ。
右から左へ伸びている。
深さはそこまでないのかな?
大きな橋が真っ直ぐと建てられていた。
あの橋を渡ると公国に入るのかぁ。
「って……ん?」
僕が異変に気付いたのは、2人と同じタイミングだった。
みんなの疑問を代表するように、カトラさんが橋の入り口に目を向けて口を開く。
「なんか、人だかりが出来てるわね……」
10台以上の馬車が止まっている。
列と言うより、足止めを食らっているみたいだ。
お読みいただきありがとうございます。
引き続きトウヤたちの物語をよろしくお願いします!
そして……今回はなんと、かなーり大切なお知らせがあります。
ズバリ、『本作の書籍化』が決まりました!!
更新が滞ってしまっていたのは、その関係で作業が増えたり、その他いろいろとあったり……。本作を気に入っていただき、皆さんに楽しんでいただけたからこその書籍化なのですが、長らく申し訳ありませんでした!
ようやくこうして発表できる段階まで来れたので、これだけは言わせてください。
本当に、ありがとうございます!!
物語の火を途絶えさせないよう、また頑張っていきます。
裏を返せばエタることはなく、頑張ると言う表明でもありますので、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。
発売予定日は、『5月15日ごろ』。
すでに表紙をはじめ、登場キャラが見られるイラストも公開されていますので、イメージだけでも確認したいという方も↓の公式サイトからご確認いただけると幸いです!
かなり加筆修正も頑張っているので、たまには買ってみようかな、と気が向いた方は今のうちに各種サイトなどで予約のほど、よろしくお願いいたします!!
物語を振り返る意味でも、書籍版で通勤通学中などに、さらに面白くなった(当社比)異世界旅行の気分を味わっていただけるかも……?
https://www.sbcr.jp/product/4815618483/
(さらに↓にある、《書籍版》を押して直接ページに飛ぶこともできます)