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結論

 ジャックさんに続き、屋敷の中へとお邪魔する。


 レイも連れてきて良いとのことだったけど、本人が地面に降りたそうにしていたので降ろしてみた。


 ユードリッドがいる日陰で、自分もまったりと待つつもりらしい。


 一応ジャックさんに許可を得てから、レイにはここで待っておいてもらうことにする。


 ユードリッドと問題を起こすということもないだろう。


 レイ自身、警戒のかけらもないようだったし。



 それにしても改めて凄いなぁ。


 屋敷の廊下には、ふかふかの絨毯が敷かれており、端から端までかなりの距離がありそうだった。


 洋館として王道なタイプだと思う。


 ……と、そこで。


 カトラさんから本日付でギルドを退職したことなどを聞いていたジャックさんが、立ち止まって僕たちを交互に見た。


「私は着替えてくるから、すまないが先に行っておいてくれるかな? 少し待たせてしまうが……」


 構わないと伝えると、彼は傍に控えていた執事さんに声をかける。


 門を開け、僕たちを中へ入れてくれた男性だ。


「セバス、2人を応接間に案内してくれ」


「承知いたしました。では、こちらへ」


 そのまま僕たちは1階の左手に。


 ジャックさんは駆け足で階段を上り、2階へと消えていく。


 通された応接間は、前世で僕が住んでいた部屋全体よりも広いくらいだった。


 カトラさんと並んで座ると、セバスと呼ばれていた執事さんが紅茶を出してくれる。


「あ、ありがとうございます」


 緊張するな。


 カトラさんは普通だけど、僕はそわそわしてしまう。


 まだ、ここがジャックさんの家であることだけが救いだ。


「あれっ?」


 気持ちを落ち着かせるため、カップを手に取ったら冷たくて驚いた。


 この世界に来てから、紅茶なんかはホットが基本。


 ポットから注がれたので、今回も温かいと思っていたんだけど……。


「あのポット、注ぎ口に魔法がかけられた魔道具らしいわよ? 私も前にお邪魔したとき、驚かせられたわ」


 そんな僕を見て、カトラさんがこそっと教えてくれた。


「魔道具ですか。喉が渇いているとき、氷いらずで冷たい飲み物を飲めるなんていいですね」


「そうね。ジャックさん、魔道具が好きだから。商会で扱う物の他にも、たくさん持ってるらしいわよ。まあトウヤ君やリリーみたいに魔法が得意だったら、必要ないのかもしれないけど」


「いえそんな。僕も興味ありますよ? 魔道具」


 魔法は魔法。

 魔道具は魔道具だ。


 お金が充分に貯まったら、ぜひ1つくらいは買ってみたいと思っている。


 効果云々よりも、ロマンとして。


 心外な、と言い返すような口調に聞こえてしまったのか、カトラさんは可笑しそうにクスッと吹き出す。


「ごめんなさい。トウヤ君も、やっぱり男の子ね」


 ど、どういう意味なんだろうか……。


 イジられたというか、何というか。


 子供扱いされた気がして、小っ恥ずかしくなる。


 会話を断ち切り、アイスティーで喉を潤していると扉が開いた。


 ジャックさんだ。


「お待たせ。じゃあまずは、ユードリッドの世話や荷台について話そうか」


 手に分厚い本を持ったジャックさんは、先ほどまでの作業着とは違い、いつも通りの服装になっている。


「リリーはもうしばらく時間がかかるそうだ。勉強中でね」


 そう言いながら僕たちの向かいに腰を下ろした彼は、さっそく馬車関連のことを教えてくれた。


 形式上はカトラさんへの贈り物となったけど、僕もしっかり話を聞いておく。


 ……。


 一通りの話を終える頃、再び部屋の扉が開いた。


 涼しげなワンピース姿のリリーがやって来る。


 彼女もまだ、ジャックさんから何も聞かされていないのか、珍しくどことなく緊張した面持ちをしていた。


「リリーも来たことだ。それじゃあ年越し祭のパーティーでの続きといこうか」


 ジャックさんはリリーに隣に座るように言うと、そう切り出した。


「まず、結論からだが……」


 部屋に入ってきた時に持っていた、分厚い本を机に置く。


「これから話し合うことで提示する条件を飲み、約束を守ってくれると言うのなら──私とメアリは、リリーが君たちの旅について行っても良いと考えている」


 ……え。


 いやいや。


 あまりにあっさり出された結論に、僕は思わずカトラさんとリリーの顔を見た。


 あんなに反対していたメアリさんも認めた?


 カトラさんは真剣な表情で、眉根を寄せている。


 実際に僕も不思議に思った。


 可愛い我が子を、魔物以外にも危険があるこの世界で旅に出しても良いのだろうか。


 リリー個人の意思は尊重したいと思ったけど、さすがに無理がある話だと思っていたくらいだ。


 意外だったのは何も僕たちだけではなかったのか、リリー自身も目を見開いて驚いている。


 しかし、すぐにぱぁっと明るい表情を見せたのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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