ペンダント
このペンダント、宗教的な物だったのか。
普通のアクセサリーに見えるけど。
顔を近づけ、何か模様があったりしないかと観察してみる。
だが……。
チェーンの部分もトップの部分も、シンプルなデザインでやっぱりこれと言った特徴はない。
うーん。
失礼だけど、その辺のお店に売っていそうな感じだ。
「このペンダントは『仰印』と呼ばれていて教会から修道女に渡される物なんです! 旅に出るトウヤさんにぜひ私の物を持って行っていただきたくてっ」
アンナさんが耳まで赤くして、一息にそう説明してくれる。
目を閉じて、めちゃくちゃ早口だった。
緊張……照れくさいのかな?
プレゼントを渡すってことで。
いやでも、それだけじゃないような火照り方だけど……まあ理由はそれ以外にないだろう。
「なるほど。仰印? と呼ばれる物なんですね。お守りとしていただけるってことですか?」
「あ、は、はいっ。そうです! 旅の安全を祈願して。それとアーズから聞いたんですが、神都にも行かれる予定とか?」
「変わるかも知れませんが一応、その予定です」
「でしたら仰印を外から見えるように首から掛けていただけたら、何かと役に立つかと思います!」
「そんな効果も……。ありがとうございます。神都を訪れた際は、アンナさんのアドバイス通りにしてみますね」
「はい! 受け取っていただけて良かったです」
顔の赤さもピンクに治まり、アンナさんはふぅと息を吐く。
僕はペンダントを手に取り、さっそく首に掛けてみた。
「あっ。し、神王国……とりわけ神都では役立つと思いますが、他の場所では服の中に入れていただくか、持ち歩いていただくかで充分ですよっ?」
「え。そう……なんですか?」
「はい! その、トウヤさんのご迷惑になるかもしれませんし。そ、それにっ。旅の途中でなくしちゃったら大変じゃないですか! あと、冒険者さんはギルド証もあるので、首から掛けている物が2つになったら疲れちゃうかもしれませんしっ!」
「……はぁ」
とにかく、今は付けるなということらしい。
色々と理由付けしてるけれど、はっきりと言いづらい原因があるのだろうか。
たとえば宗教問題とか。
主三神教の国である神王国以外では、これを付けていると害をなしてくる人がいたりするのかもしれないな。
じゃあ、今はポケットに入れておいて……。
後でアイテムボックスに収納しておこう。
神王国に入るまで持ち歩くのには変わりない。
お守りとしてしっかり効果はあるだろう。
それからアンナさんとしばらく話し、僕は帰ることになった。
レイをアーズに見てもらっているので、夜まで長居したりは出来ない。
ちなみに赤ポンチョは無事に完売し、収益が入り孤児院の懐は潤ったんだそうだ。
一部が教会に、残り全ては孤児院のものになる取り決めだったらしい。
また出立の日が正確に決まったら、アーズを通してアンナさんに伝えてもらうことになった。
時間さえ問題なければ、見送りに来てくれるようだ。
嬉しい話だな。
残りのフスト滞在期間の間に、もうこの孤児院には来ないと思う。
地下室の清掃依頼のことなんかを思い出しながら、高空亭に戻る。
変な寂しさを感じたが、これが街を出るとなったらどうなるのか。
まったりと、街に慣れすぎてしまったのかもしれない。
旅人としては、もっとその場所その場所を楽しむくらいが合ってるのかもなぁ。
まあ前向きに考えよう。
見たことがない景色を知りに行きたい、という気持ちは消えていない。
レンティア様が僕の周辺を観察しようとしたとき、代わり映えのない風景だったら申し訳ないし。
カトラさんとの旅が始まったら、きっと色々な経験ができるはずだ。
もう1人のメンバーになる可能性があるリリーは……まだ、どうなるのかわからないけど。
今は好奇心を頼りに、旅へのワクワクに目を向けるべきなのかもしれない。