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外套

 祭りは夜明けとともに終わったそうだ。


 僕はというと、あの後パーティーがお開きとなり、カトラさんと2人でアーズを孤児院まで送った。


 帰りに少し足を伸ばして、人が集まるエリアを覗いてみたが……。


 それはもう凄い熱気だった。


 普段は暗く静かな夜が過ぎるフストの街。


 しかし、あの夜だけは一帯が光に照らされ、人々が行き交いしていた。


 イメージ的には台湾の夜市のような光景だ。


 日中とは違い、お酒を提供する屋台も数多く出ていた。


 まあ、屋台があるエリア自体は昼間よりも縮小していたけれど。


 街を十字に区分する大通り、その中心街あたりだけに屋台が並んでいたのだ。


 たぶん、住宅が密集するエリアへ配慮してそうなっていたのだろう。


 カトラさんにおすすめされた甘辛い揚げパンのような物を買って、僕たちはそれを食べながら宿に戻った。


 眠気のピークを過ぎたと思っていたが、かなり疲労していたみたいだ。


 ベッドに入ったら、すぐに眠りに落ちてしまった。


 そして翌日。


 昼頃に起きると、街はもう通常運転に戻っていた。


 信じられない。


 元日くらい、のんびりするものだと思っていたのに。


 そんな暇はないとばかりに、宿の主人であるグランさんはもちろんのこと、カトラさんもギルドに出勤していったらしい。


 祭りの次の日に働く冒険者は……ほとんどいないのかもしれない。


 けど、それでも出勤しないといけないギルド職員は大変だ。


 また、仕事に出ていたのはカトラさんだけではなかった。


 僕が食堂に下りると、テーブルを拭くアーズの姿があった。


「あ、トウヤ。おはよっ」


「お、おはよう……」


 凄いなぁ。


 元気いっぱいに働いている彼女の姿を見て、年齢とか関係なく、普通に尊敬してしまう。


 グランさんが特別に朝食の時間を長くしてくれていたので、遅めの朝ご飯を食べていると、アーズが僕の下にやって来た。


「明日ならいいって。アンナちゃん」


「あ、外套?」


 僕が訊くと、彼女は「そうそう」と頷く。


「了解。わざわざありがとう」


 グランさんが皮をなめし終えてくれたので、アーズにアンナさんが時間のある日を訊いておいてもらったのだ。


 ……と、いうわけで次の日。


 僕は現在、孤児院にお邪魔している。


 カトラさんに紹介してもらったお菓子屋さんで、気を遣わせないくらいの価格のクッキーセットをたくさん買ってきた。


 これは子供たちへのお土産だ。


 アンナさんには別に、少し高級なセットを購入した。


 子供たちもアンナさんも、喜んでくれていたので良かった。


「これで……どうですか?」


 ポンチョを作ったときと同じ机で、完成した外套をアンナさんに確認してもらう。


「はいっ。とっても良いと思います!」


「ふぅ。アンナさんに協力していただけて本当に助かりました」


 まだ開始から3時間も経っていないだろう。


 こんなにも早く完成することができたのは、アンナさんが事前に図面などを用意してくれていたからだ。


 深みある茶色の外套。


 折り返し部分を調整することで、後々サイズアップすることもできるようアンナさんがデザインしてくれた。


 うん、最高の出来になったと思う。


「お力になれて良かったです! むしろ私や子供たちの分までお菓子を頂いちゃって。ありがとうございましたっ!」


「いえ、僕のためにわざわざお時間を作っていただいたんですから、そんな。……あの、アンナさんはお忙しいと思うので、出立を前に今のうちご挨拶と感謝を伝えたいと思いまして」


「わっ。あ、はい!」


 アンナさんはバタバタッと背筋を伸ばし、胸を張る。


「あと10日くらいで僕は街を出ることになると思います。今日の外套作りも、以前のポンチョ作りも、本当にありがとうございました。それと、教会でのことも約束通り秘密にしてくれているようで、何と感謝を伝えればいいのか……」


「と、当然ですよっ。トウヤさんのお願いなんですから、誰かに言うだなんて……! そ、そうだ。これ、受け取って頂けませんかっ!?」


 僕が頭を下げると、アンナさんはあわあわしながら何かをテーブルに置いた。


 ……ペンダント?


 *型の金属が付いている。


「お渡ししようとずっと思っていたんです」


「あ、ありがとうございます。でも……」


 普通にプレゼントを頂けただけなのか。


 それとも、何か意味がある物なのか。


 よくわからず視線で尋ねる。


 察してくれたアンナさんは何故か顔を赤らめ、伏し目がちなった。


「じ、実はこれ、主三神教で特別な物なんです……っ」


 ん、特別?



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