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パーティー

 街中が赤い。


 みんなが着ているポンチョはもちろんのこと、全ての屋台に赤い布が掛けられている。


 フストのソウルフードである森オークの串焼きも、今日ばかりはトマト……のような野菜で作ったソースに浸けられていた。


 リリーの提案で購入することに。


 アーズは宿で働いているとはいえ、給金を孤児院に入れている。


 今日も一応お金を持ってきているようだけど、あまり手持ちもないだろうし、ここは最近余裕が出てきた僕が……。


 と思ったが、全員分リリーが支払ってくれた。


 アーズと一緒に手を合わせておく。


 後ろでマヤさんもお辞儀をしていた。


 モグモグモグ……。


 うん、いける。


 森オークが動いている姿を見た後も、案外普通に食べられた。


 変に逃げ出さず、しっかり倒して捌いたりしたのが良かったのかも知れない。


 僕たち3人、と一歩後ろをついてくるマヤさんで串焼きを食べ終え、祭りを回る。


 途中で槍を持った男性の像を見かけた。


 あれがドラゴンを倒したという英雄アヴルらしい。


 う、うーん……。


 正直、カッコよさは感じられないな。


 返り血を浴びて帰ってきたと言っても、像の全身をくまなく真っ赤に塗装する意味はないだろうに。


 像がある広場では、音楽隊の他に芸を披露する魔法使いの姿もあった。


 水を操作して作った魚を、空中に浮かべ泳がせていたりする。


 僕が生活魔法で水を浮かべても崩壊してしまうほど遠くまで、繊細な形の魚が浮遊している。


 実用的でなくても、極めればこんなこともできるようになるのか……。


 いつか出来るようになったら面白いかもしれない。


 さらに魔法使い以外にも、剣を使った妙技を見せている人なんかもいた。


 テレビやスマートホンがない世界。


 祭りに娯楽を求めて集まる人の熱が、日本よりも一極集中しているように感じる。


 しかし、日中の今は前座に過ぎないという。


 アヴルの年越し祭の本番は今夜。


 日付が変わり、年が変わってから朝方までだそうだ。


 僕たちは一通り祭りを回り終え、夕暮れ時には高空亭に向かうことにした。


 住宅街に入ると人もまばらになる。


 アーズがくぅっと伸びをした。


「いやー楽しかったねっ! 人もたくさんいてさ。大きい街に行ったら毎日こうなのかなっ?」


「王都は、そう」


「えっ! リリー、行ったことあるの?」


「うん」


 リリーが頷くと、アーズはさっきから輝かせていた目をさらにキラキラとさせる。


「いいなー! あ、トウヤは王都に行くつもり?」


「え、僕? そうだなぁ……」


 いつかは行きたいけど、今のところは……と考えていると、リリーがバッと勢いよくこちらを見た。


「わたしも気になる。フストを出て、トウヤはどこを目指すの?」


 め、珍しい。


 凄い食いつき方だ。


「今はとりあえずネメシリアに行くつもりかな。その後は迷宮都市? とか神都に行くと思う。だから王都に行けるのはいつになるかわからないね」


 2人はふむふむと聞いている。


 特にリリーは、見たことがないほど集中した様子で一点を見つめている。


 そ、そこまで気になる話だったかな?


 ……。


 高空亭に戻ってきた。


 中に入ると、すでに僕たち以外のメンバーは全員揃っていた。


「あら、主役が帰ってきたわ」


 料理を運んでいたカトラさんが僕たちに気付き、席へ案内してくれる。


 街の中心地では道まで席を拡大した店が、夜遅くまで営業するみたいだった。


 客はせっかくだから祭りの中で食事をしたい。


 グランさんは他の注文に追われなくて済む。


 ということで、今日の食堂は僕たちの貸し切りで、他の宿泊客たちは外で食べることになっているらしい。


「トウヤ、久しぶりだな」


「あ、エヴァンスさん。お久しぶりです。それと……」


「妻のビスと、こっちのガキたちは息子のマークとネッドだ」


「はじめまして。トウヤといいます」


 ジャックさんが営むフィンダー商会の副会長、エヴァンスさんのご家族に挨拶をする。


 息子さんたちは双子だろうか。


 2人とも5歳くらいで小さい。


 奥さんは優しく、庶民的な雰囲気で大商会のお偉いさん一家という印象は受けなかった。


 美味しそうな料理が次々と、くっつけられた机に並べられていく。


「ジャックさんとメアリさんもお久しぶりです」


「やあトウヤ君。それとアーズちゃんも、リリーと仲良くしてくれてありがとうね」


 続けて挨拶すると、ジャックさんは機嫌が良さそうにワインか何かが入った銀杯を掲げた。


「ごめんなさいね。ジャックったら、一杯呑んだだけでこれで」


 隣のメアリさんが、自分も優雅に杯に口づけながら微笑む。


 おかげでフィンダー商会のナンバー1、2に緊張しているみたいだったアーズも、肩の力が抜けたみたいだ。


 もともと人懐っこく、明るい性格の彼女。


 僕が配慮するまでもなかったらしい。


 グランさんお手製の料理が並び終えられる。


 街を歩き回って疲れたけど、まだまだ祭りの1日は終わらない。


 みんなで机を囲み、パーティーが始まった。



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