レベル
祭りまで1週間を切った。
今日は仕事が休みのカトラさんと街の外に来ている。
前回、新魔法を教えてもらい損ねたので今日こそは、と意気込んでいたのだけど……。
僕たちは今、いつもの草原ではなく森の中を歩いている。
「はぁ……」
「どうかした?」
「ああいえ。カトラさんのお時間を頂けたので、せっかくだったら魔法の練習がしたかったなぁと」
答えると、カトラさんは目尻を下げて笑った。
「そんなに慌てないでも大丈夫よ。これから旅に出れば、飽きるほど移動で時間があるんだから」
「……た、たしかに」
でもやっぱり、いち早く他の魔法も使ってみたい。
探究心をそそられるというか、なんというか。
「それにお父さんが言っていたように、今のうちに強くなっておけば良いことだらけじゃない? 強さがあれば怯える必要もないし、どこへ行っても自信を持てるわ」
「うーん。そうですけど……」
「安心して。もしもの時は助けるから。まあ、私の見立てだとトウヤ君の魔法だったら問題はないはずよ」
「……」
僕が溜息を吐いた理由は、魔法の練習ができなかったからだけではない。
話は何故、僕たちが現在森の中にいるのかに繋がる。
始まりは先日、短剣を振っていたときにグランさんからこんなことを言われたからだった。
『剣の腕も良くなってきたな。坊主、カトラから聞いたがお前さん一般魔法の筋もいいそうだな。……んじゃあ解禁だ。カトラに協力してもらって魔物を倒してこい。旅に出る前に強くなっとけ』
そう、魔物討伐。
魔物を倒すことで上げられるレベルを、今のうちに上げておけということになったのだ。
不安で仕方がない。
今まで避けてきたのに、こんなことになるだなんて……。
断っても良かったけど、僕もグランさんの助言が理にかなってると思ったからなぁ。
カトラさんが言うように、強いに越したことはないだろうし。
「わかりました。とりあえず頑張ってみます」
「うん。いつもホーンラビットを倒してきてくれるレイちゃんもいるんだから、心配しないで気楽にいきましょ」
今は近くにいないが、他の冒険者に野良の魔物と勘違いされないようにピタリとくっついて横を歩いているレイを見る。
そうだ。
レイも子供とはいえフェンリル。
そこそこ強いようだし、僕も足の速さを活かせば、もしもの時に逃げられないこともないだろう。
と言っても今日はBランク冒険者のカトラさんが腰の後ろに双剣を携えてるので、そこまで怖がらなくてもいいのかもしれないが。
「あ、でもレベルアップしたら分かるんですか? フストには鑑定の魔道具がないって……」
僕は『鑑定』スキルがあるから自分のステータスをいつでもどこでも見れる。
だけどステータスは通常、魔道具を使って確認するものだったはずじゃ……。
「レベルが上がったら感覚的に分かるのよ。体の底から元気が湧いてくる、そんな感じね。トウヤ君もあれだけ倒したんだから経験してるんじゃないかしら?」
「えっ?」
「ほら、スライムよ。通常体とはいえ、以前に倒してたじゃない」
「あーそう言われるとたしか……元気が湧いてきたような……」
あの時、エナジードリンクを飲んだ後みたいになった気がする。
祠にいた最初の頃は、頻繁にステータスを出したり消したりしていたんだけどな。
あまりに変化がないからいつしか見ないようになっていた。
久しぶりに確認したいが、ステータスは声に出さないと表示できない。
カトラさんに不審がられないように、どうやって見よう?
タイミングを窺っていると、突然カトラさんが足を止めた。
続いて僕とレイも止まる。
「近くに狙ってた魔物がいるわ。付いてきて」
気配を読み取ったのだろうか。
カトラさんはこれから行く方向を示し進んでいく。
い、いきなり来てしまった。
緊張するなあ……。
「ステータスオープン」
気を紛らわすついでに、今だとボソッと呟く。
すると、前と記載されている情報が変わった画面が出現した。
【 名 前 】 トウヤ・マチミ
【 年 齢 】 10
【 種 族 】 ヒューマン
【 レベル 】 2
【 攻 撃 】 3100
【 耐 久 】 3100
【 俊 敏 】 3100
【 知 性 】 51
【 魔 力 】 5050
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス
【 称 号 】 女神レンティアの使徒
幸運の持ち主
フェンリル(幼)の主人
ほんとだ。
レベルが2に上がってたらしい。
それに伴って能力値も上昇してるし……なんか、以前より称号も増えてる。
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