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カトラの選択

 3日後。


 カトラさんが休日だということで、これまでの一般魔法の練習成果を見せる時が来た。


 自信は充分。


 ここ最近は練習のため、毎日薬草採取で街の外に出ていた。


 カトラさんが見せてくれたものにはほど遠いが、自分なりにそこそこ満足できるレベルまでには、この期間でしっかりと進歩できていると思う。


 朝。


 以前と同じように宿の裏庭で集合して、街を出た。


 向かった先も前回と同じ。


 草原の中、3本木の近くだ。


 無力化を解いたレイが森へ走って行くのを横目に、早速僕は教えてもらった3つの下級魔法を披露する。


 で、結果は……。


「お、驚いたわ。すぐに習得できるとは言ったけれど、まさかここまで早く物に出来るだなんて」


 ちょっと動揺気味に、頬を引き攣らせながらそう言ってくれた。


「これも全てカトラさんのおかげですよ。僕はただ、魔法が楽しくて練習しているだけなので。先生になってくれる方がいて本当に助かりました」


「ふふ、またそうやって謙遜して。私、これから君が嫌な目に遭わないか心配になるわ。冒険者は時に、自分を強く見せないといけないこともあるんだから」


「そ、そうですよね……善処します」


 段々と分かってきたが、フストを拠点にしている冒険者は見た目が怖くても、根っからの悪人がいない。


 おかげで絡まれることもなかった。


 でも、他の支部に行ったら……。


 じ、自分のことながら心配だ。


 なるべく避けて生きたいものだけど。


 万が一そういう場面に出くわしたら、嘗められないように気を張って強気でいけるようにしておかないとな。


 決意を固めていると、カトラさんが笑ってから歩き出した。


「トウヤ君は、魔法知識が集まる学園なんかに入学するのもいいかもしれないわね。そうしたら稀代の魔法使いになれるかもしれないわよ?」


「いや、そんな……」


「ほらまた」


「あっ」


 クスッと明るい笑顔を向けられる。


 レンティア様に頂いた【魔法の才能】があっても、さすがに英雄とかになれるほどの存在ではないと本気で思ったけど、今のは単に遊ばれていただけだったのか。


 カトラさんは3つのうち1本の木の下で腰を下ろした。


 僕も後に続き、隣に座る。


 最近どこか思い悩んでいる表情が多いカトラさんだが、それは今朝も同じだった。


 しかし……。


 さっきから、いきなりスッキリしたような顔をしている気がする。


 何か、心に変化でもあったのだろうか?


 などと思っていると、カトラさんは雲が流れる青空を見上げながら口を開いた。


「実は私、幼馴染みと女2人でパーティを組んでいたの。この辺りでは少し名を馳せるくらい、順調にランクも上がっていって。でも、1年前……」


 その語り口は、僕に教えると同時に自分の中で物事を整理しているようだ。


 何が出来るかはわからないけど、せめて話を聞くくらいなら。


 初めからそう思っていたので、静かに耳を傾ける。


「遠征したときに強力な魔物と戦って、命からがら何とか勝つことは出来たわ。でも、幼馴染みは酷い怪我で2度と歩けなくなってね。私も怪我を負ったけれど、ちょっと違和感があるくらいですぐに元気になっちゃたわ」


 だから、とカトラさんは続ける。


「後ろめたくて、申し訳なくて。自分だけ無事に冒険を続けられるだなんて。すぐに冒険者を引退すると決めて、前にも話したようにギルド長に誘われたこともあって受付嬢になったわ」


 暗い過去であるはずなのに、カトラさんの表情は決して暗くはない。


 言葉からはもう、後悔などは感じなかった。


 風が吹く。


 空気が澄んで、今日は遠くの山がよく見える。


「やっぱり毎日ギルドに通って事務仕事ばかりの受付嬢は、私には合わなかったわ。幼馴染みは1人でも冒険者を続けることを勧めてくれたけれど、結局踏ん切りが付かず我慢しながら1年。そんなとき、トウヤ君と出会ったの。これから冒険者を始める君の姿を見て、勝手に羨ましがって。色々と考えちゃった。考えれば考えるだけ、悩みが深くなってね」


 カトラさんが次に言うことが何となくわかった。


 僕と接することが、彼女にとって悩むことに繋がるだけではなくて良かったと思う。


「だけどさっきの魔法。トウヤ君の成長ぶりを見て、もう1度やってみようと思った」


 やっぱり。


 僕は自分で自分にしていた蓋を、外すきっかけになれたのかもしれない。


 顔を見ると、カトラさんもこっちを向いた。


「私、受付嬢を辞めて冒険者に戻るわね。君の行く道を見てみたくなったから、フストを発つときに一緒について行ってもいいかしら?」


「はい、僕も応援…………ん?」


 一緒に……ついてくる?


 彼女が次に言うことなんか、全くわかっていなかったのかもしれない。


 吹っ切れた表情のカトラさんを見て僕が固まっていると、2人の間をピューっと風が過ぎていった。



お読みいただきありがとうございます。

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