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謁見?

 ふぇ、フェンリルって。


 ……レイが?


 たしかに鑑定も使えなかったし、謎の存在ではあったけど。


「その反応……もしかしてアンタ、知らなかったとか言うんじゃないだろうね?」


 ギクッ。


「あ、あはは……」


 図星だ。


 恐る恐る頷くと、レンティア様は深く溜息を吐いた。


「フェンリルは神族じゃないとはいえ、同じくらいの力を持つ種族の1つなんだよ。歯向かってくる危険性を考えて数百年前からアタシの知り合いが管理してるんだが、まさか使徒とはいえヒューマンのアンタに懐くなんてね」


「実は……僕も何で懐かれたのかわからないんです。怪我してるところを治癒してあげたくらいで、その前に何があったかも知らないですし」


「なんだい、そういうことなら……」


 膝を曲げ、レンティア様はレイの目を覗き込む。


 真っ直ぐとそれを見つめ返しているレイ。


 少しして、元に戻ったレンティア様は疲れた目を癒やすように瞼をぎゅっと閉じた。


 よく見ると隈が酷いな。


 激務続きなんだろうか?


 今度、甘い物でも送らせてもらおう。


「なるほどね。コイツは親といたところをエンシェントドラゴンに襲われて、命からがら逃げたそうだ」


「え? あの……」


 いきなり始まった解説にどういうことなのか尋ねようとすると、手で制された。


 まあ話を聞け、ということらしい。


「生後1年未満で、親と別れて行く当てもないからアンタについて回ってるそうだよ。救ってくれた感謝の念もあってね。以上、満足かい?」


「えーと、今のがレイの? でもどうやって」


「記憶を見たんだ。コイツ……あーレイだったっけ? が自ら進んで開示してくれたから、一瞬で色々と見ることが出来たが」


「記憶を……見た、ですか」


 女神様ってやっぱりスゴいな。


 もしかして何でもできるんじゃ?


 というか、レイも事情を説明するために自分から記憶を見せてくれたんだ。


「では、レイは親と離れて僕と一緒に……。これって何か問題になりますか?」


「いんや、まあ一応アタシからフェンリルの管轄に許可を取っておくよ」


「あっ、ありがとうございます」


 まさかレイがフェンリルだったなんてなぁ。


 生後1年未満ってことは、まだまだ大きくなるのだろうか。


 今後、どれだけ食べる量が増えるか心配だ。


 逃げてきたというエンシェントドラゴンだって、以前カトラさんから聞いた話に出てきた国を滅ぼすレベルの存在だ。


 まったく想像がつかない。


 ……それにそうか。


 レイの親も心配だけど、もしも再会できたらレイは親元に戻るのかもしれない。


 そうしたら……。


 ま、いつになるかはわからないんだ。


 今から考えていても仕方がないし、とにかく勝手に従魔化せずにいて良かったと思うべきだろう。


 1人感慨にふけていると、レンティア様が腕を組んだ。


「で、話は戻るが……どうせアタシの神像に祈ったってところだろう? アンタには話すこともないし、もう終わってもいいかい?」


「はい。でもその前に、最後に1つだけ質問させていただいてもよろしいですか?」


「ああ、構わないよ」


「えっと……ここって何なんですか? 仰るとおり、教会でレンティア様の神像に成り行きで祈ることになって……気付いたらここにいて」


 何故ここに飛ばされたのか。


 レンティア様も最初、来たのが僕だってわかっていないようだったけど。


「神への謁見の場というか、神族が人々に神託を与える場所だね」


 答えはシンプルだった。


「普通は司教なんかの長く強く祈った者だけが、一定のラインを越えそれぞれの神の下に召喚されるんだ。アタシたちは大体、姿を見せず下界の者たちに向けたよそ行きな感じだがね」


「じゃあ、僕はどうして……。今回、初めて神像に祈ったんですが」


「そりゃあアンタがアタシの使徒だからだよ。結びつきが強くて、祈りのラインを越えたと誤判定されて召喚されることが時々あるんだ」


「え……。それは、ご迷惑をおかけしました」


「ああ。それじゃあ今後はアタシの像に向かって祈らないように気をつけてくれよ? 伝えてなかったのも悪いが、誰か来るとなったらこっちもこっちで色々と面倒でさ」


「わかりました」


 この世界って、下界の人々が実際に神様たちに会える機会があるんだな。


 たしかに神族が実在するのだから変な話ではないが。


 地球にいた頃とはあまりにも違う感覚だ。


 といっても通常は姿を見せないらしいから、神像なんかのデザインは謁見した人たちが勝手に受けたイメージなのだろう。


 他の神様も、何気に本当の姿とは全く違ったりするのかもしれない。


「じゃ、とにかく今日はこれで終わるよ」


 レンティア様がそう言った瞬間、神殿内に降り注ぐ光が強まった。


 ここに来たときと同じだ。


 暖かさが身を包む。


 目を瞑り、暖かさが消える頃には……。


 シスターとアンナさんの声が聞こえていた。


「どういうこと!?」


「とっ、トウヤさん!?」


 どうやら僕が飛ばされたときから、こっちは1秒たりとも時間が経っていないらしい。


 この間、僕とレイだけがレンティア様と会い時間が経過していた。


 目を開け、振り向く。


 正体が判明したレイは、また落ち着いた様子で腕の中で脱力している。


 だけど……。


 さて、僕はどうしよう。


 目をキラキラさせながら突進してくるアンナさんと、茫然としているシスター。


 ステンドグラスを見てレンティア様の名前が出てきた時はなんとかなったけど、こればかりはどうやって誤魔化せばいいのか。



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