裁縫
僕とリリー、アーズ、そして侍女さんの4人で同じ長机を使う。
ポンチョ作りの手順は、アンナさんが前で説明してくれている。
材料や道具は全て揃っているので、僕たちはそれを聞きながら手を動かすだけで良い。
ただ、裁縫なんて学生時代ぶり。
家庭科の授業くらいでしかしたことがない。
特別手先が器用なわけでもない僕には、説明のペースに付いていくのも一苦労だ。
「痛っ」
針を指先に刺してしまい、ぷくりと血が出てくる。
それをこっそり机の下で治癒の生活魔法を使い治す。
そんなことをしていたら、すぐに置いていかれそうになった。
「トウヤ、ここはこっち向きに縫った方がやりやすいと思うよ」
「え? ……あっ、本当だ! ありがとう、アーズ」
その度、アーズが助言や手助けをしてくれる。
彼女は裁縫が得意らしい。
テキパキと綺麗な縫い目で自分の物を進めながら、僕たちのことを気に掛けてくれている。
そう、僕たちのことをだ。
リリー……ではない。
僕と、リリーの隣で手こずっている侍女さんだ。
服装からするとパパッと終わらせられたりしそうなのに、侍女さんはむしろ僕よりも酷いくらいだった。
「あれ!? ぬ、縫えてないっ?」
「あーここはちゃんと結んでおかないと、糸が抜けちゃうんだよ」
「えぇー! ど、どうしましょう」
「大丈夫、大丈夫。落ち着いてもう一回やってみよ?」
「は、はい……。ほんと私……すみません……」
ちょうど今も、ミスをしアーズに慰められてる。
「マヤは剣しか振れない。この格好は、ただの制服」
僕がその姿を見ていると、黙々と順調に針を動かしているリリーがぼそっと言った。
「ちょっと、お、お嬢様っ?」
「頑張って」
会話する気はないと言わんばかりだ。
バッサリと侍女さん……もといマヤさんを流したリリーは、また集中して手を動かしてる。
にしても、アーズほど速くはないけど正確だな。
リリーの裁縫技術に驚いていると、自分はまったくポンチョの完成が見えていないマヤさんが自慢げに指を立てた。
「お嬢様は様々なお勉強をされているんですよ。商いについてやお料理、裁縫、魔法なんかも」
へぇー、スゴいな。
大商人の娘さんなだけあってハイスペックだ。
それに魔法かぁ。
どんなものが使えるんだろう?
一度だけでも腕前を拝見してみたいところだ。
そんなこんなで感心したり、苦労したりしながらポンチョ作りは夜まで続いた。
最終的に僕が作ったのは2つ。
自分の分と、孤児院の小さい子の分だ。
僕が作ったのは5歳の子のだったので、サイズが小さく、その上2回目ということもあり思いのほか早く完成させることが出来た。
近くで見ると綺麗な縫い目とまでは言えないけど、そこまで悪くはないと思う。
アーズとリリーは3つずつ作っていた。
自分の分と小さい子たちの分。
そしてもう1つは孤児院では余りになり、近くの教会で売ることになっている物だとか。
チャリティー的な意味合いも含め、全部で30着くらい販売するんだそうだ。
3つ目までいった子たちのは、お店で売られている物と遜色がないクオリティーだったからなぁ。
商品としても十分に売れるだろう。
最後にマヤさんだが……。
彼女は自分のを作り終えた時すでに夕方だったため、そこで終了となった。
子供たちは次のポンチョに取り掛かっているのに、自分だけがそんな状況だったからか以降はぐったりとしていたけど。
情けなかったのか、単に疲れただけだったのか。
多分、両方だと思う。
途中の休憩時間にアンナさんに渡し、みんなで食べたグランさんのパイは好評だった。
めちゃくちゃ美味しかったし、帰ったらグランさんに子供たちが喜んでいたとを伝えよう。
きっと照れくさそうにグランさんも喜んでくれるはずだ。
最後にアンナさんが洗っておいてくれた食器を受け取り、僕たちは帰ることになった。
ポンチョを忘れずに持って、孤児院を出る。
庭では、出来たての赤いポンチョを纏った小さい子たちが嬉しそうに駆け回っていた。
祭りは3週間後だそうだ。
帰り道にリリーと当日の約束をし、僕は高空亭へ帰った。