下級
早速、カトラさんから指導を受ける。
「一般魔法は下級・中級・上級・王級・聖級の5段階に分類されているの。最初に使った『ウィンド・エンチャント』は王級だから、すぐにマスターするのは難しいと思うわ。だから、まずは初めに下級の『ウィンド・スラッシュ』から始めてみましょうか」
「はい!」
それにしても……。
「あの最初のって、そんなに難しい魔法だったんですね」
「ええ、一応ね。使い続けるには魔力の消費が激しいのよ。その上走ったり跳んだり、体を動かす必要もあるから王級扱いされているようね」
「なるほど……」
たしかに、体を動かしながら魔法を使うのは難しそうだもんな。
ふむふむと頷きながら練習を始める。
「それじゃあ、もう一度『ウィンド・スラッシュ』を見せるから、しっかりと目に焼き付けておくのよ? 後でイメージがしやすくなるはずだから」
「わかりました。よろしくお願いします」
カトラさんの魔法を再度観察する。
魔力の流れや引き起こされる現象の見た目、効果について深く理解することが大切だ。
僕はこの点において目がいいらしい。
要領よく、すぐにコツを掴むことができた。
決して前世からそういう人間だったわけではないので、きっとこれはレンティア様が与えてくださった【魔法の才能】によるセンスなのだろう。
段階を移し、魔力の流れを確認する。
カトラさんがやっていたことを忠実に再現しようと意識してみた。
「そうそう、良い感じね」
すると後ろから僕の肩に手を添えているカトラさんがそう言ってくれた。
「驚いたわ……まさかこんなに早くここまで出来るだなんて」
僕の体内を循環する魔力を読み取ってくれているみたいだ。
上出来か、やったぞ。
「じゃあ魔力の状態はもう十分だから、試しに発動してみましょうか。生活魔法を使うときと同じようにイメージしたら大丈夫よ」
「はい。……『ウィンド・スラッシュ』」
手を前に伸ばし、魔力を放出する。
同時に現象は起きた。
カトラさんのものと比べると全然だが、風の刃のようなものが飛んでいく。
形は不安定で飛距離も短い。
それは2mくらい先で霧散してしまった。
しかし、当たった背が高めの草がスパッと斬れた。
成功だ。
「……っ!」
喜びが込み上げる。
思わず笑顔で振り返ると、目を丸くしてキョトンとしていたカトラさんも、次第に満面の笑みに変わった。
「す、スゴいわ……いやっ、本当よ!? こんなにも順調に習得できるなんて、それこそいずれは聖級も夢じゃないくらいだわ!」
「あ、ありがとうございますっ」
強く抱きつかれ、息苦しくなりながら感謝を伝える。
「カトラさんが親身になって教えてくださっているお陰です」
「もうっ! もっと素直に喜んでいいのよっ? これ、かなりスゴいことなんだから」
自分のことのようにはしゃいでくれているカトラさんは、なんだかいつもより子供っぽい。
普段大人びている分、僕からすると年相応に見えた。
練習は日が傾く頃まで続いた。
結果、ウィンド・スラッシュに加え同じく下級のウォーター・ボールの発動にも成功することができた。
まあ、どちらも一応形になったという程度だ。
まだまだ本当の意味で使えるとは言えない。
形も汚いし、威力も弱い。
けど……。
「ほ、本当にいいんですか?」
「ええ。手を抜いたら街の中でも出来ないことはないけれど、本気で魔法を使うには外に出ないと危険だから――」
「でもっ、休みのたびにお時間を頂くわけにも……。すでに普段からカトラさんには散々お世話になっていますし」
「そんなこと構わないわよ。私が、トウヤ君に魔法を教えたいの。なんだか懐かしくってね」
「……え?」
「私はもう冒険者を引退して、遠くへは行けない。けど、君はこれからどこにも縛られない冒険者としての日々を送れるのよ? その姿を見ていると、昔の自分を思い出しちゃって」
だから、とカトラさんは続ける。
「応援したいのよ。私はその始まりの一端に関われるだけで幸せだから」
「…………」
昔を懐かしむような視線に、なんと声をかければ良いのか分からなかった。
まだ若いんだから、そんなこと言わずに?
いや、自分が20代前半だった頃とは訳が違う。
カトラさんはその歳で、すでに冒険者としての1つの人生を駆け抜けた後なんだ。
……うん。
「今後とも、よろしくお願いします」
深く感謝をして、与えてもらえるものを有り難く受け取ることにしよう。
「こちらこそ。頑張っていきましょうね」
さあ、練習の日々の始まりだ。
カトラさんの休日に、それまでの間の成長を確認してもらう。
よしと判断されれば次の魔法へ進めるという形だ。
魔法への研鑽は苦にならない。
頑張れば確実に成長できるから、夢中になれる。
あとは練習あるのみ。
習得したのだから、練度は努力次第で上げていける。
今日のところはフストに戻ろうとなったとき、レイの姿がないことに気がついた。
「あれっ、レイは……」
走り回っていた辺りにいない。
驚いて全方位を遠くまで見渡すと、森の方に米粒サイズの犬らしき影が見えた。
「あ、あんな所に」
ちょうど、こっちに向かってきているみたいだ。
僕とカトラさんも近づいていくと、レイが何かを咥えているのがわかった。
「ん? あれは……兎?」
「あら、D級のホーンラビットねぇ」
「でぃっ、D級!?」
魔物なんて僕もE級のスライムしか倒したことないのに。
どうやらレイが咥えているのは兎の魔物だったらしい。
もしかして、暇で狩りでもしてたのかな?
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