名前
無力化した状態だと、何の問題もなく犬を連れて街に入ることができた。
途中までは抱えて移動する。
住宅街に入ったところで地面に下ろし、高空亭まで歩かせてみることにした。
よちよちと後をついてきている。
特に逃げ出したりしそうな雰囲気はない。
この様子だと多分、街で問題を起こしたりはしないだろう。
それに、無力化して小さくなった今は小型犬くらいのスピードだし、逃げてもすぐに捕まえられるから安心だ。
高空亭と着くと、まずは裏庭へ行く。
まだ夕方にもなっていない。
忙しくなる時間帯ではないと思うので、グランさんたちを呼んで犬を紹介しておくことにした。
「わっ、かっわいいー!!」
グランさんと一緒に出て来たアーズが、犬を見て開口一番に言った。
日向で横になっている犬に駆け寄り、早速モフってる。
「この子、名前なんて言うの?」
「まだ決めてないけど……」
「えっ、じゃあ今から決めようよ! ほら、おやっさんも。みんなでさ」
凄い飛びつき具合だな。
喋りながらもアーズにモフモフされてる犬も、これはこれで満更でもなさそうだ。
「俺もか? つうかアーズ、それはお前さんが決めることじゃないだろ。坊主が連れてきたんだ」
「あー……そっ、そうだよね。ごめん。テンション上がちゃって、つい。ここはトウヤが……」
「いや、せっかくだしみんなで案を出し合って決めようよ。もちろん、グランさんも一緒に」
「いいの!? やった!」
「おい、結局こうなんのか……。俺、あんまし得意じゃねえんだよな、名前を考えんの」
アーズの提案を採用すると、彼女は飛び跳ねながらガッツポーズをした。
かなり動物が好きなんだな。
気になって話を聞くと、孤児院では動物を飼えない分、普段から弁当を売りに行くときに停留所の馬たちと触れあったりしてるんだそうだ。
ネーミングセンスに自信がないと言うグランさんは腕を組み、うーんと頭を悩ましている。
「そういや、こいつってグレーウルフか?」
「どう……なんでしょう。正直、僕もよくわからないんですよ」
「そうか……。俺も無力化した魔物の姿に詳しいわけじゃないが、見たことがない個体だと思ってな。妙に存在感も強いし、そこら辺にいるやつではないことは確かだが……」
やっぱりこの犬、現状は謎の魔物だな。
想像以上にすんなりと無力化を受け入れてくれたけど。
3人でそれぞれ案を出し合い、その中から1番良いと思う名前に決めることにする。
上がった案は……。
レイ
アヴル
クラウド
アッシュ
灰丸
グレートグレーサンダー
ちなみに上から2つずつ、アーズ、僕、グランさんの案だ。
グランさんはネーミングセンス云々の前に、振り幅が凄すぎた。
アーズの案であるアヴルは、この地の英雄の名前らしい。
さて、どうしよう。
まずはみんなで話し合ってみる。
……。
すぐに僕とアーズの意見が一致して、レイと名付けることに決まった。
多数決的にしょうがないとはいえ、早くから蚊帳の外になってしまったグランさんは少しだけ落ち込んでいる。
「グレートグレーサンダーもいいだろ……」
せっかく考えてもらったのに申し訳ないな。
ガタイのいい中年男性の案とは思えないが、このあたりは世界によって異なる感覚なんだろう。
……うん、きっとそうだ。
「あたしはアーズ。よろしくね、レイ!」
アーズがワシャワシャしながらそう言うと、レイは返事をするように吠えた。
薄々感じていたけど、やっぱり言葉を理解してるような……。
知能が高いのかな?
レイはあまりベタベタと甘えてくるタイプではないとはいえ、人に撫でられても嫌がるような素振りは見せない。
アーズが撫でてると言うより、撫でさせてもらってるって感じだ。
今はちっちゃな見た目だけど、中身は意外に落ち着きのある性格なのかもしれないなぁ。
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