犬
力を込めて、ひとっ飛びで川を越える。
なるべく足音を立てないようにして上流へ行くと、さっきと変わらない場所で犬が横たわっていた。
ゆっくりと近づく。
あと10mくらいまで距離を縮めると、低く唸るような声が聞こえてきた。
怪我で立つに立てない様子で、僕を見て喉を鳴らしている。
敵意と言うより警戒だ。
川の向こうにいたときは、距離があったから無視されていただけだったのかな。
足を止め、僕は膝をつけて目線を低くした。
警戒しないでも大丈夫だとアピールする。
犬はよほど元気がないらしく、唸る声も長く出し続けることはできないみたいだった。
しばらくすると荒く呼吸をしながら地面に伏せた。
ここまで来て初めて分かったが、よく見ると全身の至る所に傷がある。
引っ掻かれたり噛みつかれたりしたような傷だ。
ひとまず、もう少し近づいて鑑定してみよう。
図鑑などで見たことがない種類だし、先にこの犬がどんな魔物なのか知っておきたい。
もしも最後の力を振り絞って襲ってきたときは、ジャンプして川の向こうに逃げればいいだろう。
じわりじわりと近づく。
あと5mくらいところで僕は鑑定を使い、そして現れたウィンドウを見て目を見張った。
「……えっ」
【 鑑定不能 】
同等以上の存在のため、鑑定スキルは使用できません。
鑑定、不能……?
こんなの初めてだ。
鑑定スキルにこんな制限があったなんて。
同等の存在って、どういうことだろう。
この犬が僕と同じように神様の使徒ってことなのか、それともそれに匹敵するような種族ってことなのか。
はたまた、また別の意味なのか。
ひどく困惑する。
が、今はいくら考えても答えが出そうにはない。
この事態を理解するための手がかりがないか、あとでしっかりと調べることにして、とにかくさらに犬に近づいてみる。
細くなった目でこちらを凝視する犬は、すぐ側まで行っても逃げることはなかった。
というより、もう逃げる体力も残っていないみたいだ。
「大丈夫、怖がらないで」
手をかざして治癒の生活魔法を使う。
すると淡い光に包まれ、みるみる内に傷が治っていった。
……よし。
これで大丈夫なはずだ。
距離を置いて観察していると、犬は立ち上がってブルブルと高速で体を振り始めた。
それから調子を確認するように、自分の背中を見ながら回っている。
ふぅ。
とりあえず襲ってくる気配はない。
元気になったみたいだし、僕は帰ろう。
そう思って立ち上がると、いきなり犬が川に飛び込んでギンウヤをくわえて戻ってきた。
す、凄いな。
僕の足下にそれを置くと、ジッと見つめてくる。
どうやら傷を治した感謝の印みたいだ。
「あ、ありがとう」
しかし、こうして見るとかなり大きいな。
後ろ足で立ち上がったら現在の僕の身長より全然大きいだろう。
四足歩行状態の今だって、ほとんど顔の高さが変わらない。
思わず圧倒される。
少しビビりながらギンウヤをアイテムボックスに入れると、犬が不機嫌そうな顔をした。
えっ。
な、なんで。
何か間違った?
犬は対岸を見つめている。
あの辺りはさっきまで僕がいた場所だ。
何を伝えたいのか読み取ろうとする。
「……あ。も、もしかして焼けって?」
声に出して聞くと、犬は「そうだ」と言わんばかりに機嫌を直してお座りした。
「お前……プレゼントじゃなくて、お腹が減ってただけなんだ……」
僕が勘違いしていただけだったらしい。
自分が食べられるよりはマシなので、ギンウヤを取り出して焼いてあげる。
魔物だけど一応犬だから気を遣って塩はかけず、出来上がったら身をほぐして骨を抜く。
別に地面に直置きでもいいんだろうけど……。
ちょうど器になりそうな大きめの葉っぱがあったので、それを採って水で洗い、そこに盛り付けてみた。
犬はギンウヤをペロリと平らげ、ムフンと満足げな様子をしている。
体の大きさからして量は決して足りなかっただろうが、喜んでくれたみたいだ。
「じゃあ、僕はこれで」
なのでもういいだろうと思い、立ち去ろうとしたのだけど。
……。
ど、どうしよう。
なんか、ずっと後をついてきてる。
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(2022/7/29)