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親子

「おう坊主。なんだ、お前さんもいたのか」


「いや、あのグランさん、それよりも……そのっ」


 グランさんが扉の横に置かれている木箱に腰掛け、気持ちよさそうに首を回してから眉をあげた。


「どうした? まだ体調が悪いんだったら水浴びはやめておいた方がいいぞ」


「ああ、そうではなくてっ。あの……今カトラさんが『お父さん』って……え?」


「どうした。何でそんなテンパってんだ。それは俺たちが──んあ?」


 首を捻っていたグランさんが、バッと勢いよく立ち上がりカトラさんに視線を向ける。


 無事に僕の言ってることは伝わったみたいだが、どうしたんだろう?


 グランさんがポカンとしている一方で、カトラさんはニヤニヤとしている。


「おまっ、カトラ! もしかしてトウヤに知らせてなかったのかよっ?」


「だって伝える必要がなかったのだもの」


「ったく、はぁ……そうかそうか。すまねえな、坊主。一応こいつは俺の娘で、2人でそこに住んでんだ」


 グランさんが顎でクイッと示したのは、裏庭のすぐ奥にある一軒家だった。


 ……。


 ここ、グランさんたちの家だったんだ。


 にしてもまさか、日頃からお世話になってるこの2人が親子だったなんて。


 顔も雰囲気も全く似てないから、思いもしなかったなぁ。


「トウヤ君。なんだか隠してたみたいになっちゃってごめんなさいね。お父さんから聞いた話を言うと、君がなんで知ってるんだって不思議がる姿が面白くて、なかなか言い出せなかったのよ」


「あっ、もしかしてジャックさんたちと街に出てたときも……」


「ああ、あれもそうね」


 だからあのとき、ジャックさんとリリーに街を案内してもらったことを知ってたのか。


 そういえばその疑問も指名依頼を受けたという衝撃にかき消されていたんだったな。


 あの後も気にすることはなかったし。


 1人で納得していると、カトラさんが僕の顔を見てハッとしたような顔をした。


「そうだわ、今日の薬草採取はどうだった? なかなか帰ってこないから心配してたのよ?」


「あーすみません。帰りが遅くなっちゃって、ギルドが混んでいたので明日にさせてもらいました」


「なんだぁ、そういうことだったのね。それじゃあ薬草は明日受け取るとして、今日のところ私は失礼するわね。君、今は顔色が悪いみたいだし、生活魔法は明日にでも調子が戻ってたら見せてちょうだい」


「はい、わかりました」


 カトラさんは水浴びをしたばかりのようなので、あまり長く立ち話を続けるのも良くない。


 僕が頷くと、彼女は1歩後ろに下がった。


「じゃ、おやすみ」


「あ。お、おやすみなさい」


 裏庭を挟んで宿の向かいにある家に帰っていく。


 その背中が見えなくなると、残されたグランさんが溜息をついた。


「すまねぇな……。あいつ、ああいうとこあんだよ」


「あはは。でも驚きましたよ、お2人が親子だったなんて」


 口調はうんざりしているが、どこか嬉しさを隠し切れていない顔をしている。


 グランさんも父親なんだなぁ、と思っていると……。


「つっても、正式には俺の娘ではないんだがな」


「えっ?」


「カトラは俺の弟夫婦の1人娘だったんだ。冒険者を生業にしてたが、あいつが小さい頃に死んじまってな。俺が引き取って、いろいろあったが今はああして『お父さん』って呼んでくれてんだ」


「…………」


「……おっと、お前さんに言うことでもなかったか。別に昔のことだから空気を重くするほどでもないが、まあ忘れてくれ」


 カトラさんの実の両親は亡くなって……。


 僕の表情を見て、グランさんが頭を掻く。


「ああそうだ。あいつ、ギルドでどんな感じだ? 守秘義務ってやつのせいで、なかなか仕事のこと話してくれなくてな」


 気を遣わせてしまったみたいだ。


 なるべくいつも通りに接しよう。


 そう心掛けてグランさんと話していると、僕が知らなかったカトラさんのことを聞くことができた。


 中でも両親の後を追うように自身も冒険者になり、怪我を負って引退。


 ギルド側からの誘いで今年から受付嬢になったと聞いたときは驚いた。


 ああ見えて、まだ1年目だったんだなぁ。


 この世界に来て出会った優しい人たち。


 彼らにも、僕が知らない様々な過去があるのだと痛感させられた。



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