箱馬車
思ったよりも時間がかかったな。
今日はお手伝い系の依頼は受けず、薬草採取にしよう。
以前ナツルメ草を採った時に他の薬草も見つけたし。
というわけで追加でいくつかの薬草の名前を頭に入れ、僕は南門からフストの外に出ることにした。
のんびりと移動し、草原に到着。
鑑定を駆使して、まずは前回の場所でナツルメ草以外の薬草を採取する。
カトラさんに出発前、「見つけたからと言って全部採っちゃダメよ? 薬草がなくなったら困るから」とお言葉を頂いた。
なので採りすぎないように注意して……。
ある程度の採取を終えたら、次のポイントへ。
この周辺に生えている薬草のうち6割くらいがナツルメ草のようだ。
他の種類の方が高く売れるので、珍しい薬草がないか宝探し感覚で黙々と作業を続ける。
…………。
うわっ。
気付いたら、街道沿いを結構遠くまで来てしまっていた。
草原なので見通しは良い。
だからフストの街はしっかりと見える。
が、距離はそこそこありそうだ。
全力で走ったらすぐだろうけど……仕方ない。
どこに人の目があるかも分からないし、帰りも歩くのだから今日はこのあたりで終わりしよう。
っと、その前に……。
ふぅ。
一度、休憩がてら腰を下ろして風に当たる。
気持ちいい晴天だけど、日向でずっと動いていたので汗を掻いた。
胸元をパタパタと扇ぐ。
水分補給に生活魔法で出した水を直飲みしていると、フストの方から近づいてくる馬車が目に入った。
立派な箱馬車だなぁ。
2頭の大きな馬が引き、御者台には剣を携えた2人の男性が座っている。
どんな人が乗ってるんだろう?
馬車のシンプルながら丹精な装飾に思わず見とれてしまう。
けど、そうだ。
変に警戒されるのも良くない。
目の前を通過するときは、さすがにあまりジロジロと見ないでやり過ごそう。
……と、思ってたが。
「え」
な、なんで僕の前で止まった?
まさか無礼だとかで御者台の男性に斬り捨てられたり……。
うん、もしそうだったら逃げよう。
全力で。
緊張しながら相手の出方を窺っていると、馬車の扉が開いた。
「久しぶり、トウヤ」
「あれっ。り、リリーっ?」
中から出てきたのは、なんとリリーだった。
ビックリしたぁ……。
続いてジャックさんが降りてくる。
「奇遇だね。こんなところで何してるんだい?」
「あ、こんにちは。さっきまで薬草採取をしていて、ちょうど終わったところです」
「仕事終わりかぁ、お疲れ様。私たちは魔道具の試用ついでにピクニックに行くところなんだけど……そうだ、トウヤ君も来るかい?」
「えっ、そんないきなり……」
「リリーとメアリも構わないだろう?」
メアリ?
聞いたことのない名前だ。
ジャックさんは頷くリリーを確認すると馬車の中に目を向けた。
気になったので僕もこっそり見てみる。
すると馬車から顔を出した美女と視線が合い、ハッとした。
「もちろんよ。私も前々からトウヤ君とお話したいと思ってたから。是非、一緒に行きましょ」
顔を見て、その長い銀髪を揺らす女性が誰なのかすぐに分かった。
リリーとそっくりだ。
「はじめまして、トウヤ君。リリーの母のメアリよ」
「は、はじめましてっ。トウヤです」
美人過ぎるというかオーラがありすぎるというか、なんというか。
変に緊張しちゃうなぁ……。
目を逸らしてジャックさんを見る。
「どうだい? もちろん無理にとは言わないが」
せっかくの家族水入らずの時間なんじゃ?
本当に僕なんかがいいのかな?
などと悩んでいると、
「トウヤ、行こ」
ジッとこちらを見ていたリリーが改めて誘ってくれた。
その表情を見て考えを固める。
「では……お邪魔しても、いいですか?」
僕はいつも表情の変化に乏しいリリーが浮かべていた、ほんの僅かな微笑みに甘え、ジャックさんたちの馬車に乗せてもらうことにした。
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