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買取所

 ギルドに着いた。


 人の数は今日も少ないな。


 やっぱり、何事も混む時間帯は避けるに限る。


 いつも通りカトラさんの所へ行き、サインの入った依頼書を渡す。


「おはようございます。これ、お願いします」


「あら、おはよ。昨日のうちに終わってたのね」


「はい。終わった時間が遅かったので持ってくるのは今日になりましたが」


 依頼書に一通り目を通すと、カトラさんはにっこりと笑って頷いた。


「うん! 不備もないし、これでオーケーだわ。よく頑張ったわね、お疲れ様。……じゃあ、はい。報酬の銀貨3枚です。ご確認ください」


「ありがとうございます」


 カウンターに差し出された硬貨を受け取る。


 するとカトラさんは形式上のお仕事モードから戻り、頬杖をついて目を細めた。


「でも、無事に2日で終わって良かったわ。Eランク冒険者が受けられる中では高額報酬の依頼とはいえ、効率が悪かったら君にとって得にならないもの」


「そう……ですね。まあ結果的に2日で銀貨3枚も稼げましたし、人の助けにもなれたので。僕にとっては割の良い仕事だったと思います」


「うふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」


 本来は僕みたいなEランクだと、稼ぎが足りなくてなかなか苦労しそうだもんな。


 鑑定やアイテムボックスがなかったらと思うとゾッとする。


 レンティア様の恩恵に感謝だ。


「あ、スライムの方はどうだった?」


「最初は手こずりましたが、なんとか魔石も回収できました。脆くて、あれ結構大変ですね」


「上手く採れたのね。ほんと、スライムの魔石は特に初めてだと難しいわよねぇ。回収した魔石はここでも受け取れるけど……せっかくだし、そうね。右隣の素材買取所でも売れるから、最初だし説明も兼ねて一緒に行きましょうか」


「えっ。い、いいんですか? お仕事中じゃ……」


「この時間は暇だし問題ないわよ」


 カトラさんは立ち上がると、隣の席の女性に声をかけた。


「マヤ、ちょっと席外すわね」


「了解~」


 ず、随分と軽いな。


 本当にいいんだ。


「ほら。トウヤ君、こっちこっち」


「……あっ、はい」


 ギルド出入り口から、すぐに右へ行った場所に通路があったみたいだ。


 いつもまっすぐ掲示板に向かってたからなぁ。


 まったく気付かなかった。


 一度外に出なくてもいいように、素材買取所と繋がってたのか。


 買取所は入り口付近にスペースがあり、クリーニング屋みたいにカウンターがあるだけだった。


 その奥は壁があって見えない。


 そして一際目を吸い寄せられるのは……。


 カウンターの中に立つスキンヘッドの巨漢だ。


 グランさんも大きいけど、同じくらい迫力がある


 顔つきが堅気なのか曖昧なラインだ。


 眉間に皺が寄ってるし、もしかして……お、怒ってる?


 近づくと、黒いエプロンを掛けたその男性が話しかけてきた。


「おうカトラ、どうかしたか?」


「もうルーダンさん、トウヤ君が怖がってるじゃない。ほら笑顔よ、笑顔」


「なっ、別にいいじゃねえかっ! 俺は昔っから笑顔が似合わねえんだよ!」


 背後から僕の肩に手を置いたカトラさんが、ハァと溜息をつく。


「そんなんだから冒険者たちが近づきたがらないのよ……。今日はこの子が採ってきた魔石を売りにきたの」


「ちっ、んだそれ。で、新人か?」


 ギロリと目を向けられる。


 こ、怖いって……。


 感じたことがないほどの威圧感に膝が震えそうになるが、ここは頑張って自分から挨拶だ。


「と、トウヤと申します。よろしくお願いしますっ」


「ほートウヤか。カトラが気に入るのも分かる。ちっとは期待できそうな奴だな。よろしくな、俺はルーダンだ。元冒険者で今はここで働いてる」


 顔つきが少し柔らかくなると、ルーダンさんはトントンとカウンターを指で叩いた。


「ほれ、魔石をここに出してみろ」


「は、はいっ! ……えーっと」


 アイテムボックスを使っても大丈夫だよな?


 取り出す量はそこまで多くないし。


 それに、こっちを見てるような冒険者もいない。


 僕がキョロキョロと周りを確認していると、後ろに立つカトラさんが耳元で教えてくれた。


「大丈夫よ、魔石くらいなら。あと買取所の職員にも守秘義務があるわ」


 そうなのか。


 良かった。


 まあ確かに、人によっては魔物の死体をアイテムボックスで持って帰ってくる冒険者もいるかもしれないもんな。


 頷いて、魔石を丁寧にカウンターに置いていく。


 1個、2個、3個……。


「このサイズはスライムか」


「はいっ」


 それから割らないように気をつけて、全ての魔石を並べ終えた。


 はぁ……緊張した。


「これで以上で――す?」


 顔を上げると、ルーダンさんが感心だと言わんばかりに眉を上げていた。


 後ろからバッと肩を掴まれる。


 カトラさんだ。


 な、何気に力が強い……。


 半ば強引に体を反転させられると、こちらはルーダンさんとは違い目を丸くして、勢いよく顔を近づけてきた。


「なっ、73個って。何百匹のスライムがいたのよ!?」


「……ん? 何百、匹?」



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