スライム
じゃあ、えーっと。
何をどうやるべきなのか。
まずは落ち着いて、手順を整理しよう。
いくら相手が魔物とすら思われていないようなスライムとはいえ、下手をすると大事になりかねない。
地面に躓いて転倒→顔に引っ付かれる→窒息死。
うん、最悪の展開だ。
情けなさ過ぎる。
水路より明るいここに来て初めて分かったけど、よく見るとスライムの中に小石が浮かんであった。
黒っぽい、1cmくらいの石だ。
あれが魔石なんだろう。
そもそも魔物とは、魔力を帯びており、体内からエネルギー資源の1つである魔石が採れる動物のことを指すらしい。
だから呼吸すらしているのか怪しいこのスライムも、分類上は一応魔物に当たるというわけだ。
……で、倒すには体の中に浮かんでいる魔石に振動を与えればいい。
生き物を倒すというよりも機械の動力源を故障させるみたいだな。
スライムたちはフニフニと動いている。
何をするにも動かれていると面倒だ。
だから最初に動きを止めておこう。
アイテムボックスから残りのゴミを点々と出す。
なるべく1匹ずつ離すようにして……。
できた。
天井に上っていた個体も下りてきたし、いきなり頭上からスライムが降ってくる心配もなくなった。
壁際にいるスライムに近づいてみる。
食事に夢中で、こっちに来る様子はない。
準備完了だ。
そうしたら次は短剣を抜いて、しゃがむ。
カトラさん情報では、スライムは金属をなかなか溶かすことができないそうなので、短剣を体内に差し込んで魔石にぶつけるつもりだ。
狙いを定め、僕はいけると思ったタイミングで腕を振り下ろした。
短剣がスッと入る。
ほとんど抵抗もない。
しかし、波打つスライムの体の中で魔石が横にズレてしまった。
空振り。
スライムは驚いたのか、食事を中断して横に逃げていく。
速さはそこまでない。
もう1回だ。
次こそ当てる。
腕を伸ばして、離れていくスライムの魔石に目掛けて短剣を下ろす。
今度は上手くいった。
……コツッ。
その瞬間、針を刺された風船みたいにスライムが萎み始めた。
綺麗な水が地面に広がる。
外皮のような物が残るのかと思ったが、結局最後にはそれも水になってしまった。
そして魔石はというと……。
割れて灰色になっている。
あれ、もしかして失敗?
いっ、いくらなんでも脆すぎる。
慌ててたからちょっと力んでしまったのかもしれないけど、それにしてもだ。
これ、倒すのは簡単でも魔石の回収が難しいパターンだったのか。
2匹目は細心の注意を払ってトライしてみる。
が、またしても魔石は割れてしまった。
これは……厳しいな。
せっかくだから魔石も上手く回収して、稼ぎを少しでも多くしたいのに。
3匹目はかなり集中して、ゆっくりやってみた。
何度か空振って逃げていくスライムを追い回すはめになったが、どうにか魔石をゲットすることに成功した。
でも、これじゃあ疲れすぎる。
時間も結構かかるし、残り全部のスライムにこんなにも労力を割くのは骨が折れるよなぁ。
うーん。
他に何かいい方法はないものか。
ちょっと考えてみよう。
……。
そうだ。
ここでも生活魔法が役に立つかもしれない。
実際にどうなるのかは想像も付かないが、物は試しだ。
ゴミを食べているスライムに手のひらを向け、炎の生活魔法を使用する。
スライムは死んだら普通の水になるのだから、加熱すれば沸騰するかもしれない。
一気に温度を上げていく。
スライムはダメージを受けているのか、ぷるぷると震えだした。
そしていきなり、パァンッと弾けた。
「熱っ!」
熱湯が飛んできたので慌てて後ずさる。
湯気が立ち上る場所には、スライムの姿はすでになく割れた魔石だけが残っていた。
ゆっくりと萎んでいかず爆発したから、落下の衝撃で割れちゃったのか……。
やっぱ脆いのが難点だな。
さすがに全ての魔物から採れる魔石がこの程度の強度ではないだろう。
もしそうだったら回収が難しすぎる。
魔物の強さとかで変わるとか?
まあ炎の生活魔法はダメだと分かったので、切り替えて次に行こう。
「『氷よ』」
次はスライムを凍らせてみる。
急速に冷やすと白っぽくなり、途中から動かなくなった。
最後までしっかりと凍らす。
……そろそろ良い感じかな。
短剣の柄の部分で冷凍スライムを軽く叩く。
振動が伝導して倒せると思ったのだが、反応はない。
これは……まだ生きてるのかな?
気になったのでアイテムボックスに収納してみようとする。
入った。
ってことは、もう生きてないってことか。
再びスライムを出して、炎の生活魔法で溶かす。
水が流れ出ていき、今度は魔石が綺麗な状態で残った。
成功だ。
手順が増えて面倒だけど、これだったら確実に魔石を回収できるな。
簡単だし、変に集中しなくてもいい。
それじゃあこの方法で倒していくとしよう。
水路にいるスライムも全て対処すると、最終的に魔石は73個になった。
最後に改めてデッキブラシと水の生活魔法で地下室をピカピカにして、風の生活魔法を使って換気する。
ふぅ。
終わった終わった。
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