順調
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「『水よ』」
綺麗な水で木箱を洗い流す。
コップを満たす時とは違い、供給する魔力は少し多めに。
へばり付いているゴミを落として、アイテムボックスへ収納。
階段を上って地上に出る。
誰も見ては……ないな。
よし。
木箱を取り出す。
そこまで酷くはないが、やっぱりちょっと臭い。
すぐに炎と水の生活魔法を使い、強めの勢いで熱水をかける。
地下室では排水のことを考えないといけないが、ここでなら水溜りができるだけで済む。
練習の成果もあり以前よりも早く、そして自由自在に水温を変えられるようになった。
ちょうどいいくらいの温度をキープして、丁寧に洗浄する。
…………。
うん。
濁った水も出なくなったし、そこそこ綺麗になったかな?
さすがに再度使うことはできないだろうけど……まあ、捨てる分には問題ないと思う。
近くに日向ができていたので、そこに木箱を置いて地下室に戻る。
表の庭では子供たちが遊んでいるんだろう。
楽しそうな声が聞こえてきた。
それから1つ1つ悪臭問題にならないように気を配りながら洗い、太陽光の下で自然乾燥させていく。
途中で何度か休憩を挟み、マイペースにやったつもりだったが……。
結局、それでも予定よりも早く、今日中にやろうと思っていた作業を全て終えてしまった。
現在の時刻は昼を超えて少ししたくらい。
14~15時頃かな。
元々地下室に置かれていたであろう荷物は、地上に運びずらりと並べている。
初めの方に運んだ物はすでに乾いているようだ。
地下室にはまだ木片なんかが残っているけど、あれは明日でいいだろう。
先にカトラさんにスライムのことを相談したいし、明日はかなり時間がかかると思う地下室の壁や床の洗浄があるから、それと一緒にやるとしよう。
じゃあ、一応洗った状態で荷物を乾かしてるとアンナさんに伝えておくか。
地下に続く鉄扉を閉じ、表に行く。
すると年下の女の子たちと庭で遊んでいたアーズが僕に気がつき、駆け寄ってきた。
「トウヤ、もう終わったの?」
「うん、今日の分はね。たぶん全部終わるのは明日になると思うけど。アンナさん、どこにいるかわかる?」
「うーん……ここにいないってことは院長室で仕事中なんじゃないかな?」
「院長室……?」
「うん。2階にある部屋だから連れてってあげるよ。ちょっと待ってて」
アーズは女の子たちの下に行って声をかけてきてから、再びこちらに戻ってくる。
「お待たせ。それじゃあ付いてきて」
建物内に入り、階段を上る。
ほとんどの子が外に出て遊んでるのかな?
今朝に比べてしんとしている。
2階の一室の前に着くと、アーズが扉をノックした。
「アンナちゃん、トウヤ連れてきたよー」
「はーい」
返事の後、すぐに扉が開く。
「アーズ、ありがとうね」
……あれ?
現れたアンナさんは今朝とは違う箇所があった。
眼鏡だ。
そういえば、この世界に来て初めて掛けてる人を見たなあ……。
などと思いながら部屋に入れてもらい、1日の進捗を報告する。
スライムのことは穴を塞いだ棚の隙間から出てくる様子もなかったので、取り立てて伝えることはしなかった。
鉄扉が閉じられているし、わざわざスライムたちが生息地の水路から離れるようなこともないだろうと考えたからだ。
ここは不安を煽るよりもいいだろう。
それに、もしもカトラさんに話を聞いて問題がありそうだった場合はすぐに戻って来ればいい。
アンナさんは事務作業をしていたらしく、机に置かれた大きなノート(?)を閉じ眼鏡を外した。
「えっ。も、もうそこまで進んだんですか!? 本当に、ライシャさんが仰っていた通りですねっ。凄腕の冒険者さんだと」
ライシャさんって……。
ああ、ドブさらいの時のおばあさんのことか。
本当に僕のアイテムボックスのことを言いふらしたりせずに、単純に凄腕だと言って紹介してくれてたんだな。
最初の依頼主さんがいい人で助かった。
その後、基本的に裏で乾かしてる物は廃棄することになるだろうが、念のために必要な物はないかアンナさん自身に確認しておいてもらうことにして、今日の所は失礼することにした。
「それではまた明日、今日と同じくらいの時間に伺いますね」
「はい。明日も引き続きよろしくお願いしますっ」
孤児院を出て、その足でギルドに向かう。
初めての指名依頼は今のところ良い感じだ。
順調順調。
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(2022/7/26)




