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孤児院

 幼い頃に両親を失い、アーズは孤児院に引き取られたそうだ。


 今では年長者のうちの1人で、資金繰りに苦しむ院のために働き口を探していたとき、グランさんに雇われて高空亭の従業員になったらしい。


 ……ほんと、頑張ってるんだな。


 いつも明るい子だから微塵もそんなことは感じさせなかったが。


 以前、彼女が仕事を終えて帰る際、大きな鍋を持って宿を出て行くところを見かけた。


 あれはグランさんが残り物と称して孤児院の子供たちのために料理を持たせてくれているんだとか。


 アーズは「絶対に残り物の量じゃないのにね」と泣きそうになりながら笑っていた。


 グランさんもアーズも、誰かのために何かをできるって素晴らしいな。


 人情というか何というか。


 僕はまだ、今は自分のことで精一杯だけど、冒険者業を通して少しでも人の助けになれたら嬉しいと思う。


 今回の指名依頼、気合いを入れて頑張るぞ。


 あまり早く孤児院に行っては迷惑になるだろう。


 だから……。


 のんびりと朝食を済ませ、ギルドに向かうことにした。


 カトラさんから改めて説明を受け、場所を教えてもらった孤児院へ行く。


 フストを囲む市壁。


 その近く、かなり外側の地域に孤児院はあった。


 敷地はそこそこ広い。


 子供たちが駆け回れるような庭がある。


 しかし、朝方は日が入らず底冷えしている印象を受けた。


 昼に太陽が昇りきったら、この辺りも日が差し込むのだろうか。


 ……ん?


「あれ、アーズ」


「あ、来た来た。おはよ」


 門の前に行くと、アーズが立っていた。


「おはよう。もしかして僕が来るの待ってくれてたの?」


「うん。まあ、ほんのちょっと前からだけどね。アンナちゃん――あ、去年から院長になった前の院長の娘さんのところに案内しようかなって」


「ありがとう。じゃあ頼めるかな?」


「アイアイサー。それじゃ、付いてきて」


 敬礼したアーズの後ろに続き、敷地内に入る。


 朝から元気だな。


 ルンルン気分で、アーズは半ばスキップをしながら進んでいく。


 2階建ての横に長い大きな建物。


 壁にツタが纏わり付くように伸びているそこに入ると、先ほどから聞こえていた子供たちの声が一段と大きくなった。


 途中、元気に廊下を走る男の子2人とすれ違った。


 小学1年生くらいかな?


「こらっ、走らない!」


 アーズに注意された2人は僕のことを気にしながらも、キャッキャッとはしゃぎながら早歩きで去って行く。


「はぁ……あの子たち……」


「た、大変そうだね」


「いつものことだから。アンナちゃんも今、多分チビたちに手を焼いてるはず……ほら、やっぱり」


 アーズが示した部屋からは何やら言い争うような声が聞こえてきた。


 両開きの大きな扉の奥を覗くと、ずらりと長机が並んだ一角で子供たちが喧嘩をしていた。


 ここは……食堂かな?


 子供たちの間で、あわあわしている女性がいる。


 修道服のような格好に身を包んだ、20代前半くらいの若い金髪の女性だ。


 垂れ目がちで、動くたびにその……かなり大きな胸が……うん。


 気にしないでおこう。


「トウヤはここで待ってて。アンナちゃん呼んでくるから。ここはあたしが……」


 腕捲りをしたアーズが騒ぎの中に突入していく。


 つ、強いな。


 アーズが背中を叩き何かを言うと、院長だというアンナさんはホッとした表情になりこちらを見る。


 2人はいくつか言葉を交わしてから、アーズが喧嘩の仲裁に入り、アンナさんは僕の方へ小走りで駆け寄ってきた。


「す、すみませんっ、騒がしくて。冒険者のトウヤさんですよね?」


「はい。依頼を受け、伺いました。本日はよろしくお願いします」


「こ、こちらこそお願いします! 私はアンナと申します。えーっと……で、では、こちらへっ」


 どこか緊張気味な彼女に案内され、さっそく僕は件の地下室へ向かうことになった。



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