昼下がり
ギルドに入ると、すっかり冒険者の数は少なくなっていた。
やっぱりこのくらいの方がいいな。
気を張らなくて済む。
窓口にカトラさんの姿があったので、そこに向かいナツルメ草を差し出した。
「えっ。これって全部、今日採ってきたのよね?」
「はい。なにか不備でも……」
「ああいや、思ってたよりも量が多かったから驚いちゃって。今朝行ったばかりなのにこんなに採取してくるだなんて、トウヤ君ってやっぱりスゴいわね」
なんだ、そういうことか。
鑑定スキルのことは誰にも言えないから仕方ないけど、一瞬失敗でもしたのかと思ったな。
「たまたま運が良かっただけですよ」
「運が良かった……なるほどね。じゃあはい、ナツルメ草30本で大銅貨6枚。ご確認ください」
カトラさんは運の一言で納得してくれたみたいだ。
硬貨を受け取る。
「冒険者になってまだ4日とは思えないくらい、かなり順調ね」
「そうなんですか?」
「立派にもほどがあるくらいよ。その年で冒険者になって、ここまでできるだなんて」
まあ10歳にしては、って感じかな?
最後に「期待の新人さん、今後も応援してるわ」と声をかけられ、僕はギルドを後にした。
ナツルメ草30本で大銅貨6枚。
銅貨10枚=大銅貨1枚だから、ナツルメ草1本で銅貨2枚の稼ぎになるのか。
たしかに、そう考えるとさっきのカトラさんの反応も理解できる。
誰にでもできる薬草採取で、力仕事である前回のドブさらいよりも実入りが良かったんだから。
鑑定がなければもっと時間がかかった仕事だったんだろうな。
高空亭に戻り、グランさんに裏庭を使う許可を貰ってから短剣を振る。
今日はアドバイスを貰えなそうだ。
宿の清掃をアーズに任せて、グランさんは食材を仕入れに行くとのことだった。
まあ大体、まだ次のアドバイスを貰うタイミングではないか。
今は腕だけじゃなく、全身を使って剣を振れるようにならなければならない段階。
滑らかな線を描けるよう、感覚を掴めるように練習する。
息切れはしないし、素早く動けるのでこれはこれで楽しい。
しかし、どうしても魔法の特訓ほど夢中にはなれないなぁ。
…………。
滝のように流れる汗。
足下の土が点々と滲んでいる。
……ふぅ。
今日はここまでだ。
地面に座り込み、水の生活魔法で水分補給をする。
気持ちいい風。
日差し。
近所の生活音。
なんか、子供の頃の夏休みみたいだな。
時間の流れが遅いような、ぼーっとできる感じがする。
何気なく目を閉じる。
……。
はっ。
ダメだ。
危うく寝そうになってたぞ、今。
とりあえず目を覚ますためにも水浴びをして、アイテムボックス内の服と着替えよう。
ザッバァー。
うっ、冷た気持ちいい。
井戸から汲んだ水は冷えてるけど、運動後には最高だ。
風の生活魔法で全身を乾かし、着替える。
宿の中に入ると食堂でアーズが座っていた。
「お疲れ、トウヤ。今日もパパッと仕事をこなしてあとはのんびり?」
「うん、朝から薬草採取をやっててね。アーズは休憩中?」
「そーそー。弁当も売ってきて、掃除も終わったからね。おやっさんが帰ってくるまでは店番をしながら休憩かな」
勤勉だな。
まだ12、3歳くらいだろうに。
アーズは疲れているのか、それともさっきの僕みたいにのんびりした時間にウトウトしているのか、テーブルに伏して瞼を落とした。
鍵を貰おうと思ったんだけど……後にするか。
昨日の生活魔法の練習の続きは、また今度で。
アーズの向かいの席に座る。
しばらく無言が続き、ふいにアーズが喋りかけてきた。
「冒険者って、昼には仕事が終わる人も結構多いの?」
「うーん、どうなんだろ。僕が特別早めに切り上げられてる方なんだと思うけど……」
「あ、そういえばそうだね。他の冒険者のお客さんは夜にならないと帰ってこないし」
冒険者に興味でもあるのかな?
短剣も振りたがってたし、将来的に。
「ああでも、明日はついに僕も午前中に仕事を片付けられないかもしれないなぁ」
「……ん、何かあんの?」
「いや、孤児院の地下室を――」
「ええっ!? あれってトウヤなの!?」
目を閉じてたアーズがいきなり、カッと目を見開いて立ち上がった。
び、びっくりした……。
「『あれ』って何?」
「その孤児院、あたしが住んでるところ!」
「え、そ、そうなのっ?」
「うん!」
凄い繋がり方だな。
アーズが孤児院に住んでることも知らなかったのに。
「冒険者が来るって聞いてたけど、まさかトウヤだったなんてね。あたし明日は仕事も休みだから孤児院にいるし! じゃあ待ってるね、トウヤが来るの」
「あ……りょ、了解」
驚きの展開によほどテンションが上がったのか、それからアーズとの会話はグランさんが帰ってくるまで続いた。
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