贈り物
衝撃の事実に困惑する。
街の商店を営んでいるのかと思ったら、実は大手スーパーの社長でした、みたいな感じだ。
店は冒険者ギルドなんかより断然デカい。
ジャックさんとリリーが軽い足取りで中に入っていくので、僕も慌てて後を追う。
「うわぁ……」
店内は広く、様々な商品が置かれていた。
お客さんの数も多い。
僕が感嘆していると、ジャックさんが自分に気付いた店員に挨拶をしてから店内の説明をしてくれる。
「1階と2階は店で、3階は事務所になっていてね。ここは本店だから取り扱ってる品数も多くて。1階は比較的安価な物、2階は高級品なんかを置いてるんだ」
「本店ということは、他にもお店を?」
「フスト以外の4つの街に1つずつね」
全部で5店舗……。
前から立派な人だとは思ってたけど、まさかここまでだったとは。
ジャックさん、どれだけ凄い人なんだ。
前世の僕はただのサラリーマンだったのに、同世代でこれって。
階段を使い、高級品フロアの2階を素通りして事務所に行く。
廊下を歩いていると、先に曲がり角に差し当たったリリーの方から突然知らない声が聞こえてきた。
「おっ、リリー久しぶりだな! ジャックがいないんだが知らないか?」
「パパならそこ」
リリーがこちらを向く。
すると角からひょこっと男性の顔が覗いた。
「おお、いたいた。ありがとな、リリー」
坊主頭の男性がこっちに駆け寄ってくる。
それを見て、ハァと肩を落とすジャックさん。
「エヴァンス……。今日は仕事をしないって言っておいただろ?」
「しょうがないだろ。どうしてもお前に確認しておきたいことがあって探してたんだよ。あー……ジャックの恩人の……トウヤ! すまないが、ちょっとの間こいつ借りるな?」
「トウヤ君、すまないね。リリーと一緒に先に行っておいてくれるかい」
「あっ、はい」
このエヴァンスさんも僕とジャックさんのことを知っているみたいだ。
近しい人なのかな?
どうやら仕事の話らしいので、素直に頷いてリリーの方へ行く。
「こっち」
連れられたのは廊下の突き当たり。
いかにも偉い人の部屋だった。
高級そうな革張りのソファに座る。
なんか緊張するなあ。
広いけどよく手入れされていて、どこか重厚感みたいなものがあるような……。
「エヴァンスはパパとママの幼馴染みで、パパと2人でこの商会を作った副代表なの」
「え?」
僕がそわそわしていると、向かいに座るリリーが突然エヴァンスさんの説明をした。
「知りたそうにしてたから」
「あ……ありがとう」
ここに来るまでちらっと振り返ってエヴァンスさんを見てたことに気付いてくれたのか。
って、副代表ってことはあの人も偉い人だったんだ。
それにこの商会、2人で作ったの?
1代にしてこれか……。
す、凄すぎる。
2人とも良い意味で自然体な関わりやすい人に見えるけど、かなりの大物なんだな。
もう上手く驚けもしない。
茫然だ。
「いやーごめんね、邪魔が入って」
しばらくして部屋に入ってきたジャックさんは、自らホットティーを用意してくれたみたいだ。
こんな凄い人に申し訳なくなる。
けど、変に態度を改めるのも失礼な気がする。
なるべく今までと同じように、僕は僕なりのジャックさんへの接し方を心がけよう。
「で、君に渡したい物なんだけど……これを受け取ってくれないかい? 私からの感謝の気持ちとして」
カップを手に取り紅茶のおいしさに感動していると、ジャックさんが小さな木箱を机に置いた。
「なんですか、これ?」
「大金貨5枚だ」
「だ、大金貨っ!?」
ソファに座っているのに腰を抜かしそうになる。
ジャックさんが開いた木箱の中には、確かにふかふかの赤い布の上に黄金に輝く大きめの硬貨が5つあった。
フストがある……なんだっけ?
今パッと名前を思い出せないこの国では、
鉄→銅→銀→金→白金
の順で硬貨の価値が上がっていく。
それぞれ鉄貨と大鉄貨のように同じ金属の中に2種類あるので、計10種の硬貨があるわけだ。
僕がここまでの生活で使ったのは大銅貨まで。
ギルド登録の際は、ジャックさんが銀貨1枚を支払ってくれた。
それが今、目の前にあるのは大金貨だ。
まだ物価の確認が足りないが、現在のおおよその感覚として
大鉄貨1枚→10円
銅貨 1枚→100円
大銅貨1枚→1000円
くらいな感じなので、その法則でいくと……。
大金貨1枚→1000万円っ?
本当に5枚で5000万円もするのだったら、貰えたら嬉しい。
だけどこれは……。
「さ、さすがに受け取れませんよっ」
がめつく生きられたらいいけど、運良く助けただけでこんなに貰うわけにはいかない。
別にカッコつけたいのではなく、普通に怖いし。
今の僕には身に余る金額だ。
なかなか引き下がってくれないジャックさんも、何度も断ると諦めてくれたらしい。
「じゃあそうだな……あっ、ちょっと失礼するよ」
何を思いついたのか、部屋を出て行く。
そして帰ってきたジャックさんの手にはまた別の箱があった。
鍵穴のある、小さな宝箱みたいな。
「トウヤ君、これなんかどうだい?」
その中には1つ、不思議な指輪が入っていた。
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