別れと吉報
【コミカライズ2巻、発売中です!】
宣伝を続けている2巻が、ついに発売開始となりました。
ぜひ書店or通販サイトでゲットしてもらえると嬉しいです。
作品の今後にもかかわるので、何卒よろしくお願いいたします! ほっこり、のんびりとした空気感を上手く漫画にしてくださっているので面白いですよー。
その後もいろんな部屋や、趣味で研究中という大きなロボットのような魔道具を見せてもらい、僕たちの工房見学は終わった。
「持って行け。土産だ」
「ええっ。い、いいんですか?」
最後にフレッグさんが片手サイズのボールをくれる。
渦のように入った線と、この魔力。
魔道具に違いない。
受け取った僕が驚いて見上げていると、腕を組んだフレッグさんは気恥ずかしそうに目を逸らした。
「それが載っている物を軽量化する魔道具だ。馬車に載せたら、荷台が軽くなるはずだ。十日に一回、魔力を注いでやってくれ」
「軽量化……。ありがとうございます!」
「まあ、こんなものを! ありがとうございます。ユードリッドの負担も減って、移動速度が上がりそうね」
「すごい。ありがと」
頭を下げて感謝を伝えると、カトラさんとリリーも興奮した声音で続く。
「おう。大事に使ってくれよ」
と、フレッグさんは言うと雑に頭を掻く。
付与タイプの魔道具かぁ。
販売店で価格も見ていたので落とさないように両手で包むように持つ。
このままノルーシャさんは南地区にあるフレッグさんのおすすめの酒場に同行するらしい。
僕たちは工房の門の前で別れて、宿に帰ることにした。
そういえば、ノルーシャさんと一緒に来ている護衛の方々のうち、お一方はクーシーズ商会の従業員だった。
『彼が窓口として、しばらくは残る話になっています。またネメシリアに帰り次第、追加で従業員を派遣し連絡網を築こうかと』
電話やメールで簡単に連絡が取れない世界だ。
連絡網を築き文書を可能な限り早く届けられるようにしたりと、ちゃんと計画が練られていたそうだ。
晩はこの日もサムさんたちからの経過報告を聞き、マッピング中の地図を見せてもらったりする。
……。
そして翌朝。
ノルーシャさん一行は休む暇もなくダンジョールを出発したのだった。
「皆様お元気で。またお会いしましょう」
馬車に乗った旅装の彼女たちを、宿の前で見送る。
街に来た時に聞いた通り、裏手にある厩舎から馬車を出すときは大変そうだったけど、道に出てしまえば問題なく進めている。
旅に出る人を見送るって、こんな気持ちだったんだな。
今まで見送られてばかりだったので、残される側はなんだか慣れない。
無事の到着を祈り、姿が見えなくなるまで僕たちは手を振っていた。
ノルーシャさんたちが行ってしまうと、突然妙に静かになったように感じる。
「……じゃ、部屋に戻って二度寝でもしましょうか」
カトラさんがそう言って、僕たちは宿の中に入ることにした。
◆
次の日。
昼過ぎに許可をもらって宿の裏手で焚き火を起こし、白い息を吐きながら作った焼きリンゴを食べていると……。
「あ、いたいた。なに、この美味しそうな匂いっ」
ダンジョンに行っているはずのジャスミンさんが現れた。
「あら、今日はもうお帰りに?」
「まあね。早く報告したいことがあって、私だけ走って帰ってきちゃった」
カトラさんの問いかけに答えながら、僕たちの横にしゃがむ。
「焼きリンゴを食べてるんです。せっかくなのでどうぞ」
「わっ、ありがとうトウヤ! めちゃくちゃ美味しそうじゃん」
アイテムボックスから椅子も出し、ジャスミンさんにお裾分けをする。
ムルさんから分けてもらったリンゴをじっくり焼いて、自作したミルクアイスを乗せたものだ。
火を通すことでリンゴの甘さが強くなっているので、さっぱりめのアイスがよく合っている。
そもそも、温かいものと冷たいものって一緒に食べるとそれだけで美味しいからな。
デザートにおいては絶対的な正義だ。
「んー!! 美味っしい~」
ぱくり、とフォークを口に刺したままジャスミンさんが頬に手を当てている。
元々はノルーシャさんが帰ってしまい、落ち込み気味だったリリーを励ますために考えたことだったけど。
甘いものを食べて普段くらいまでには戻ったリリー以上に、ジャスミンさんが幸せそうだ。
目をうるうると輝かせている。
「それで、報告って一体……」
そんな様子に苦笑して、カトラさんが尋ねる。
バクバクと凄い勢いで焼きリンゴを頬張っていたジャスミンさんは、その手を止めると意味ありげに口角を上げた。
「ふふーん。なんと、トウヤが見つけた未発見エリアのマッピングが終わりました!」
おぉ。
も、もうっ?
もちろん、こんなふうに心の中ではびっくりしたけど、僕たちは上手く反応できなかった。
なにしろジャスミンさん……。
胸を張ってフォークを掲げているけど、口にアイスがついてます……。




