前任者
宿に帰ったら、水をゴクゴク飲みながらまったりと過ごす。
暖かい部屋の中、ソファーで横になっていたら窓の外で雪が降ってきた。
本当によく降るな。
体も寒さに慣れてきたのか、最近はあんまり凍えたりはしなくなってきている。
雪が降ると街の音が遮断されて静かになるからなぁ。
僕としては雪が降っている時間が結構好きだ。
大粒の雪が次々に落ちていっている。
絨毯の上でレイと遊んでいたカトラさんとリリーも、雪が降ってきたことに気づいたらしい。
でも、それが当たり前の光景になってしまったのか、すぐに窓の方から目を外して遊びを再開していた。
……。
そんなこんなで時間は過ぎ、夜ご飯の時間がやってきた。
やっぱりと言ってはなんだけど、ラーメンを食べたので微妙な空腹具合だ。
僕たちは少なめで済ませ、帰ってきたサムさんたちからダンジョンでの経過報告をしてもらう。
「先に進んだら魔物が出てきたが、あくまで浅い階層の魔物といった強さだった。今日戦った中で一番強くても、大体五階層くらいの魔物だったな。先に進んだ空間が広くてな。もう少し時間はかかりそうだが、このままいけばトウヤたちが来ても問題はないだろう」
そう言って、サムさんはステーキ肉にかぶりついた。
「あと数日は楽しませてもらえそうだったよね」
モクルさんも楽しそうに笑っていたので、退屈な仕事を押し付けてしまったわけではなさそうだ。
現状では僕たちが行っても問題ないようだし。
早くその時が来るといいな。
サムさんたちに続いての二番手とはいえ、人類が踏み込んだことのないであろう未発見エリアの探索に楽しみが膨らむ。
これからも夜ご飯の席で報告をしてもらうことになり、この日は解散に。
そして就寝後、僕はレンティア様に白い空間へと呼び出された。
「それにしても、ダンジョールに味噌ラーメンがあって驚きましたよ」
「お、やっと見つけたかい。アンタが前から『ラーメンが食べたい食べたい』って言ってたからね。見つけたときにどんな反応をするか楽しみに待っていたんだがね。どうやら仕事で見逃してしまったようだ」
挨拶をしてからいつもの椅子に座り、僕がラーメンの話題を出すとレンティア様は残念そうに息を吐いた。
「そうだったんですか……。知っていたなら早く教えてくださっても良かったのに」
「まあまあ、アタシが色々と教えるだけじゃ旅がつまらなくなるだろ?」
「うーん。それはそうかもしれないですけど」
「こういう発見と驚きも、旅に欠かせない楽しみの一つじゃないか」
我ながらいいことを言ったと、紅茶を片手に深く頷いている。
「それで、ラーメンについて一つ気になることがありまして」
「ん、なんだい?」
多分、僕が知りたがっていることに気づいていたんだろう。
はっきりと言葉にするんだ、といった感じで僅かに笑みを浮かべて訊かれる。
「あの、ダンジョールにある味噌ラーメンを考案したという昔の冒険者についてです。『ミィソ』という名称からしても、やっぱりその人って……」
「そうさ。アンタと同じ地球、それも日本からの転生者。さらにアタシが選んだ一代前の使徒だね」
「えっ、まったく僕と同じ……。前の使徒も日本人だったんですね」
びっくりだ。
たしか、レンティア様は百年に一人だけ使徒を持てる権利をアヴァロン様から貰ったんだっけ。
だから前の使徒がいることは当然知っていた。
でも、それが僕と同じ日本人だとは今まで聞いたことがなかった。
「あれ、日本人だったことも言っていなかったか」
ただこう言ってるので、わざと隠していたというわけでもないようだ。
「聞いてませんよ。じゃあ、その方が百年前に味噌ラーメンをダンジョールで?」
「そうだね。あの子は神域を出た後、まずダンジョールの方角へ進んでね。あの街で料理を広めたり、結構自由にやっていたよ。ほら、アンタもハンバーグとかも食べただろう」
「あ、ハンバーグもその方の影響であったんですか」
言われてみると、ダンジョールでは他にもクリームシチューとかも食べていた。
あれも日本発祥の料理だった気がするし。
日本人の影が見え隠れしていたのに、まったく気づけなかったなぁ。
【11/15、本作のコミカライズ2巻が発売となります!】
一週間を切りました!
すでに各種サイトでは予約が始まっているみたいですので、何卒よろしくお願いいたします……!
(1巻未購入という方も、面白いのでこの機会にセットでぜひ)




