スキー
次の日からサムさんたちによる探索は開始された。
ダンジョン二階層は人が少ないとはいえ、人目に気をつけながら例の場所に案内する。
樹皮で綺麗に細工をしていた入り口は、誰にも触られていないようだった。
サムさんたちとは僕が転がり落ちた広い空間で別れ、あとはしばらくの間お任せすることになった。
三つに分かれた道の先がどれくらい続いているのかわからない。
果たして僕たちが探索して良くなるのはいつ頃になるのか。
そもそも出現するのが二階層の通常の魔物よりも強くて、僕たちは行かない方が良いと判断されるかもしれない。
本当に何も予想がつかない。
だから、僕たちはのんびりとこれまで通りの生活を遅らせてもらうことになった。
と、いうわけでさらに一日後。
街で必要な物を買い、僕は自分たちの部屋で胡座をかい、試行錯誤しながら木の板の形を整えていた。
短剣を使って、形を調整していく。
汚れないように敷いた布の上には、たくさんの木屑。
「……よし、これで完成かな!」
ふぅ。
思ったよりも時間がかかったが、無事に出来た。
「おー」
パチパチと拍手してくれるリリー。
「お疲れ。トウヤ君、これで滑るの?」
「はい。ちゃんと靴に固定できるといいんですけど……」
カトラさんに答える。
伸びをしてから、僕は改めて六枚の木の板を見た。
長めの物が二枚と、短めの物が四枚。
「スキー(?)、たのしみ」
リリーがわくわく、と両手を握る。
そう、これは……。
ダンジョールに来た時から計画していたけど、ようやく作れたスキー板だ。
自分で作ったにしては結構クオリティが高い気がする。
頑張ったから良く見えちゃってるだけかな?
あ、ちなみに今日はダンジョン探索はお休みだ。
サムさんたちにお願いしている手前、ちょっと申し訳ない気もする。
まあ、元々毎日ダンジョンに行ってたわけでもないし、これが普通なんだけど。
……。
今日は快晴だ。
山々に切り抜かれたダンジョールの空は、雲ひとつなく青く澄んでいる。
おかげで昨日まで雪が降り続いていたのに、今日は天気がいい。
僕たちは宿を出て、北に行ったところにある山の斜面まで来ていた。
防寒具はバッチリ。
むしろ、せっせと斜面を登ってきたら暑くなってきたくらいだ。
「このさらに奥は牧場だったんですね」
「のどかでいい場所ねぇ……」
今まで気づいなかったが、あんなところに牧場があったんだ。
広い土地に、大きな母屋と牛舎などが見える。
街の中とは違った一面の銀世界に日差しが反射して眩しい。
風はひんやりと冷たいのに肌がジリジリと焼けそうな場所だ。
レイも連れてきて無力化を解いてあげているけど、真っ白な景色すぎて気を抜いたら同化して見失ってしまいそうなくらいだし。
「……はやく始めよう」
「あ、ごめん」
カトラさんと二人でまったりしていたら、リリーに急かされてしまった。
すでに僕たちの足にはスキー板。
そして手にはストックがある。
ストックはまず初めに僕が自分の分を作り、あとはカトラさんが作ってくれた。
リリーは……最初に自分で作ったら歪な形になって、あんまり手作業が得意じゃないみたいだったからな……。
「それじゃあ、いきましょうか。初めはゆっくりで構わないので」
二人はスキーをしたことがないそうだ。
その上、板もストックも前世で買えたようなしっかりした物じゃないし、上達するには時間がかかるだろう。
僕が先頭を切り、お手本に滑り出す。
自分も久しぶりだから緊張するけど……。
おっ。
やっぱりこの体、運動神経がいいから滑りやすい。
勾配がそこまで激しくないから楽々と、両足を揃えて蛇行しながら下っていく。
力を込めたらここでもジャンプして回転したり、モーグル選手みたいなことができるかも。
ある程度行ったところで止まり、振り返る。
「どうです──」
二人のタジタジの姿を想像して見ると、とんでもない速さで真横をリリーが通過していった。
「ひゃっほう」
「え」
平坦な声音が置き去りにされている。
「これ、楽しいわね! 魔法を使ったら色々できるんじゃないかしら!」
カトラさんもプロレベルの技術で、上手に重心を移動させながら滑ってきたし。
僕のそばで板を横にして急停止する。
ふわふわの雪が激しく飛ばされてきた。
「ほ、本当に初めてなんですよね……?」
「ん? そうだけど……どうかした?」
「あ、いえ。二人ともスゴイなぁ、と」
二人の能力を見誤っていたかもしれない。
これは器用とかのレベルを超えて恐ろしいくらいだけど。
魔物を倒したりして身体能力も高くなっているから、異世界基準で考えるべきだったのかな。
「ありがと。ほら、レイちゃんも走ってきたら行きましょうか」
カトラさんはウィンクをすると、下へ滑っていく。
レイも全力疾走で走っているので、僕たちに付いてこられそうだし。
やっぱり全員どうかしてるよ。
どれだけ経っても、当たり前の感覚ってなかなか抜けないもんなんだ。
僕が斜面を下り終わる頃には、リリーとカトラさんが魔法を使って加速したり、その勢いで今度は逆に斜面を登ったりした始めていた。
「えぇ……」
なんというか、僕が求めていたスキーの醍醐味は違う気もするんだけど。
「トウヤも、一緒にやろう」
「これも楽しいわよー」
リリーとカトラさんが、縦横無尽に斜面を滑りながら誘ってくる。
イメージしていたスキーとは違う。
まあだけど、ここは異世界だしなぁ。
考えようによっては、これはこれでありなのかもしれない。
ある種のロマンも感じるし。
僕も参加することにする。
ボンッとかシュバッとか、およそスキーには似合わない魔法を放つ音が、辺りに何度も響き渡った。




