ダンジョンに選ばれた
「サムたちも、ほら! なんでそんな冷静なのっ」
ノリノリのジャスミンさんが誘うが、他の三人は席から立ってくれない。
モクルさんが苦笑してるだけで、サムさんなんかは顎に手を当てて考え事をしている。
「そうか……。そんな空間がダンジョンに残されていたとはな。トウヤ、もう少しだけ発見した時の状況を詳しく聞かせてくれないか」
「あっ、はい」
ジャスミンさんが無視されて不満げなんすけど……。
渋々席についている彼女を横目に、当時の状況を説明する。
最初は木に体重をかけてもなんともなかったのに、改めてもたれかかると樹皮が破れ、まるで初めから空洞があったかのようになっていたことなど。
「ふむ、それはあれじゃな」
話を終えると、ゴーヴァルさんが言った。
「お主は所謂『ダンジョンに選ばれた』んじゃろう」
「だ、ダンジョンに……?」
「そうじゃ。ダンジョンを一つの生命体として考えることもあっての。条件はわかっておらんが、ごく稀に特定の人物が赴いた際にのみダンジョンが変動することがあるんじゃ」
「それこそ、未発見エリアの出現とかね!」
蚊帳の外にされていたジャスミンさんが、肩を入れて付け加える。
「そういう経験をする人のことを、冒険者の間では『ダンジョンに選ばれた』って言うんだよね」
「なるほど……」
たしかに、今回のこともそれに当てはまりそうだ。
ってことは僕に反応して、ダンジョンが自動で変動したのかな。
それとも製作者でもあるアヴァロン様が、編集のようなことをしている結果?
レンティア様だったら何かわかるかもしれないし、今度チャンスがあったら訊いてみよう。
「ダンジョンに選ばれる人は偉業を成し遂げるとか、神に愛されてるって言われてるんだ。トウヤくんは大成するかもね」
モクルさんが微笑む。
僕が偉業を成し遂げるかはわからない、というか想像できないけど……。
一応レンティア様の使徒だし、「神に愛されてる」って部分はあっているのかも。
まめに貢物も送ってるんだから、好いてくれているとは思いたいが。
「それで、なんだけど」
と、カトラさんが話を進める。
「第二階層とはいえ未知は未知だから。私たちが探索するのは危険だと判断して、サムさんたちに代わりをお願いしたいのよ」
「それは別に構わないが、トウヤたちもいいのか?」
「はい、僕は。せっかくですし、僕たちでも安全そうだったらギルドに報告する前に探索してみたいなぁと思いますけど」
「……わたしは、正直くやしい。でも、今回は仕方ないってわかってるから」
問いに僕とリリーが答えると、サムさんは自身の膝を叩いて言った。
「わかった。最初の様子見は、俺たちが責任を持って務めさせてもらおう。だが、後から君たちも誘うことにするよ。マップをギルドに報告することも、宝を獲ることもしない。みんなもそれでいいか?」
え、とカトラさんが目を丸くする。
サムさんに訊かれたモクルさんたちは戸惑うことなく頷いた。
「もちろん」
「久しぶりにダンジョンでワクワクできそうじゃ」
「サムもたまにはいいこと言うねっ」
そんな、本当にいいのだろうか。
未発見だった場所に足を踏み入れるなんて、いくらS級だからと言っても危険じゃないわけではないのに。
「ダメよ、そこまでしてもらったら」
慌てて首を振るカトラさんに僕も続く。
「そうですよっ。危険だけ押し付けて、手柄を全部もらうなんてできません!」
「報酬は、必要」
リリーも気が引けたんだろう。
いつもよりも強い口調で主張している。
「だったら、発見者としてギルドに報告するのはトウヤのままで、その情報量を分け合うってのは?」
ジャスミンさんが提案する。
それでもまだ僕たちの表情がイマイチだったからか、彼女は強調するようにガッツポーズをした。
「途中で倒した魔物から獲れたものは、ちゃっかり売らせてもらうからさ。私たちは自分で見つけてないのに楽しく人類未到の未発見エリアを探索して、お金まで稼げるんだからっ。ねっ?」
納得させるように「ふんっ、ふんっ、ふんっ」と順番に僕たちと目を合わせてくる。
結局、僕たちはその圧力に負け、この条件で未発見エリアの調査をお願いすることにしたのだった。
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