母性
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「わたしは、魔法陣を描ける人に合うの初めて。魔法陣も、初級魔法のを見たことがあるだけ」
しかし、ジャスミンさんの凄さはかなりのもののようだ。
続けてリリーも……って。
「え。リリーでも魔法陣って初級魔法のしか見たことがないのっ?」
「うん。魔法陣はそれだけレア。オリジナルの、それもこんなに複雑なのは超ーレア」
「えぇっ。じゃ、ジャスミンさん。そんなものを本当にタダで教えていただいていいんですか!?」
リリーに教えられ、思わず強めに確認してしまう。
裕福な育ちのリリーも魔法陣との接点がそこまでないなんて。
確かに魔力を流すことで魔法を習得できるのは、かなり便利だとは思う。
だからありふれた物とは思っていなかった。
それでも、この世界でもう少しは普及している物なのかと……。
魔法陣、とりわけ今ジャスミンさんが目の前で掲げているものがそこまでの代物だったなんて。
「いいの、いいの。もちろん頑張って作った大切な魔法だから、あんまり簡単には教えたくないけどね。私がいいと思った人には、是非とも使って欲しいものなんだよ。オリジナル魔法に対する母性ってやつかな」
魔法への母性、か。
まるで本当に自分の子のことのように、ジャスミンさんは慈愛の表情を見せる。
「……トウヤ、魔法は繋いでいくもの。全部、昔の人たちからの贈り物」
不意に、リリーがぽつりと呟いた。
珍しい感情が強くこもったセリフだ。
僕が顔を覗くと、彼女は気恥ずかしそうに目を逸らす。
「……そんな、考え方もある」
「ははっ、そうだね。たしかに、その考え方が僕もしっくりくる気がするかも」
そうだ。
魔法に限らない話だけど、知識は過去から積み上げられてきたものだ。
その上に今、僕たちがいる。
リリーの言葉に気づきを与えられた気がする。
「まあまあ、だからね」
僕が有り難くジャスミンさんが作ったものを受け取らせてもらおうと思っていると、その張本人が手の中の本をくいっと前に出した。
「生徒諸君に、これから私の秘術を授けよう……って感じだからさ。ぜひ覚えてみて。この魔法をレイルノート魔法学園で作った過去の私も報われるよ」
「あっ、ジャスミンさんってレイルノートの生徒さんだったんですか?」
「うん。もう……年前の話だけどね。特待生として招待されたから、立場的には研究員だったけれど」
カトラさんが魔法学園の名前に反応すると、ジャスミンさんが説明をしてくれる。
何年前の話だったのかな。
その部分だけ小声で聞こえなかったが。
「じゃあリリーちゃんの先輩になるのね」
「えっ」
「リリー、レイルノートの生徒さんなのっ?」
僕も知らなかった話だ。
カトラさんの言葉に僕が反応する横で、ジャスミンさんが尋ねた。
「まだ、生徒じゃない。十三歳で入学するから。……招待されるなんて、ほとんどいないのに。ジャスミン、すごい」
「あはは、そうかなぁ? でもそうだったんだね。これから入学かぁ……楽しいよ、レイルノートは。学園全体が魔法で溢れていて」
そうだったんだ。
リリーが入学予定の魔法学園って、そのジャスミンさんが研究員だったレイルノートってところだったのか。
学園生活はかなり楽しかったのだろう。
過去を思い出すジャスミンさんの表情は明るい。
でも、そうか。
レイルノート魔法学園。
魔法が溢れているって、どんなところなのかなぁ。
入学……は無理かもだけど、僕もせっかくだから少し見に行きたいかも。
「まあ、というわけで。まずはトウヤから。この魔法陣に触れて、魔力を流してみて。ほんの少しでいいから」
「は、はいっ。じゃあ失礼します!」
話が逸れてしまったが、ジャスミンさんに促されて手を伸ばす。
き、緊張するなぁ。
紙にペンで書かれた模様に触れ、恐る恐る魔力を流してみると、不思議な感覚に襲われた。
魔法陣が発光すると同時に、体から出した魔力が跳ね返されて戻ってくる。
戻ってきた魔力は、はっきりと自分のものとは違う。
異物だ。
でも決して不快感はなかった。
魔力の性質が異なるだけで、すぐに体に馴染んでいっているのがわかる。
「あっ。わかったかもしれません」
カチッとピースがハマったような感覚があった。
急に、今まで知らなかった魔法を理解できた気がする。
ジャスミンさんとは違って僕は杖を持ってないし、詠唱は覚えている部分しかできないけど……。
「『インスタント・リフレッシュ』」
詠唱の後、見よう見まねで発動してみる。
するとジャスミンさんが使ってい時と同じような、キラキラと輝く星が僕の周囲に現れた。
ふわり、といい匂いがしてくる。




