露天温泉
水が流れる音。
もくもくと上がる湯煙。
周囲には雪が積もっていて、下の方に見える屋根の数々は綺麗に真っ白に染まっている。
バートンさんに教えてもらった温泉は、坂の途中の分岐点を東に行き、また少し登った先にあった。
今日の来る時に見た川は凍っていたのに、温泉が下に流れていく小川は生き生きと流れている。
「あぁ……気持ちいですねぇ……」
「景色も良いし、こんなに綺麗な施設が作られていただなんて。レイちゃんも一緒に入れて良かったわね」
岩で作られた露天風呂は、段々畑のような形でいくつもに分かれている。
僕が先端に行って岩に乗せた腕に顎をついていると、隣でカトラさんも幸せそうな息を漏らす。
水着を着て入る温泉だから男女共用だ。
僕たちはネメシリアで海水浴をした時に水着を手に入れていたので、その時の物をアイテムボックスから出して着用している。
たしかに、温泉の施設は思いのほかしっかりとしていたなぁ。
バートンさんが言っていたように、魔道具で全体の水温をキープし、手入れなどもしっかりと行っているようだ。
清潔感に溢れている。
さらに設置された魔道具のおかげで、更衣室から温泉までの道中も暖かったし。
レイも湯桶にお湯を入れ、そこに入ることで温泉を満喫できているようだ。
許可をくれた施設の方に感謝だ。
段々になった温泉の一区画ごとに、それぞれのグループが入っている感じなので近くに他の人はいない。
広々と楽しめるのは最高だ。
「温泉さいこー。ときどき、また来よう」
寒さに弱いリリーは、温泉が気に入ったらしい。
ぷかーっと漂いながら、うっとりとした目で言ってくる。
本当に、全身の力が抜けるというか。
体が冷えていたから初めは熱く感じたお湯も、今ではちょうど良く感じる。
ふぅ……。
リリーが言った通り、絶対にまた来よっと。
みんなでまったりと癒されていると、次第にネメシリアの街も日が傾いてきた。
高台で開けたここからだと、街も、凍った川も一望できる。
肌を刺す寒さの街を、ポカポカと温まりながら眺める。
目を上に向けると空がある開放感も相まって、ちょっと贅沢すぎて悪さをしてる気分になる。
のぼせる限界まで楽しみ、温泉から上がった僕たちは施設内でキンキンに冷えた牛乳を飲んでから、しっかりと防寒具を着込んで宿に帰ることにした。
……ちなみにその晩、食堂で会ったノルーシャさんの話によると、ゴーヴァルさんの紹介状は効果があったそうだ。
親方は「うーん……考えてやらんこともない。詳しい話はまた今度だ。ゴーヴァルを呼んで席を設けよう」と言ってくれたらしい。
そして「俺が『雪妖精のかまくら』に赴く。あそこは酒もメシも旨いからな」とも。