思わぬ再開
「ひゃっ」
肩を跳ねさせ、イメージからは考えられない可愛らしい声を出した彼女。
こちらを見たその表情は、驚きでいっぱいだ。
「あ。す、すみませんっ。驚かせてしまって」
というか、それは僕の声が原因に違いない。
思わぬ再会が嬉しくて、つい突然近くで叫ぶような真似をしてしまったが。
「と、トウヤ様っ。い、いえ……」
胸に手を当て、一つ息を吐いたらノールシャさんはキリッとした表情になる。
「トウヤ様たちも、もう到着されていたのですね。またお会いできたこと、嬉しく思います。それで、こちらへは……」
「僕たちも昨日からここでお世話になってるんです。こちらのサムさんたちがカトラさんのお知り合いで。道中再会して、おすすめしてもらいまして」
説明のついでに、サムさんたちを紹介する。
近くに来てぺこりと頭を下げサムさんが、眉を上げて訊いてくる。
「なんだ、知り合いだったのか?」
「はい。前に訪れたネメシリアで商人されてるノルーシャさんです。リリーのお父さんの部下の方で……って、この説明で大丈夫でしたか?」
「問題ございません」
心配になって確認すると、ノルーシャさんは頷きながら立ち上がった。
「ノルーシャと申します。以後お見知りおきを」
サムさんたちと握手が交わされる。
「……なんだいっ。君は彼女とも知り合いだったのかぁ~」
「ちょ、ちょっとローレンス、危ないよ!」
会話を聞きつけ、体を捻ってこっちを見たローレンスさんがバランスを崩し、椅子から落ちそうになったところをモクルさんが支えてあげている。
ノルーシャさんはその光景に安堵した様子を見せると、改めて僕を見た。
「トウヤ様、お嬢様方はどちらに?」
「今は部屋に。ちょうどジャックさんから連絡があって、僕たちもノルーシャさんを探さないよなぁと思っていたところだったんです。どうしましょうか、今から部屋にお連れしましょうか? リリーたちも喜んでくれると思いますよ」
それに、せっかくだし二人を驚かせたい気持ちもある。
「では……ご挨拶よろしいでしょうか。旦那様からも、なるべく早く報告をと申しつけられておりますので」
ジャックさんとのビジネスの話については、可能な限り早くしたいということのようだ。
「じゃあ、トウヤ。またな」
「おやすみトウヤくん」
「あ。では、おやすみなさい。今日はダンジョンにも付き合ってくださってありがとうございました」
話を聞いていたサムさんたちとは、ここで別れることになる。
横に揺れながら「そうだ、トウヤだトウヤだっ」とようやく名前を思い出してくれたらしいローレンスさんのことは放置の方向で決まったらしい。
二人は手を挙げ、階段を上っていった。
ちらり、と僕とノルーシャさんの視線が、ほぼ同時に彼女のテーブルに置かれている料理に移る。
「申し訳ございませんっ! 考え事をしていたばかりに、あまり食事が進んでおらず……」
「いえいえ。でしたら部屋をお教えして、あとで来ていただきましょうか」
「め、滅相もございません。お待たせするのも悪いですので、このまま……」
「じゃ、じゃあ僕も待つので、食べ終わってから──」
「はい! ではお言葉に甘えて。なるべく早く食べますので」
食い気味にそう言うと、ノルーシャさんは席に座る。
本心ではしっかりと食べてから行きたかったみたいだ。
お腹、減ってたのかな?
僕が隣のテーブルの壁側の席に座ると、彼女はステーキを口一杯に頬張ってから付け加えた。
「私、早食いには自信がありますので」
リスみたいに頬が膨らんでるけど、眼鏡の奥にある目が大真面目に言っていると伝えてくる。
姿勢は相変わらず整ってるし。
間の抜けたアンバランスさに何と答えていいのかわからず、「はいっ」とこちらもキリッと返しておいた。
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