サウナにて
本日、コミカライズ第1巻が発売となりました!
ぜひ書店や各種通販サイトでゲットしていただけると嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。
じんわりとした暑さに汗が流れる。
体の芯からポカポカとして心地いい。
僕は今サウナの中で目を閉じ、ゆったりと癒されていた。
宿『雪妖精のかまくら』には、魔道具を用いたシャワーだけでなく男女別のサウナが完備されているのだ。
昨日は到着したばかりで疲れていたのでシャワーだけで済ませたけど、今日は入ってみた。
中はそこまで広くない。
だけど一段に三人くらい座れて、それが前後二段になっているからっ十分と言えば十分だろう。
部屋数的にも宿泊客はそんなに多くないみたいだし。
あ、そういえば僕たちとサムさん、ローレンスさん以外に泊まっているのは商人の一団だけって言ってたな。
まだ姿を見てないので、本当に忙しい方たちのようだ。
サウナの二段目に座っている僕の隣には、サムさん。
そしてその奥にモクルさんがいる。
ゴーヴァルさんが来ていないのは、ドワーフは前世の知識で想像していた通りかなりの辛党らしく、夜ご飯の席で呑みまくっていたせいだろう。
サムさんとモクルさんは、僕がサウナに来る少し前から入っていたそうだ。
日本のサウナほど高温じゃないので、体の小さい僕でもじっくり楽しめる。
ちなみに、ギルドから宿に戻り夜ご飯を食べた後、レンティア様に頼まれていたポッドパイなどの料理はしっかりと送った。
器をどうしようかなと思っていたけど、ここで役に立ったのがアイテムボックス。
料理だけを収納して、次に自分の器に取り出すことで綺麗に移すことができた。
本当にアイテムボックス様様だ。
「…………」
「…………」
そ、それにしても気まずい。
挨拶はしたけど、二人ともリラックスした様子だったのであまり話しかけるのもあれかなと思ったのが失敗だったかもしれない。
僕が目を閉じてから結構経ったけど、静寂が続いている。
モクルさんは少し毛深いだけで、熊人といっても耳以外の要素が薄かったのは意外だったなぁ。
なんて考えて時間が過ぎるのを待つ。
「……トウヤ」
うん?
僕がぼうっとしていると、いきなりサムさんに名前を呼ばれた。
目を開けて彼を見る。
「出会ったときから気になっていたこと……いや、訊きたかったことがあったんだが、質問いいかい?」
「あっ、はい。それはもちろん」
サムさんも気まずくて、気を利かせてくれたのだろうか。
何だか奥からこっちを見ているモクルさんも合わせて、二人とも真剣な表情だけど。
「僕に答えられることでしたら、何でも大丈夫ですよ」
「そうか。じゃあ……」
そこで、サムさんは一息置く。
僕が首からかけたタオルで、顔の汗を拭いた時。
「君の従魔……レイだったか。彼は、もしかするとフェンリルだったりしないか?」
「え」
フェンリル……レイ……。
あれっ、なんで?
サムさんの顔を見るが、真剣そのものだ。
額から滴る汗も拭わず、じっと目を逸らさず僕を見ている。
どこで気づかれたんだろう。
レイが発している魔力が神聖な感じがするから、カトラさんなんかも何か稀有な魔物だとは思っている。
だけど今まで、フェンリルだと気づかれたことはなかったんだけどな……。
「あっ、ごめんね」
僕が内心どう答えるべきかと焦っていると、奥のモクルさんが両手を振りながら言ってくる。
「別に僕たちは、誰かに言いふらしたりしようとは考えてないんだ。ただ、初めて会った時に『もしかして』って思ってね。ゴーヴァルやジャスミンにも話してないよ。僕とサムは、グランがパーティを抜けてすぐの頃に、偶然フェンリルを見たことがあってね。だから、気になってしまったんだ」
警戒しないでくれと暗に伝えているのだろう。
それは、もちろんだ。
サムさんたちのことは、言動の節々から感じられる雰囲気から信頼できると思っている。
それに……なるほど。
二人は以前に、フェンリルを見たことがあったのか。
木の下で出会った時、無力化を解いた状態のレイを見て、モクルさんがサムさんと目を合わせていたような記憶もある。
モクルさん、サムさんと順に顔を見る。
さらにもう少しだけ、どうしたものかと考える。
まあ、そうだな。
彼らなら本当に言っても黙っていてはくれるはずだ。
大体レイがフェンリルってことも、凄い魔物だと知られたら面倒ごとになったりするのが嫌で黙っているだけだし。
「……はい。フェンリル、らしいです。僕も、従魔にした後に知ったんですが」
だから、フェンリルを見たことがあり姿を知っているというサムさんたちには打ち明けてみることにした。