ダンジョンの魅力
「今日は付き合っていただいて、ありがとうございました」
サムさんたちがいてくれたから、短時間でここまでのスライムが湧き続けたんだ。
僕が頭を下げると、大斧を背負ったゴーヴァルさんが手を振った。
「いや、気にせんで良い。儂らも面白いものが見れたからの。良い休日の過ごせたわい」
「あとはギルドに戻ったら魔石を売って……そうだ!」
ジャスミンさんがこっちを見る。
「ステータスも確認していくよねっ? 二人ともレベル上がったってさっき言ってたし」
「はい。宿に帰る前に確認しようかと」
そう。
実は、そうなのだ。
スライムを倒していると、レベルが上がった時に特有の熱をお腹の底から感じたのだった。
なんと終わってみてから聞くと、ちょうどリリーも同じく感じていたらしい。
レベルはリリーの方が上だから、偶然タイミングが重なったのだと思う。
ダンジョールのギルドにはステータスを確認するための魔道具があるそうだ。
だから楽しみをとっておくという意味合いで、まだステータスオープンでの確認は控え、僕も今回はそれで確認してみることにした。
「よし! じゃあパパッと地上に戻って、やること済ませて帰ろうか。あ、それとも酒場で何か飲んで帰る……?」
最後に金属製のカップを収納しながらジャスミンさんがみんなに訊く。
あれこれと話しながら、僕たちは出口を目指して歩くことにした。
「そういえば、ここはずっと明るいんですね。太陽の位置も変わってないですし」
歩きながらふと気づいたことを僕が言うと、隣にいたカトラさんが空を見上げた。
「私も初めて来た時は驚いわ。ダンジョンって全てが特殊で、不思議な空間だから。ここの太陽もだけど、川がどこから来てどこへ流れていっているのかもわからないのよねぇ。谷底に落ちていっていたとしても、下の階層には水がなかったりするし」
へー、それって……。
「なんだか、現実味がないですね」
ダンジョンの魔物も、地上とは違って倒したら魔石を落として消えてしまう。
本当に現実味がない。
ここはアヴァロン様が作ったゲームのような空間。
そう考えた方がしっくりくるのかも。
「まあ、魔物の解体作業をしなくてもいいのは楽で嬉しいですけど」
「もう、トウヤ君はまたそんなこと言って。ここでの生活に慣れすぎちゃダメよ? 外にも魔物で困ってる人はいるのだし、世界は広いんだから。ダンジョン攻略に精一杯になって、この場所の価値観に縛られちゃもったいないわ」
カトラさんは『飛竜』の四人に目を向ける。
「サムさんたちが時々他の街での依頼をこなしているのも、きっとそういう理由からだと思うわ。あくまで、ここにはここの仕組みや価値観があるだけ。世界どこへ行ってでも同じというわけじゃない。せっかく冒険者としてやってるんだから、いろいろと知りたいってね」
「あー……それは、たしかに。そのために僕も旅をしてるっていう面もありますしね」
「そうそう、わかったならよろしいっ。とにかく、ダンジョンに入れ込みすぎちゃダメよ? それでこの街での生活に取り憑かれた困った冒険者もかなりいるんだから」
「……え?」
思わずオーバーに反応してしまう。
な、なんか話の着地点が怖い感じだったんだけど……。
ダンジョン専門の冒険者を続けていたら、攻略することが人生のメインになってしまうってことなのかな。
でも、ダンジョンで魔物と戦って稼いで、この街で暮らすっていうサイクルができてしまったら、たしかに気付いたら結構の時間が経っていってしまいそうな気もする。
ダンジョンはレベルを上げられ、生活に必要な魔石が獲れるという大きなメリットがある。
しかし人をこの街に止まらせてしまう、そんな厄介な魅力があることも間違いないのかもしれない。
僕なんてまだ一日来ただけだ。
それでも、危険はありつつも楽しい場所だと感じてるくらいだし。
といっても、個人的には街の中にあるのに、ダンジョンに来たら一般魔法も周りを気にせず使いまくれる、そんな観点から楽しいと思ったまでだけど。
ま、なんにせよ僕はダンジョン一本で生きていくと決心することができないのだから、程々の距離感を保っておかないとな。
そう心に決めると、空に浮かぶ動かない太陽がもう本物には見えなかった。
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