競争
「じゃあ、あそこのスライムは私が倒そうかしら」
カトラさんが立ち上がって歩きだす。
見ると、近くにスライムが現れていた。
あっ。
他にもポツポツと、周辺に魔力が集まって湧いてきてる。
このくらいの魔物相手だったら好きに行動しても大丈夫だろう。
「僕たちもあとは好きにやろうか」
横を向いて声をかけてみると、リリーは小さく首を振った。
「……いや、何体倒せたか競争」
「え、また競争?」
「うん。そっちの方がやる気が出る。それに、楽しい」
意外だな。
本当に競い合うことが好きみたいだ。
手首のマッサージをしながら、ちらっとこっちを見てくる。
他の人には変化が乏しくてわからないだろうけど……こ、この顔は挑発されてるな。
「俺たちはもともと休暇のつもりだったからな。ここで見ておくから、周辺で自由に狩ってくれ」
サムさんの言葉に頷く。
「魔石はギルドで売れる重要な収入源かつ、ダンジョールを回してる街のエネルギー源だからね。トウヤくんが回収できる分はアイテムボックスに入れて、あとはジャスミンに任せるか袋に入れて手で持って帰ろう。忘れないように回収するんだよ?」
「了解です」
続けてモクルさんからの確認にも頷き、僕はリリーに視線を返した。
ちょっとわざとらしいかもしれないけど、ニヤッと笑って。
「わかったよ、受けて立とう。次は文句なしに大差をつけて勝つから」
「トウヤ、その意気」
今度ははっきりと笑うリリー。
楽しそうにしながら、くいっと唇を結ぶ。
「よし。じゃあ、よーいスタート!」
僕が合図を出すと、お互いに反対側に分かれた。
カトラさんも離れた場所でスライムを倒している。
時々こっちを見ているので軽く流しているようだ。
レイも近場だったら大丈夫と思ったのか、走ってスライムを倒したりし始めているみたいだし、もしかするとレイのことを気にかけてくれているのかもしれない。
サムさんたちが一箇所に固まって座っているから、その辺りを中心にスライムが湧いてきている。
魔力が集まり、どこからともなく現れてくるスライムたち。
魔法を中心に、たまには腰から短剣を抜いてっと。
フストの街で見たスライム同様に体内に浮かんでいる魔石を割っても倒せるけど、こっちは普通に体に攻撃を与えるだけでも大丈夫らしい。
ジャンプでビョーンビョーンと移動するので素早いし、ゴムで弾いたみたいに体当たりをしてくる。
けれど、言ってしまえば攻撃手段はそれだけだ。
気合を入れていこう。
アトラクションやゲームの感覚でスライム討伐を楽しみつつ、集中することにする。
リリーに勝ってやるぞ!
◆
結果から言うと……うん、普通に負けた。
ちぇっ、悔しい。
時間は大体一時間半くらいかな。
その間に僕は二百六十三匹も倒せた。
しかし対するリリーは、なんと三百三十匹。
僕だって倒した数は相当なんだけどなぁ。
相手が悪かったと思う他ないだろう。
「ぶい」
勝利したリリーは、誇らしげにピースを掲げている。
まだまだ元気そうだ。僕はもうへとへとなのに。
途中からはカトラさんがスライムを僕たちに譲ってくれたが、それでも結局はリリーとの奪い合いに勝たないといけない。
最初はなんとか食いついていたんだけど、一時間を超えたあたりから徐々にスライムを横取りされることが増え……。
集中が乱れ始め、魔法の展開速度が遅くなってしまったのが悪かった。
最後まで集中力を継続できていればスライムも横取りされていなかったはずだ。
リリーはまだ元気が有り余ってるように見える。
省エネできるコツでもあるのか、それとも単に積んできた経験値が違うからなのか。
ちなみに今回倒したスライム。
見たまんまだけど、名前はグリーンスライムというそうだ。
間合いを詰めた時に鑑定してみたら、ウィンドウにこんな説明が出た。
【 グリーンスライム 】
ダンジョン固有のスライム。相手を問わず、ひたすら他生物に体当たりを繰り返す。柔らかな草を好んで食べる。
ひたすら体当たりをするってところからも知能が低いことが窺える。
体当たりのパターンも単調だし、今後も危険な目に遭うことはないはずだ。
うん。
ここでなら比較的安心して活動できるな。
まあ、まだダンジョン第一階層なんだから当然か。
カトラさんとレイも十数個は魔石を取っていたので、全員分をまとめて僕のアイテムボックスに収納する。
「今日はもう帰りましょうか」
カトラさんの呼びかけで、今日の活動は終了となった。
ジャスミンさんのアイテムボックスから野営用のアイテムを取り出し、お茶をしていた『飛竜』のみんなも撤収の準備を始める。
コミカライズ第1巻が、5/15発売予定です。
可愛らしく、のんびりしていて、めちゃくちゃ素敵なのでぜひチェックしていただけると嬉しいです。
予約のほど何卒よろしくお願いいたします!