一階層
背後には僕たちが出てきた洞窟がある。
こっちから見たら、暗闇で先が見えないようになっていた。
草原は横にも広いらしく湖や林があるエリアもあるらしい。
あまりにも広大で、ここが別の時空だと言われた方が納得できそうな気がするのも頷ける。
レンティア様曰く、創造神アヴァロン様がお造りになったそうだからなぁ。
地下に入ったのに雲が浮かぶ青空とかも本物にしか見えない。
「二階層に続く階段はまっすぐと奥に行った場所にあるのだけど……」
カトラさんが思案して続ける。
「今日は探索が目的でもないわ。トウヤ君たちの体験だから、この草原を少し見て回りましょう」
「早く、強い魔物と戦いたい」
しかしリリーが上着を脱ぎながら待ったをかける。
「もう、リリーちゃん。少しずつ肩を慣らしながら安全にいかなきゃダメよ? 私たちの第一目標はあくまである程度稼いで、楽しくダンジョンを冒険することなんだから。危険な目に遭わないことが第一だわ」
「でも、今日はサムたちもいる……」
リリーはレベルを上げて強くなりたいと言っていた。
下の階層に行けば行くほど出現する魔物は強くなり、倒した際にレベルが上がりやすくなる。
だから積極的に先に進みたいのだろう。
言葉を受けて、サムさんがリリーの肩に手を置いた。
「毎回というわけにはいかないが、そうだな……往復で日を跨ぐ第三階層に挑戦するときは、また俺たちが同行するさ。カトラも、俺たちがいたら反対はしないだろ?」
「そう、ね。日帰りできない探索も、その条件だったら。ただね、リリーちゃん。私は実力的に問題があると思ってるわけじゃないのよ? なんだったら私たち三人だけでも第十階層に行って帰ってくることもできると思ってる」
カトラさんが自信を持った様子で言うと、「ほーそこまでか。坊主たち、凄いのぉ」と横にいたゴーヴァルさんが僕に感心したように耳打ちしてきた。
十階層って、どのくらいの人たちが挑む場所なんだろう。
「それでも確実に安全を確保できる階層までしか、私が二人を連れて行くことはできないわ。だから、納得してくれるかしら?」
カトラさんが訊くと、リリーはしばらく無言で固まっている。
ちゃんと納得できるかどうか、自分の頭で考えている時の癖だ。
ジャスミンさんが「ま、第一階層の魔物でいっぱい倒せばレベルは上がるからね」と間を持たせるように頷いている。
「……うん、わかった」
数秒後、最終的にリリーはカトラさんの言い分に納得できたみたいだ。
ほんのちょっとも不満を感じさせない顔で言う。
「ありがとう、リリーちゃん。トウヤ君も大丈夫だったかしら」
「あ、はい。僕は全然。自分の身を守れるように強くはなりたいですけど、魔物とかは……あれなので」
ダンジョンの中を見たいという欲はあるが、戦いが続くのはやっぱり苦手だ。
魔物相手には、一目散に全力疾走で逃げたら大体済むし。
「ふふっ、君は出会った頃から変わらないわね」
カトラさんに笑われてしまった。
こうして、僕たちは草原を斜め左の方へと進んでみることになった。
……。
入口付近は立ち話をする冒険者も多く人口密度が高かったけど、すぐに広々とした開放を感じ始める。
周りの人が減ってから、僕たちが脱いだ上着や手袋などをアイテムボックスに入れる。
ついでにレイの無力化も解いてあげた。
その際、モクルさんが「他の冒険者が近くにいるときは気をつけて見ていてあげてね。ダンジョン内に出現した魔物だと間違われたら大変だから」と助言をくれた。
たしかにレイが攻撃されでもしたら大変だ。
本人も気をつけようと心に決めたのか、僕の真横を大人しく歩いている。
いつもは体が元の大きさに戻ったら、のびのびと走り回ったりするのにな。
この様子だと心配は必要なさそうだ。




