知名度
こんな人混みにレイを連れてくるのは心配だったけど、案外大丈夫だったな。
従魔っぽい無力化された魔物を連れた人も数人だけとはいえ普通にいるし。
無力化して連れている分には問題なさそうだ。
三人ともあたりを見ながら人が少ないゲートの横のスペースにいると、近くで同じく立ち止まっている青年たちの会話が聞こえてきた。
「なあ、さっきB級のやつらが噂になってるって教えてくれたんだが、聞いたか? 『飛竜』の依頼の件」
「おお、そういえばさっき帰ってきてたな。いんや、俺は聞いてねえが」
あ、サムさんたちの話だ。
こうしてちょうど話題になるところが耳に入ってくるくらいだから、やっぱりS級ともなると知名度が高いんだな。
頭にバンダナを巻いた方の男性が、興奮気味に話している。
ちらっと確認すると、カトラさんとリリーもこっそりと聞き耳を立てているみたいだ。
「今回は何の依頼かって話題になってたけどよ、聞いて驚け。なんと、ワイバーンの群れの大移動で被害に遭ってる村を救いに行ってたらしい。それで、最終的に五十を超えるワイバーンを倒してきたんだとよ」
「ご、五十か……っ!?」
話を聞いていた男性が、目を見開いている。
四人で五十体以上もの魔物を倒すってどれだけ凄いんだ。
それに相手はあのワイバーンって……。
僕がジャックさんと出会った時、この世界で初めて見た魔物だ。
今となっては懐かしい話だけど、あの時覚えた恐怖は今も忘れられない。
僕は一体を前にしただけで嫌な汗を掻いたのに、S級って本当に強いんだなぁ。
「……ははっ、さっすが『飛竜』だ。毎度のことながら驚かさせられるが、なんて言ったって今や生ける伝説だからな。マジで憧れるぜ」
しかし話を聞いていた男性も、すぐに落ち着きを取り戻してしみじみと腕を組んで頷いている。
こういう話、よく聞くんだ。
周りが慣れるくらい凄い逸話がいっぱいあるのかな?
今度聞いてみよう。
「お、噂をしていたら」
バンダナの男性が、ガヤガヤとした人混みの向こうを見ている。
「ん、なんかこっちに……」
つられるように僕たちも目を向けると、サムさんを先頭に『飛竜』の四人がこちらに向かってきていた。
自然と道が開き、周囲からは羨望の眼差しを一身に受けている。
会話をしていた男性たちも口を閉ざし、横を通り過ぎ、僕たちのもとに来たサムさんたちの背中を見ていた。
「すまない、待たせたか?」
「……ううん、今来たところ」
片手を挙げて謝るサムさんに、リリーが首を振る。
「ちょっと僕がいいことを思いついて人を探していてね、ごめん!」
モクルさんが集合場所に来ていなかった理由を説明してくれる。
「別に気にしないでちょうだい。それにしても、人を? 大事な用事があったんじゃ」
カトラさんが心配すると、モクルさんはサムさんと笑顔で目を合わせてから否定する。
「いやっ、そういうわけじゃないんだ。ほんと、ちょっとね。探していた人が今日はいないみたいだったから、また今度にするよ。カトラちゃんは驚くかと思うけど……」
「私が?」
「あっ、ま、まあお楽しみってことで」
「ちょっとモクル? そんなんじゃカトラが気になっちゃうでしょ」
ジャスミンさんがチッチッと指を振って指摘する。
苦笑いを浮かべたカトラさんは、モクルさんを助けるように頷いてみせた。
「まあ、だったら楽しみにしておくわね」
「ごめんね……」
会話がひと段落したところで、僕の様子を見ていたサムさんがみんなを促す。
「よし、集合もできたことだ。トウヤたちの初ダンジョンといこうじゃないか。すぐ目の前にあるのに焦らされると気になって仕方がないだろ?」
僕とリリーが力強く頷く。
サムさんは歩き出しながら続けた。
「初めてのダンジョンはきっと驚くぞ。まずは楽しむことだな」
出発進行、と拳を突き上げるジャスミンさん。
僕たちも後に続き、三番と書かれたゲートの列に並ぶ。




