ギルド
「あっ見えてきたわね。あれがこの街の冒険者ギルドよ」
大通りに出て、踏み固められた雪に滑らないように注意を払って歩いていると、カトラさんが前方を指して言った。
「あれが……?」
突き当たりに見える建物に、リリーは驚いたように目を瞬かせている。
「ふふっ、私も初めて見た時は同じ感じだったわ。どう、トウヤ君もびっくりしたでしょう」
「はい、あんなに大きなんて凄いですね……」
よいしょ、よいしょと歩きながらギルドを見つめる。
というか、正しくは大通りの突き当たりに見えるギルドの一部を。
もちろんネメシリアにあった小さなギルドよりも、カトラさんが働いていたフストのものよりも大きい。
いや、比べ物ならないくらい大きい。
ダンジョールの冒険者ギルドは、ドーム球場に似た外観をしていた。
サイズも同じくらいありそうで、この世界の建築物からは考えられないくらいの巨大さだ。
段々近づいていくと、緩やかにカーブしたレンガ造りの壁に垂れ幕がかかっているのが目に入った。
黒い幕には『剣と盾』の冒険者ギルドのロゴが入っている。
所々にある窓枠が白く塗った木を使っているので、暗い印象はない。
むしろ白い雪と合わさって、レンガの色だけが浮かび上がっている印象だ。
こんなにも大きいのにしっかり街に馴染んでいる。
ダンジョールの大通りはギルドを中心に放射状に伸びているみたいだ。
僕たちが来た大通りを抜け、最後にギルドをぐるりと囲む道を渡る。
そして人がとめどなく出ては入っていく門のような大きな扉をくぐった。
「おお、これは……!」
「すごい。ギルドだけど、ギルドじゃないみたい」
中に足を踏み入れた瞬間、僕とリリーの口から感嘆の言葉が漏れる。
外から見てあんなに大きかった建物の中心部分が吹き抜けになっていたのだ。
右を見ても左を見ても冒険者ばかり。
今いる一階の中心にはゲートのようなものや、受付カウンターが見える。
外周部の壁には依頼の他にも情報が載った紙などが貼られた巨大な掲示板、『パーティに関する手続きはこちら』と書かれた窓口などもある。
程よく暖かいし、耳当てと手袋とかは外しておこうかな。
「人が多いからはぐれないようにね」
僕たちの反応を見て微笑ましげにしているカトラさんが、奥へと先導してくれる。
「サムさんたち、見つけられるかしら。あの辺りで待ち合わせのはずだけれど」
中心にあるゲートのうち、三番で待ち合わせという話になっている。
……それにしても、冒険者っていろんな人がいるんだなぁ。
カトラさんの後ろに続きながら、周りにいる冒険者を見る。
屈強な男性から細身の女性、老人や若い十五歳くらいの子まで。
装備が違うだけでなく、エルフやドワーフ、獣人がいたりと種族までバラバラだ。
こんなに冒険者が集まってるといろんな人がいて面白い。
だけどさすがにこの街でも十歳の冒険者は珍しいのだろう。
すれ違った何人かには物珍しげに目を向けられる。
「あ、二階に酒場があるんですか?」
三番と書かれたゲートの近くに来たがサムさんたちが見当たらない。
吹き抜け部分から上の階で飲食をしている人が見えたので、僕が尋ねるとカトラさんが教えてくれる。
「ええ、そうよ。ここのギルドは見ての通り何もかも規模が大きいでしょう。二階の酒場はぐるっと中央を除いて席が並んでいて壮観よ? それに、いつ来ても繁盛しているのよねぇ」
楽しい思い出でもあるのだろうか。
そう言って「サムさんたち、まだ来てないみたいだから隅で待っていましょうか」と続けるカトラさんは、懐かしいものを見たかのように幸せそうな目をしていた。
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