距離感
「さあ本題に入ろう。ようやく、迷宮都市に到着したようだね」
口では話題を変えながらも、まだニヤニヤとからかってきてるし。
僕が頬を掻いていると、レンティア様は脚を組んで続ける。
「やっぱり下界の移動は時間がかかる。でも、アンタの旅は見ていて楽しいよ。特に仕事終わりにボーッと見られてね」
「それ、褒めてます? つまらないって意味じゃ……」
「褒めてるさ。楽しそうにのんびりと進んでいってるし、今日だってまた面白そうなヤツたちが集まってきたじゃないかい」
「今日は見守ってくださっていたんですか?」
「ああ。今日で迷宮都市に到着できそうだったからね。ネメステッドのヤツも今は呼んでないが、個人的に見ていたはずだよ」
お二方とも……。
初めは見られることに緊張もしていたけれど、今となっては心強さを覚えている。
何しろ神様だ。
きっとご加護があるはず。
「そうだったんですね、嬉しいです」
「ふふん。……ま、でだ。迷宮都市ではダンジョンに潜るんだろう?」
「はい。冒険者としての生活を楽しみながら、いろいろと学んで、見て、とにかく満喫したいと思います。それこそ今日出会えたジャスミンさんに魔法を教えてもらうのも楽しみですね」
「なるほど。その意気だったらアタシも退屈しないで済みそうだ。そこのダンジョンはアヴァロンのヤツが信仰を集めるために作ったものだからね。アタシの使徒であるアンタだったら、もしかすると色々と面白い経験ができるかもしれないね」
レンティア様はわくわくしているみたいだ。
組んでいた腕から右手を出し、人差し指を立てて振る。
「期待してるよ」
「お、面白い経験ですか?」
「まあ、アタシだって実際にアンタが経験できるとは言い切れないけどね。とにかく、これについてはお楽しみだ。詳細を言ったりはしないよ」
思わせぶりなことを言っておいて、何も教えてはくれないのか。
「な、なんだいその目は。アタシはじゃがバターをアーンしてもらって『うへへっ、幸せ……』ってニヤけてるようなアンタを見て楽しんでるんだから、絶対に言わないよ」
「あ、ちょっと! それはもう言わないでくださいよ……っ!」
「あははっ、また顔を真っ赤にして。可愛いじゃないか可愛いじゃないか」
くっ。
わざわざアーンされたとか言わないでもいいのに。
お腹を抱えて笑われて、なおさら恥ずかしくなる。
僕が頭を抱えて悶絶していると、「……ハァ」と笑い疲れた様子のレンティア様が言った。
「十分に楽しめたし、今夜はここまでにしておくかね。トウヤ、新しい街に到着したんだ。楽しむんだよ」
最後と言った途端、いきなり女神様らしい慈悲深い微笑みを向けてくる。
まったく……。
たまに見せるこのギャップに調子がおかしくなるんだ。
だけど以前よりも仲良くなれている気がして、使徒としてだけでなく一個人として嬉しいのは事実だった。
女神様相手だから、本当に恐れ多い話ではあるのだけど。
「はい、楽しみます!」
「……ああ、いい返事だ。それじゃあ、またね」
レンティア様がパチンッと指を鳴らす。
どうか引き続き見守っていてください。
そう思いながら僕の意識は遠くなっていき、次の瞬間、目を開けると昨夜から変わらないベッドの中だった。
カーテンの隙間から明るい光が差し込んでいる。
朝みたいだ。
僕が起き上がろうとしていると、
『あ、言い忘れてたが昨日アンタが食べてたポットパイと蜂蜜サイダー、よろしく頼んだよ』
脳内にレンティア様の声が響いた。
言い忘れって……また軽いノリで。
まあ、了解です。
今晩あたりにでもお送りします。
『おお、ありがとうね! やっぱアンタ、できる使徒じゃないか。いやーアタシに見る目があって良かったよ。じゃ、今回こそ本当に。アタシは仕事を再開するよ』
きょ、今日も仕事の間だったんですか。
頑張ってください。
上機嫌だったから、珍しく休日なのかと思ってたんだけど。
なんとなく感じていた気配がなくなる。
多忙な女神様に貢物を送るミッションは、しっかりとこなそう。
今があるのもレンティア様のおかげだからな。
彼女には、僕の旅を一緒に楽しんでもらいたい。
1月12日頃、書籍4巻が発売になります。
もうすぐですので、何卒よろしくお願いいたします!!




